12 / 12
二
しおりを挟む
「どうしたんだ、遅かったじゃないか?」
その夜、宴がたけなわになってからメリジュスはやっと二人の前に顔を出した。
メリジュスはにっこりと笑って、被衣をとった。ジェルディンの碧の瞳は一瞬見開かれ、そして背けられた。見れば、そのどす黒くなった痣がうつると言わんばかりに。
彼の後ろでレイミィが息をのんで口をおさえた。近くの客が酔いの醒めた顔でメリジュスを凝視している。給仕女は悲鳴をあげそうになった。
「ひどいでしょう? 昨夜気づいたんです。痣がどんどんひろがっていたことに。色も黒くなって。背中も足も、痣だらけでした」
もしかしてそれは先日、初潮をむかえて身体が変わってきたことが原因なのかもしれない。この、妙に気がたかぶって、感情をおさえられなくなってしまったのも。
近くの席にいた領主夫人が悲鳴をあげた。
鮮血があたりに散り、ジェルディンがその場にくずれ落ちる。
「伝説の人魚姫は愚かね。……一瞬の夢のために破滅して……わたしも哀れな人魚姫」
狂っている……宴の席にも顔を出していた商人がつぶやいた。領主も、駆けつけてきたアルディンも呆然として突っ立ったまま、メリジュスの手にしているナイフからしたたる血を凝視ししている。
沈黙のなか、声をあげたのは結婚式もあげるまえに未亡人になってしまった初々しいレイミィだった。
「いいえ、あれは人間たちが勝手に夢見たおとぎ話よ。現実に陸にあがって人間と情を通じたのは姫ではなくて、王子なのよ。あなたは海の王子が人間の女と情を通じて生まれた娘なの」
レイミィは嬉しそうに床にあふれる恋人の血を見つめ、それを白い手ですくいとった。
「わたしもそうよ。わたしはあなたより耳が良かったようで、初潮をむかえてから、海の父王の声が聞こえるようになったの。異母妹をさがして海に戻ってくるように、と」
濡れた手がメリジュスの頬や首を撫でた。
その瞬間メリジュスの内で何かが炸裂した。
嬉々としてレイミィは赤い滴りを人目も気にせずドレスをまくりあげ、自分の不自由な足に塗りたくった。
「これでいいわ。わたしたちが海に戻るためには若い男の血がいるの。わたしがするつもりだったけれど、手間がはぶけたわ。これで、あなたの痣は鱗になり、わたしの足も正しい形に変わるの。さぁ、行きましょう。妹よ」
巨大な墓場のようになってしまった宴の広間を後に、驚愕のあまり自失している人々を尻目に、海王の姉妹たちは手をつないで優雅にすすんだ。足取りはゆっくりなのに、誰も彼女たちをつかまえられない。
その夜、老いた漁師は崖から二人の娘が海に飛びこむのを見た。二人は楽しそうに笑っていたという。さらに老いた漁師は目をこらして、黒い波間にそれを見た。
上半身は美しい赤毛と、銀髪の少女。月光に照らされた夜目にも白い胸が漁師の目を奪った。だが……その下半身は。
漁師は腰を抜かしそうになって、もう一度波間に目をむけ、それを見た。
巨大なうねる二匹の海蛇を。
終わり
その夜、宴がたけなわになってからメリジュスはやっと二人の前に顔を出した。
メリジュスはにっこりと笑って、被衣をとった。ジェルディンの碧の瞳は一瞬見開かれ、そして背けられた。見れば、そのどす黒くなった痣がうつると言わんばかりに。
彼の後ろでレイミィが息をのんで口をおさえた。近くの客が酔いの醒めた顔でメリジュスを凝視している。給仕女は悲鳴をあげそうになった。
「ひどいでしょう? 昨夜気づいたんです。痣がどんどんひろがっていたことに。色も黒くなって。背中も足も、痣だらけでした」
もしかしてそれは先日、初潮をむかえて身体が変わってきたことが原因なのかもしれない。この、妙に気がたかぶって、感情をおさえられなくなってしまったのも。
近くの席にいた領主夫人が悲鳴をあげた。
鮮血があたりに散り、ジェルディンがその場にくずれ落ちる。
「伝説の人魚姫は愚かね。……一瞬の夢のために破滅して……わたしも哀れな人魚姫」
狂っている……宴の席にも顔を出していた商人がつぶやいた。領主も、駆けつけてきたアルディンも呆然として突っ立ったまま、メリジュスの手にしているナイフからしたたる血を凝視ししている。
沈黙のなか、声をあげたのは結婚式もあげるまえに未亡人になってしまった初々しいレイミィだった。
「いいえ、あれは人間たちが勝手に夢見たおとぎ話よ。現実に陸にあがって人間と情を通じたのは姫ではなくて、王子なのよ。あなたは海の王子が人間の女と情を通じて生まれた娘なの」
レイミィは嬉しそうに床にあふれる恋人の血を見つめ、それを白い手ですくいとった。
「わたしもそうよ。わたしはあなたより耳が良かったようで、初潮をむかえてから、海の父王の声が聞こえるようになったの。異母妹をさがして海に戻ってくるように、と」
濡れた手がメリジュスの頬や首を撫でた。
その瞬間メリジュスの内で何かが炸裂した。
嬉々としてレイミィは赤い滴りを人目も気にせずドレスをまくりあげ、自分の不自由な足に塗りたくった。
「これでいいわ。わたしたちが海に戻るためには若い男の血がいるの。わたしがするつもりだったけれど、手間がはぶけたわ。これで、あなたの痣は鱗になり、わたしの足も正しい形に変わるの。さぁ、行きましょう。妹よ」
巨大な墓場のようになってしまった宴の広間を後に、驚愕のあまり自失している人々を尻目に、海王の姉妹たちは手をつないで優雅にすすんだ。足取りはゆっくりなのに、誰も彼女たちをつかまえられない。
その夜、老いた漁師は崖から二人の娘が海に飛びこむのを見た。二人は楽しそうに笑っていたという。さらに老いた漁師は目をこらして、黒い波間にそれを見た。
上半身は美しい赤毛と、銀髪の少女。月光に照らされた夜目にも白い胸が漁師の目を奪った。だが……その下半身は。
漁師は腰を抜かしそうになって、もう一度波間に目をむけ、それを見た。
巨大なうねる二匹の海蛇を。
終わり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる