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五
しおりを挟むシスター・マーガレットが言うには、不審な死を遂げた生徒にかんしてはいっさい心当たりが無く、自分は何もしてないの一点張りだそうだ。カウンセリングできついことを言うのも生徒たちを生まれ変わらせるための儀式なのだと主張する。
シスター・アグネスや杉によると、自殺した少女は本人の意志だったそうで、悲しいことだが自分たちには何も出来なかったといい、流産や死産は事故で、あくまでも自然の成り行きだと言いはる。食事に入れられていた妊娠中良くない食物も、量的には問題がないので、そう言われると証拠不充分になる。
ただ、学院長に関しては、警察の取り調べにたいしても、「淫売が死ぬのは神の意志」だとか、「流産した娘たちは天罰が当たったのだ」とかいうような暴言や妄言を平然と言うので、近く精神鑑定を受けることが予定されている。
「ここも、もう終わりだな」
ちょうど夏休み中の出来事だったので、ほとんどの生徒は家に帰省しており、そこで学院の突然閉鎖の知らせを受けたはずだ。
別館にのこっていた生徒たちもすこしずつ帰り支度をすすめており、半ばは実家に戻った。寮には数人の生徒がまだ残っており、美波もそのうちの一人だ。晃子も今後どうするのか、できれば相談にのってやりたいとは思うが……。
「働いていた人たちはどうなるのかしら?」
「一応、相談所を置いているらしいが……、ほとんど実家と連絡を取っていないっていう人がほとんだから、住む場所から探さないといけないだろうな」
学院の中しかろくに知らない人間がいきなり外の社会へ出て適応できるのか、美波は気になるが、美波も他人のことどころではない。これから実家に帰って、また新たな行き場所を見つけなければならないのだ。
「あのね……」
司城にすべてを打ち明けたくなったが、口は別のことを漏らしていた。
「なに?」
「あの……、抜け道ってなんだったの? どこから学院へ入ってきたの?」
「ああ……」
司城は困ったなぁ、というふうに苦笑した。
「実を言うと、パトリックが門を開けてくれたんだ」
「え……?」
美波がとまどったのはその答えよりも、司城の陽に焼けた頬がかすかに赤らんでいるせいだ。
美容師として学院に出入りするうちに、正門のところで出会うパトリックとときどき話をするようになったのだという。
パトリックは正門近くの詰め所を住居としており、そこは小さいながらもシャワーやトイレ、キッチンもありちょっとしたワンルームマンション並みの設備が整っているらしい。時にそこへ遊びに行き、泊まることもあるのだと司城は頬を赤らめつつ決まり悪げに言う。
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