聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「夕子は知ってる。このまえの子」

「口堅い子かい?」

「ぜったい大丈夫」 

 とにかく美波が出てきた窓の下へ戻ると、そこから当の夕子が顔を乗り出していた。

「良かった、美波、大変よ、また雪葉が具合悪くなったみたいなの」

「え?」

 窓から顔を乗り出している夕子は、一瞬司城と目を合わせた。そして、曖昧に会釈する。司城も軽く頭を下げた。

「とにかく、中に入るといい。肩車してやるから」

 内心照れながらも、美波は肩車をしてもらう。裾が乱れるのが気になるが、恥ずかしがっている場合ではない。

「夕子、そこどいていて」

 苦労しながらも、どうにか窓から中へ入る。

「うう……」

 かなり滑稽な恰好になったが、美波はどうにか足を内側に入れ、厨房のガス台の辺りに足をつけれた。

「ああ!」

 安堵と疲労の声をあげた美波に、窓の外から司城の声が聞こえてくる。

「いいか、何かあったらメールしろ。もし、どうにもならなかったら、もうそのときは警察を呼べ。来るだけは来てくれるかもしれない」

「わ、わかった」

 すぐに窓を閉め、出していた椅子を食堂へと片付けると、美波はあらためて夕子に向きなおった。万が一のことを考えて明かりはつけていないので、薄闇のなか、かなり緊張する作業であった。

「そ、それで、雪葉は?」

「なんだかまたうんうん唸っているの。二階の部屋を使っている子――その子も妊娠中なんだけれど……、その子が杉さんを呼びに行ったんだけれど、部屋には鍵が閉まっていて、廊下で会ったあたしに相談してきたんだ。あたしはトイレに起きたふりしていたから」

「とにかく、行ってみよう」




 二人で二階の雪葉の部屋へ行くと、雪葉はベッドに横たわり苦しげに眉を寄せ、額には汗を浮かべている。

「雪葉、なにか悪いもの食べた?」

「今夜の夕食は、鯖の煮つけだった……」

 味噌汁、漬物、サラダ……他になにを口にしたか。二人は考えこんだ。 

「えーと、飲み物は……あたしはココア飲んだかな。今日はコーヒーやめてココアにしたんだ。甘くてちょっとくせがあって、でも美味しくて」

 夕子の言葉に美波は気を引かれた。

「癖?」

「うん。あれは、なんていうんだったけ……、あの香のいいの」

「スパイス? ハーブみたいなの?」

 例をあげる美波に夕子は首をひねった。
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