聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 いぶかしむ美波に美香は苦笑してみせた。

「だって、……男の子なら、こんな苦労せずにすむから」

 どこか悲しい母親の顔である。




 美香を見舞ったあとで二階の雪葉の部屋へ行くと、ベッドでは美香よりも、ずっと疲れはてた顔をした雪葉が座りこんでいた。薄暗い部屋で暗い顔をしている雪葉は老婆のようで、美波は内心たじろいだが、顔には出さないようにつとめた。

「どうだったの、赤ちゃん?」

 雪葉はぼんやりとした顔で訊く。

「問題ないみたい。可愛い男の子だったわ」

 その言葉は雪葉の神経を刺激したようだ。雪葉はまだそう大きくもない自分の下腹を毛布のうえから撫でながら、挑戦的な目をした。

「この子だって、男の子よ、きっと」

 それには何とも言えない。美波は口を閉じていた。

「……それより、パパに連絡してくれた?」

「……ごめん、出来ない」

 雪葉の目から涙があふれた。

「なんで……。こんな状態で、どうして電話ひとつしてはいけないのよ?」

 そのときドアが開いて夕子が入ってきた。その顔は引き締まって見える。

「雪葉、辛いだろうけれど、本当のこと言うわ。あんたの〝パパ〟は、あんたが子どもを産むことを望んでいないわ」

 夕子のあまりの直截的な言い方に、雪葉の顔がこわばる。美波も手をにぎりしめた。

「……何言い出すのよ?」

「雪葉、これは事実よ。本当にあんたの身体や子どものことを思っていたら、この学院には絶対入れなかったって」

「夕子……」

 美波は止めようとしたが、次の言葉が出ない。夕子の吊り上がった目がきらめくのは、自分は正しいことをしているのだという信念があるからだろう。

「もう、こうなったらすべてて言うわ。あんたのパパがあんたをこの学院にやった本当の理由は、子どもを堕ろさせるためよ。それも、なるべく自然流産か死産に思える形で、あんたがあきらめて納得がいくように。ここは、それを目的とした……っていうか、そういうビジネスを請け負っている学院――、の名を借りた赤ちゃんビジネスの場所なのよ」

 夕子は一瞬、口を閉じてから、言葉をさがすように迷うような表情になった。

「ビジネスと、さらに言うなら狂信者たちの自己満足の活動の場であり、おまけに遺伝学の研究のためのサンプル集めよ」

 やたら難しい言い方に、雪葉がむっとした顔になる。

「……あんた、何言ってるの?」

 聞いた言葉の不可解さもあってか、雪葉は長い眉を吊りあげた。
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