聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 いつも黒っぽい服を着て、頭にはいかにも田舎の農婦のように手ぬぐいのようなものをかぶっていて顔はよく見えないが、一度ゴミ捨てに行ったとき、かすかに手ぬぐいの端から白いほつれ髪が見えた。

 年配者の年齢は十代の美波には判断しづらいが、最低でも七十は絶対に越えているはずだ。八十、いや九十だと言われても不思議ではない。

「冗談でしょう」 美波はもう一度同じ言葉を言っていた。

「シスター・マーガレットもそうなのよ」

「え……」

「元は生徒としてこの学院に来て、ここで神の教えに触れて、シスターになることに決めたんだって。以前、言っていたの。もし、ここへ来なかったら、きっと自分は堕落した女のままだったって。ここで救われたんだって」

 堕落した女、というその言葉がまた美波の耳を打つ。ここでは、自分たちは皆そういうものだと思われているのだろうか。

「そ、それじゃ、シスター・アグネスも?」

 気になって訊いてみると、夕子は首を振った。

「シスター・アグネスは……わかんない。聞いたことないから」

「シスター・グレイスは?」

「うーん。シスター・グレイスは違うんじゃない? あの人はオーストラリアの学校を卒業したって、以前言っていたことがあったし。ここにいたら医者にはなれないもんね」

 シスターたち全員がそうというわけではないらしい。

「あ、そうだ、別館の管理人の杉さんも元は生徒だったって」

「杉さん? あの人、幾つなの?」

「四十三か四じゃない?」

 仮に十六歳ぐらいでこの学院に入ったとすると、二十七、八年はここにいたということになる。美波はぞっとした。

「あ、そういえば」

 杉の名に、昨夜のいらだちと焦燥を思い出して、美波はつい晃子に愚痴を吐いた。

「昨夜、雪葉が具合悪くなって大変だったのに、杉さんいなかったのよ。会議かなんだかわからないけれど、あんなときどうすればいいのよ」

 今朝は寝不足で頭が良く働かなかったが、今度またあんなことが起これば大変だ。杉にそのことを報告しておいた方がいいかもしれない。

 しかし、それを言うと晃子はひどく苦い顔をした。

「やめなさいよ。そんなことしたら、美波までも〝ブラックリスト〟入りよ」

 晃子の真剣な顔と、その口から出てきたブラックリストという冗談のような言葉がそぐわず、美波は怪訝な顔になってしまう。

「どういうこと?」

 晃子は首を振って息を吐いた。

「しょうがないなぁ。内緒ないしょよ。絶対だれにも言っちゃ駄目だからね」
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