聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 雪葉はそう思いつめた。男からはピルを飲むようにすすめられ、雪葉も了解していたが、あるときから与えられた錠剤を飲むのを止めた。

(子どもを産めば……子どもさえ産んでしまえば、パパは私のものよ)

 雪葉はもう十六だ。結婚もできる年齢だ。母も相手の地位や財力を知れば反対しないはず。生理が来なくなってすぐ、雪葉は母とパパ、戸倉壱成に妊娠を報告した。

 母は複雑な顔をしたが、そこはやはり二十代の頃にはすすきの店でナンバー1だったというようなことを平然と娘に言うような女だけあって、戸倉の財力を考えて、産むことに納得した。

(養育費や慰謝料で、取れるだけ取るんだよ。子どものことも、ちゃんと保証してもらうんだね。うまくいけば戸倉流の家元になれるんだから。まぁ、さすがに結婚は無理だろうけれど……)

 なぜ母が最後の言葉を気弱に言うのか雪葉には理解できなかったが、母の母、つまり雪葉の祖母にあたる女性は芸者だったらしく、さすがに家元や宗家という特殊な家の複雑さと、そこへ入っていく難しさを聞き知っているのだという。

(そんなの昔の話でしょう。好きな相手と結婚してなにが問題なのよ。私もパパも独身なんだから。私は戸倉流の家元夫人で、この子は家元になるのよ)

 若い、というより幼い雪葉は強気だった。

 家に来た秘書の男性が、聖ホワイト・ローズ学院のことを知らせてくれ、そこでは十代で妊娠した少女が安心して出産できる設備があり、勉強もできると聞かされた。責任も費用もすべて戸倉が持つことで、雪葉は妊娠中の身体を気づかいながら関東のこの学院へ来たのだという。母はそんな身体で飛行機に乗るなんて、と最後まで心配していたが、戸倉家からかなりの金額を慰謝料の前金というかたちで渡されたらしく、最後は折れた。

(くれぐれも身体に気をつけるんだよ。子どもさえ無事なら、これから一生生活を保障してもらえるんだからね)
 
 そんないかにも雪葉の母らしい言葉に送られて雪葉はここ、聖ホワイト・ローズ学院に来たのだ。




「騙されてるんだって、その戸倉っていう爺さんに」

 昼食後の昼休み、別館のちかくにあるベンチに雪葉をまんなかにして、左右に座っていた美波と晃子は、その話を聞き終えて溜息をついた。美波でさえ内心そうだと思いつつも何も言わなかった。

「なんでよ?」

 庭木が日光をふせいでくれて、かすかな木漏れ日だけを心地よく落としてくる。
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