聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「苗字や名前は自治体の責任者となる市村長のトップ、つまり市長とか町長がつけることができ、学童期になれば義務教育も受けれるし、免許や保険証もつくれ、パスポートも当然持てる。普通の人生を送ることができたはずなのに。パトリックは学院と院長によって一生をこの学院に縛り付けられ、飼い殺しにされることになってしまったんだ」

 基本的な教育はシスターたちによって受けたし、衣食住に不便はなかったろうが、周囲はほとんど女ばかりという閉鎖的で特殊な環境で三十年以上生きてきたパトリックの人生というのはどういうものなのだろう。同じ年頃の友人もなく、遊び相手もなく過ごした思春期や少年期とはどんなものだったのか。美波は少し湿っぽい気持ちになる。

 ちなみに雪葉は今近くの病院に入院中だ。母子ともに命に別状はないようだ。美香は赤ん坊を連れて実家に帰った。今後どう生きるかは彼女たちしだいである。

「いったいどこまで人の命や運命をもて遊べば気が済むんだろうな、あの魔女は」

 怒り顔の司城だが、その声からはほのかに悲しみも感じる。

 その目もここにいない誰かを見ているようだ。妹のことを思っているのだろうか……。

「でも……すごく気になるんだけれど……、パトリックのお父さんていうのか、学院長の相手って誰なの?」
 
 そのことは学院長は誰にも言わなかったそうで、シスター・グレイスにも言ってないようだ。そのシスター・グレイスは警察からオーストラリアの本部という所へ何度か電話したそうだが、今のところ連絡が取れないという。このまま日本へ戻って来ないのかもしれない。ここでも財団がなんらかの手をまわしたようだ。

「多分、神父か、研修とかでたまに来る関係者じゃないか? パトリックの容貌からしたら外国人だろう。まぁ、母親が外国人だから断言はできないけれど」

 それは謎のままだ。

 シスター・アグネスやシスター・マーガレットについても伝え聞いた話は美波にとっては印象的だった。

 二人とも過去にはここの生徒だったらしい。

 シスター・アグネスはここで生まれ、いったんは養子に出されたものの、どういう経緯でかこの学院に入れられたそうだ。いろいろ思うことあって神の使徒として生きる決意をしたのだという。
 
 二人とも自分たちは間違っていない、この学院のあり方は正しいと言っているそうだ。

「なんか、カルトに洗脳された信者だな。この場合まさにそうだけれど」

 しかし、シスター・マーガレットの言い分は、必ずしも全否定できないものだった。
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