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魔女サマンサ 一
しおりを挟む「ねぇ……、夕子、お願い、協力して」
朝の作業に行こうとする生徒の群のなか、美波は咄嗟に夕子の袖を引き、人気のいない物置場にひっぱりこんだ。
夕子は無言である。
「夕子、厨房の係でしょう? 誰かが雪葉の料理に何か入れてないか見張っていて欲しいの。ううん、見張るのが無理なら、注意して見ておいてほしいの」
雪葉の体調が急に悪くなったのには、なにか原因があるのではないかと司城にも言われ、美波も疑うようになっていた。
だが美波の頼みに、かえってきた夕子の答えは意外なものだった。
「……前からやってるわよ」
「え?」
夕子が息を吐く。物置のたかい小窓から差し込む光に照らされた顔は、以前にくらべれば随分傷も浅くなり、かすかに跡が残っている程度だ。
「もしかしたら、杉さんかレイチェルが雪葉の料理に何か入れてるんじゃないかって、こっそりうかがっていたんだけれど……そんな様子はなかった」
ここしばらくひどく気力をなくして虚勢されてしまっていたように見えた夕子だが、けっして唯々諾々と盲従していたわけではなかったことに美波はかすかな安堵を覚えた。
「それに、考えてみれば、どこに座るかは決まってないわけじゃん? 雪葉の料理にだけ毒を盛るなんて無理じゃない?」
「それは……そうだけれど」
言われてみて、たしかにそうだと美波は内心溜息をついた。
「……でも、もう少し様子を探ってみる。絶対、この学院、普通じゃない。なんだか、もっと悪いことを隠している気がする」
夕子の吊りあがり気味の目には活力のようなものが戻って来ている。いや、最初から決して失われてはいなかったのだ。
「厨房のおばさんがこっそりゴミ捨て場でいろいろ教えてくれたのよ。おばさんも元は生徒だったんだけれど、おばさんが言うには、学院長は魔女なんだって」
「魔女?」
今や笑おうにも笑えない。
「そう。魔女。おばさんたちは当時シスターだった学院長のことを、魔女サマンサって呼んでいたんだって。シスター・サマンサは魔女だ、魔女サマンサだって」
サマンサというのは学院長の名前だ。魔女サマンサ。なんともしっくりくる仇名ではないか。
「シスター・サマンサが、嫌ったり目を付けた生徒は決まってお腹が痛くなったり具合が悪くなったりしたんだって。なかには亡くなった子もいるって。おもてむきは病気だけれど、絶対あの女がなにかしたんだって、おばさんは言っていた。そうやって具合が悪くなる子は決まって可愛い子で、しかも具合悪くなるのは神父さんと親しげに口を聞いていた後だったって」
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