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六
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「夕子は知ってる。このまえの子」
「口堅い子かい?」
「ぜったい大丈夫」
とにかく美波が出てきた窓の下へ戻ると、そこから当の夕子が顔を乗り出していた。
「良かった、美波、大変よ、また雪葉が具合悪くなったみたいなの」
「え?」
窓から顔を乗り出している夕子は、一瞬司城と目を合わせた。そして、曖昧に会釈する。司城も軽く頭を下げた。
「とにかく、中に入るといい。肩車してやるから」
内心照れながらも、美波は肩車をしてもらう。裾が乱れるのが気になるが、恥ずかしがっている場合ではない。
「夕子、そこどいていて」
苦労しながらも、どうにか窓から中へ入る。
「うう……」
かなり滑稽な恰好になったが、美波はどうにか足を内側に入れ、厨房のガス台の辺りに足をつけれた。
「ああ!」
安堵と疲労の声をあげた美波に、窓の外から司城の声が聞こえてくる。
「いいか、何かあったらメールしろ。もし、どうにもならなかったら、もうそのときは警察を呼べ。来るだけは来てくれるかもしれない」
「わ、わかった」
すぐに窓を閉め、出していた椅子を食堂へと片付けると、美波はあらためて夕子に向きなおった。万が一のことを考えて明かりはつけていないので、薄闇のなか、かなり緊張する作業であった。
「そ、それで、雪葉は?」
「なんだかまたうんうん唸っているの。二階の部屋を使っている子――その子も妊娠中なんだけれど……、その子が杉さんを呼びに行ったんだけれど、部屋には鍵が閉まっていて、廊下で会ったあたしに相談してきたんだ。あたしはトイレに起きたふりしていたから」
「とにかく、行ってみよう」
二人で二階の雪葉の部屋へ行くと、雪葉はベッドに横たわり苦しげに眉を寄せ、額には汗を浮かべている。
「雪葉、なにか悪いもの食べた?」
「今夜の夕食は、鯖の煮つけだった……」
味噌汁、漬物、サラダ……他になにを口にしたか。二人は考えこんだ。
「えーと、飲み物は……あたしはココア飲んだかな。今日はコーヒーやめてココアにしたんだ。甘くてちょっと癖があって、でも美味しくて」
夕子の言葉に美波は気を引かれた。
「癖?」
「うん。あれは、なんていうんだったけ……、あの香のいいの」
「スパイス? ハーブみたいなの?」
例をあげる美波に夕子は首をひねった。
「口堅い子かい?」
「ぜったい大丈夫」
とにかく美波が出てきた窓の下へ戻ると、そこから当の夕子が顔を乗り出していた。
「良かった、美波、大変よ、また雪葉が具合悪くなったみたいなの」
「え?」
窓から顔を乗り出している夕子は、一瞬司城と目を合わせた。そして、曖昧に会釈する。司城も軽く頭を下げた。
「とにかく、中に入るといい。肩車してやるから」
内心照れながらも、美波は肩車をしてもらう。裾が乱れるのが気になるが、恥ずかしがっている場合ではない。
「夕子、そこどいていて」
苦労しながらも、どうにか窓から中へ入る。
「うう……」
かなり滑稽な恰好になったが、美波はどうにか足を内側に入れ、厨房のガス台の辺りに足をつけれた。
「ああ!」
安堵と疲労の声をあげた美波に、窓の外から司城の声が聞こえてくる。
「いいか、何かあったらメールしろ。もし、どうにもならなかったら、もうそのときは警察を呼べ。来るだけは来てくれるかもしれない」
「わ、わかった」
すぐに窓を閉め、出していた椅子を食堂へと片付けると、美波はあらためて夕子に向きなおった。万が一のことを考えて明かりはつけていないので、薄闇のなか、かなり緊張する作業であった。
「そ、それで、雪葉は?」
「なんだかまたうんうん唸っているの。二階の部屋を使っている子――その子も妊娠中なんだけれど……、その子が杉さんを呼びに行ったんだけれど、部屋には鍵が閉まっていて、廊下で会ったあたしに相談してきたんだ。あたしはトイレに起きたふりしていたから」
「とにかく、行ってみよう」
二人で二階の雪葉の部屋へ行くと、雪葉はベッドに横たわり苦しげに眉を寄せ、額には汗を浮かべている。
「雪葉、なにか悪いもの食べた?」
「今夜の夕食は、鯖の煮つけだった……」
味噌汁、漬物、サラダ……他になにを口にしたか。二人は考えこんだ。
「えーと、飲み物は……あたしはココア飲んだかな。今日はコーヒーやめてココアにしたんだ。甘くてちょっと癖があって、でも美味しくて」
夕子の言葉に美波は気を引かれた。
「癖?」
「うん。あれは、なんていうんだったけ……、あの香のいいの」
「スパイス? ハーブみたいなの?」
例をあげる美波に夕子は首をひねった。
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