182 / 210
三
しおりを挟む
早く逃げないと。早くあの恐ろしい魔女たちから逃げないと、という想いでいっぱいだった。
「い、いったい何なの、あの人たち……! 何言っているのよ?」
二階あたりまで逃げてくると、どうにかその言葉を吐いた。
「しっ!」
夕子に引っぱられるようにしてどうにか三階までたどり着く。
「思っていたのより、もっとひどいね、ここは」
「……ど、どういうことなのよ、あれ」
会話の内容から察すると、シスター・アグネスは雪葉の子を死なせたいと思っているようにしか取れない。
いや、それだけではない。かつて彩花の死にもかかわっていたことは間違いない。彩花は飛び降りて死んだことは事実だが、シスターによってそう追い詰められたのだ。
廊下の暗闇のなかで、夕子は小声で囁いた。
「雪葉のお腹の子の父親の要望なのよ。そのために学院はお金をもらっているんだ」
「ど、どういうことよ?」
美波は泣きそうになっていた。
「お腹の子の父親は、きっと子どもを産んで欲しくないんだよ。それで、学院側に内密に処置してもらうように頼んだんんじゃない? 勿論、母親である雪葉はそのことを知らないでいる。……雪葉はきっと何も知らず、無事赤ちゃんを産むことだけを願ってここへ来たんだと思う」
「そ、そんな……! 母親の気持ちを無視して子どもを……堕ろさせるなんて、していいの? 犯罪じゃないのよ、それ」
「そう。犯罪だって。ここはそういう所なんだって」
夕子はあっさり言ってのけた。
「どう、赤ちゃんの様子?」
翌日の夕食後、美波は美香が休んでいる一階端の部屋をおとずれた。
美波を一目見て、美香はやややつれた顔で微笑んだ。こんなふうに美香が笑うのを見たのは初めてな気がして、、美波はすこし面映ゆい。
「元気みたい。すやすや眠ってる」
美香の隣のベッドには小さな古いベビーベッドがあり、そこでは生まれて間もない赤ん坊が心地よさそうに眠っている。
こんな設備らしい設備もない所で赤ん坊の健康に問題ないのかと心配で仕方なかったが、幸いにも赤ん坊はすこやかな眠りをむさぼっている。
(健康な子で良かった)
美波は心から安心した。
「男の子? 女の子?」
「男の子だって。良かった……」
「い、いったい何なの、あの人たち……! 何言っているのよ?」
二階あたりまで逃げてくると、どうにかその言葉を吐いた。
「しっ!」
夕子に引っぱられるようにしてどうにか三階までたどり着く。
「思っていたのより、もっとひどいね、ここは」
「……ど、どういうことなのよ、あれ」
会話の内容から察すると、シスター・アグネスは雪葉の子を死なせたいと思っているようにしか取れない。
いや、それだけではない。かつて彩花の死にもかかわっていたことは間違いない。彩花は飛び降りて死んだことは事実だが、シスターによってそう追い詰められたのだ。
廊下の暗闇のなかで、夕子は小声で囁いた。
「雪葉のお腹の子の父親の要望なのよ。そのために学院はお金をもらっているんだ」
「ど、どういうことよ?」
美波は泣きそうになっていた。
「お腹の子の父親は、きっと子どもを産んで欲しくないんだよ。それで、学院側に内密に処置してもらうように頼んだんんじゃない? 勿論、母親である雪葉はそのことを知らないでいる。……雪葉はきっと何も知らず、無事赤ちゃんを産むことだけを願ってここへ来たんだと思う」
「そ、そんな……! 母親の気持ちを無視して子どもを……堕ろさせるなんて、していいの? 犯罪じゃないのよ、それ」
「そう。犯罪だって。ここはそういう所なんだって」
夕子はあっさり言ってのけた。
「どう、赤ちゃんの様子?」
翌日の夕食後、美波は美香が休んでいる一階端の部屋をおとずれた。
美波を一目見て、美香はやややつれた顔で微笑んだ。こんなふうに美香が笑うのを見たのは初めてな気がして、、美波はすこし面映ゆい。
「元気みたい。すやすや眠ってる」
美香の隣のベッドには小さな古いベビーベッドがあり、そこでは生まれて間もない赤ん坊が心地よさそうに眠っている。
こんな設備らしい設備もない所で赤ん坊の健康に問題ないのかと心配で仕方なかったが、幸いにも赤ん坊はすこやかな眠りをむさぼっている。
(健康な子で良かった)
美波は心から安心した。
「男の子? 女の子?」
「男の子だって。良かった……」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる