聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
160 / 210

家系の罪 一

しおりを挟む

 母の鞠江が学生時代にアルバイトで水商売をしていたことは本人の口から幾度か聞いたことがあった。当時はバブル時代といってひどく景気のいい頃で、母の口からもれる当時の記憶は楽しげですらあった。

 祖母が若いころに女優を目指していたという話も、ちらりと母の口から聞いたことがある。だが、パトロンを持ち、しかも……。美波はもう一度書類に目を向ける。

 一時期立川で街娼――。

 街娼……。高校生の美波でも、その字から意味はなんとなくわかる。つまり売春をしていたということだ。

 事実を確かめようにも祖母は五年前に亡くなっている。

 曽祖母については、その名前すら知らなかった。だが、その母の思い出話にも聞いたことのない曽祖母は芸者で、それだけならまだしも、ある男の妾となって、戸籍に父親のいない子を産んだのだ。

 罪の家系……。そんな古臭い言葉が美波の頭上に石のようにのしかかってくる。

 そして何よりも強烈なのは、美波自身のことだ。




(どうして……)

 どうして学院側はこのことを知っているのだろう。

 いや、美波当人のことは母が知らせたにしても、母のことや祖母、曽祖母のことまで知っており、なんのためにこうして書き記しているのか。

 美波は狂ったように他のファイルを調べてみた。

「これには……ない」

 あることに気づいた。

 家系について書かれていないものもある。いや、書かれているのをまとめたのが最初の方のページで、後のページはごく簡素なものだった。

 つまり、前半のページ分だけが家系のことについて詳しく書かれているのだ。

 美波は混乱する頭で必死に考えてみる。

 このファイル前半に記載されている生徒たちの顔を思い浮かべながら、あることにやっと気づいた。

 この生徒たちは今現在、別館に滞在している生徒たちなのだ。

 正確に言うと、全員というわけではない。ファイルに特別な記載がない生徒も数人いるが、ほとんどは現在別館にいる生徒たちだ。

 そして、さらにあることに気づく。

 ここに書かれている家系というのは、母親の家系なのだ。当人の母、さらにその母、つまり、祖母、曽祖母と、母親の家系をさかのぼっており、そこに父親の家系は書かれていない。

 どうしてなのか、考えるまえに美波の思考は止まった。

 足音が近づいてきたのだ。シスターたちの話し声も。一人はシスター・マーガレットだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...