聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
124 / 210

しおりを挟む
 シスター・アグネスが背を向けて出て行くと、今度はべつの視線を感じてそちらに目を向けると、レイチェルが眼鏡の奥からきつい目で自分を見ていることに美波は気づいた。
 
 その目は、余計な真似をして、と言っているようだ。



 翌朝、寮にいたときと同じように美波たちは全員五時に起床し、着替えやトイレ、洗顔をすませた。トイレ兼洗面所は一階の西端――昨日晃子が説明した分娩室となる部屋とは逆の方向にあり、二十人以上の生徒たちでごったがえしているが、そういうときもレイチェルやバーバラは並んでいる生徒たちを尻目に当然のごとく先を行く。

 広間となる一階の大部屋で朝食をとるが、食事は寮のとき以上に質素で、冷めたロールパンと薄いスープ一杯で、そのスープも冷めているのは、前日に作り置きしてあったものを温めなおしもしていないせいだ。夏だからまだ我慢できるが、これがもし冬ならたまらないだろう。
 
 朝食がすむと、そのまま広間で朝の御祈りをすませ、それぞれ当てがわれた仕事へとすすむ。

(トイレ掃除は嫌だな)

 そう思っていた美波だが、ありがたいことに、学院のカーテンをあつめに行く係になった。この仕事を割り当てられた五人のなかには、晃子と雪葉もいた。お腹の大きな山本美香もいる。ちなみに夕子は炊事のグループに割りあてられている。

「晃子、あなたは経験者だから、あなたがいろいろ教えてあげてね」

 作業の指導にやってきたシスター・マーガレットにそう言われて、晃子が返事を返している。

 嬉しいのは、グループのなかにジュニア・シスターもプレもいないことだ。だがレイチェルは炊事班のなかに入っているので、また夕子が嫌な想いをしないかと心配にはなったが……。

 貝塚寧々は、と見ると、掃除班で他の生徒に大声で「行くわよ!」といばっている。あのグループに振り分けられなくて良かった、とつくづく美波はほっとした。

「掃除班なら、トイレ掃除もあるんでしょう? いい気味ね」

 広間を出ていく寧々を遠目に見送りながら、ついそんなことを晃子に言うと、晃子はのんびりと言い返す。

「貝塚なら、喜んでやるんじゃない? あの子、ああいう仕事ははりきってやるわよ」

「え? そうなの? 意外」

 掃除をすすんでやるタイプには見えなかったのだが。

「ふふふふ」

 晃子が意味深な笑いを浮かべていると、足音が近づいてきて、すでに人が少なくなっている食堂に入ってきた人物が見えた。

「ほら、早くしなさい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白薔薇黒薔薇

平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

処理中です...