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九
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「去年とおなじ手順でいくわね。まずは、学院長室と、職員室のカーテンを回収するわよ。それから、一階全部の部屋のカーテン、それが終わったら二階、三階よ」
「全部あつめるの?」
しんどそうに美香が言うのに、晃子は首を振った。
「今日の午前中であつめられる限りでいいのよ。できない分は明日、明後日。それが終われば、次は寮の部屋のカーテン。あ、ちなみに、学院長室のカーテンと職員室のカーテンは他の部屋のとはちがうから、回収した人は、他のとまざらないように気をつけてね」
そういった晃子の指示のもと、他の生徒は作業に取り掛かった。
「あら、ご苦労様」
シスターたちの部屋でもある職員室で、なにやら書き物をしていたシスター・マーガレットが笑顔でねぎらうが、真保と二人だった美波は先日のカウンセリングのときのことを思い出し、落ち着かない。
シスター・マーガレットの背後の壁には、横長の大きな絵が飾ってある。おそらくは、イエス・キリストと、その前にひざまずく女性を描いたもので、美波は一瞬目を引かれ、おずおずと入室する。
「失礼します。あの、カーテンの回収します」
内気な真保は無言なので、美波がそう言い、あらかじめ渡されていた脚立を手に奥へすすむ。
職員室といっても日本の学校で見るような机が並んだ事務所のようなものではなく、重々しいヨーロッパ製の長方形の樫のテーブルにどっしりとした椅子に、床にはベージュ色の絨毯が敷かれ、静かで落ちついた雰囲気はホテルのロビーのようだ。壁には本棚があるが、ガラスケースの奥に並んでいるのは本ではなく黒い背表紙のファイルだ。書類やインクの匂いは、美波に地元の図書館の資料室を思い出させる。
書き物をつづけるシスター・マーガレットの邪魔をしないように音をたてないよう気づかいながら、カーテンを取り外して、たたみ、間違えないように、これもあらかじめ渡されていた大きな革袋に入れる。
「次は学院長室ね」
正直、美波は緊張していた。学院長はやはり苦手なのだ。夕子の蚯蚓腫れだらけの顔が思い出されてしかたない。
教師であり聖職者でもある人が女の子の顔をあんなふうに傷跡がつくまで殴るというのが、美波には受け入れがたかった。
「失礼します」
扉を開けると、ありがたいことに学院長は留守だった。
「今のうちに済ませよう」
いそいで美波が真保と二人で作業にかかろうとすると、廊下で軽い足音がひびいて美香の声が聞こえてきた。
「ねー、どっちか一人、食堂のカーテンをはずすの手伝ってくれない?」
「全部あつめるの?」
しんどそうに美香が言うのに、晃子は首を振った。
「今日の午前中であつめられる限りでいいのよ。できない分は明日、明後日。それが終われば、次は寮の部屋のカーテン。あ、ちなみに、学院長室のカーテンと職員室のカーテンは他の部屋のとはちがうから、回収した人は、他のとまざらないように気をつけてね」
そういった晃子の指示のもと、他の生徒は作業に取り掛かった。
「あら、ご苦労様」
シスターたちの部屋でもある職員室で、なにやら書き物をしていたシスター・マーガレットが笑顔でねぎらうが、真保と二人だった美波は先日のカウンセリングのときのことを思い出し、落ち着かない。
シスター・マーガレットの背後の壁には、横長の大きな絵が飾ってある。おそらくは、イエス・キリストと、その前にひざまずく女性を描いたもので、美波は一瞬目を引かれ、おずおずと入室する。
「失礼します。あの、カーテンの回収します」
内気な真保は無言なので、美波がそう言い、あらかじめ渡されていた脚立を手に奥へすすむ。
職員室といっても日本の学校で見るような机が並んだ事務所のようなものではなく、重々しいヨーロッパ製の長方形の樫のテーブルにどっしりとした椅子に、床にはベージュ色の絨毯が敷かれ、静かで落ちついた雰囲気はホテルのロビーのようだ。壁には本棚があるが、ガラスケースの奥に並んでいるのは本ではなく黒い背表紙のファイルだ。書類やインクの匂いは、美波に地元の図書館の資料室を思い出させる。
書き物をつづけるシスター・マーガレットの邪魔をしないように音をたてないよう気づかいながら、カーテンを取り外して、たたみ、間違えないように、これもあらかじめ渡されていた大きな革袋に入れる。
「次は学院長室ね」
正直、美波は緊張していた。学院長はやはり苦手なのだ。夕子の蚯蚓腫れだらけの顔が思い出されてしかたない。
教師であり聖職者でもある人が女の子の顔をあんなふうに傷跡がつくまで殴るというのが、美波には受け入れがたかった。
「失礼します」
扉を開けると、ありがたいことに学院長は留守だった。
「今のうちに済ませよう」
いそいで美波が真保と二人で作業にかかろうとすると、廊下で軽い足音がひびいて美香の声が聞こえてきた。
「ねー、どっちか一人、食堂のカーテンをはずすの手伝ってくれない?」
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