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授かりもの 一

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(あんたはね、特別なさずかり者なんだよ)

 その言葉を聞かされたとき、メリジュスは泣きたいような、笑いたいような気持ちになった。そして、そんなメリジュスの想いを察してか、母はいっそう厳しい顔つきになって眉をよせて言いつのった。

(あんたはね、特別な子なんだよ)

(特別って、母さん、それはどういうことなの?)

 言葉の意味を問うても母はけっして教えてはくれず、そうして病で亡くなった。母が死んでから、べつの使用人たちが母について教えてくれたことは、母も父親の知れない娘であり、十四歳でやはり父親の知れないメリジュスを生んだということだ。

 メリジュスの父という男は、屋敷で宴がひらかれたとき招かれた異国の貴族の男だそうだ。たまたま給仕についた母が彼の目にとまり、その晩にお手がついたらしい。そして三日ほどの滞在のあと何も言わず去って行ってしまったという。珍しくもない。

 そしてこの地では、そういった父親のいない子どものことを《人魚の落し子》と呼ぶ。

 長じるにしたがってメリジュスは《人魚の娘》と呼び習わされるようになった。その言葉には侮蔑の意図もあれば、原始の神々を信仰するこの地方特有の大らかさもふくまれており、父の知れない子は皆自然のもたらしたものという寛容な意味もこめられている。

 三年ほどまえ、屋敷での宴の折り、旅の吟遊詩人がメリジュスに小声で教えてくれたことがあった。

「あんたはこの地に生まれて幸せなんだよ」

 母親を亡くした最初の秋の実りのころで、村人や屋敷の人々の楽しげな笑い声が無数の針のように、メリジュスの心に刺さっていた。

「よそじゃ、父無し子には、世間は冷たいものだぜ。まっとうな仕事になんかつけやしない。ほかの土地に生まれていたら、あんたみたいな娘は、ご領主様のお屋敷なんぞでは、絶対雇ってもらえなかったぜ。せいぜい酒場の女給で、行く末は娼婦にでもなるしかないぐらいだ。男ならその日仕事で一生終わるもんさ。あんた、幸せだよ」

 だから俺は吟遊詩人になんったんだ……。男は自分も父親が知れないから、と小声でつけくわえた。

「あら、あなた、これでもわたしが幸せ者だっていう?」

 いつもしっかりとかぶっている灰色の被衣をメリジュスは払いのけてみせてやった。後ろでまとめていた赤毛の髪が波のようにゆれ、吟遊詩人は一瞬、目を見開き、それからすぐその目を伏せた。

 つねに被衣をかぶっているせいで、メリジュスの頬や首筋は日焼けすることのない深窓の貴族の令嬢のように美しい真珠色だが、ぽつり、ぽつりと、左頬から顎、首筋にとかけて、まるで墨でも塗ったかのような青黒い痣がいくつもちらばっている。
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