聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
114 / 210

しおりを挟む
 そしてこの学院に来てつくづく良かったと思う。

 裕佳子は中学時代、ひどいいじめにあった。クラスのリーダー的な数人の女生徒に嫌われ、目を付けられてしまったのだ。

 悪口を言われ、無視をされ、上履きを隠される、教科書やノートに落書きされる、などしょっちゅうで、他の生徒たちも見て見ぬふりし、親が教師に相談しても教師はなんの役にもたたなかった。やがて不登校になり、そのままだったら引きこもりになっていたか自殺していたかもしれないが、そんなとき家にこの学院のことを知らせるパンフレットが送られてきた。

 聖ホワイト・ローズ学院――。聖なる白薔薇という名のミッション系スクールというのに母はひかれたらしい。

 母によると、進学校ではなく、勉強より精神の学びにおもきを置いている学院で、入学試験もなく面接だけだという。勉強が苦手な裕佳子にしてはありがたい。

 それも裕佳子のように事情のある生徒は学費免除にしてくれるという。

 裕佳子は勉強もスポーツも平均以下で目立ったことのない生徒だ。それがなぜ目を付けられ苛められることになったのか、いまだに理解できない。教室で悪意を放ってきた苛めっ子グループの少女のぶつけてきた言葉が今でも耳によみがえる。

(あんた、太々ふてぶてしいんだよ! ブスのくせに!)

 今でも眠れぬ夜には、この言葉が耳にひびいてくる。どうして何もしていないのにああも憎まれないといけないのか。激しい怒りが裕佳子のなかでうずまく。

 憎悪を投げつけられたことはそれが初めてではなかった。中学時代も、小学校時代も、なぜか裕佳子は苛めっ子たちに目をつけられやすかった。不器用で友人を作るのが苦手な裕佳子はかっこうのターゲットにされてしまうのだ。

 中学二年のころ、母にちいさな個人病院のようなところに連れていかれ、そこの中年の医師らしき男にいろいろ質問されたあと、彼はひとつの言葉をこぼした。

 アスペルガー症候群。

 裕佳子はそういう病気――と呼んでいいのかどうかもわからないが――らしい。自閉症スペクトラムともいうらしく、裕佳子には今ひとつよく理解できないが、裕佳子が他者とうまくコミュニケーションがとれないのはそのせいだという。

(そんなことがあるもんですか)

 裕佳子は唇を噛みしめた。

 いつだって悪意や敵意をぶつけてくるのは他の人間で、裕佳子はつねに傷つけられてきたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら
ミステリー
ドジっ娘新人編集者の綾町奈々子が自分が担当する高飛車な美人作家・毒島綺麗に恋をして、やがては結ばれる物語です。ミステリです。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【短編】シニガタリ

夜葉@佳作受賞
ミステリー
シニタガリって知っていますか? 死にたいと考える頭の中に発生する、謎の思考回路の事です。 自殺を考える者に寄りつく悪魔や霊、はたまた特有のウイルスや分泌物が原因と言われていますが、今はそんな事はどうでもいいでしょう。 これはそんなシニタガリに憑かれた、少年少女の死の物語。 あなたも気をつけてください。 軽い気持ちでこの物語を読んで、シニタガリに憑りつかれないように……。 ※カクヨムコン6短編部門にて本作が佳作を受賞しました。  楽しんで頂ければ幸いです。 ※この作品は下記サイトにて掲載中です。 なろう      https://ncode.syosetu.com/n5476gs/ ノベプラ     https://novelup.plus/story/751072024 アルファポリス  https://www.alphapolis.co.jp/novel/337904610/518551509 カクヨム     https://kakuyomu.jp/works/1177354054946189977

クロヴァンの探偵日記

高松 津狼
ミステリー
プレイバイトン。それは謎に包まれた場所。ヒョウタン人が当たり前のように緑樹(ルシュ)人達を管理し、都合が悪い事実を知れば死刑にされる。そんな理不尽な日常が当たり前となっている世界にどこか疑問を抱いている人物がいた。それがスマウメック・クロヴァンである。 自称プレイバイトン人で探偵のクロヴァンは、ヒョウタン人が何のために緑樹人を管理して、支配しているのか本当の理由を探る為、母の残した手記や軍人が落とした資料を頼りに謎を解いていくファンタジー系ミステリー。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

7月は男子校の探偵少女

金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。 性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。 顔の塗りつぶされた肖像画。 完成しない彫刻作品。 ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。 19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。 (タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)

ミッション・オブ・リターンゲーム

桜華 剛爛
ミステリー
・主人公である御鏡 連夜(みかがみ れんや)が気が付いた場所は、何処かのホテルの一室であるかの様な場所で、自分の寝ていたベッドと衣装ケースがあるだけだった。  そして、彼の腕には腕輪が着けられていた・・・。  訳が解らず直ぐにこの部屋を出た彼を待ち受けていたのは・・・・、彼は何かの刃物で首を切り落とされてしまった。その状況は一瞬だったので痛みも感じず、しかし彼の脳内には強く記憶された・・・・。首を飛ばされた自分の身体とその首を飛ばしたものを見ながらそっと目を閉じ、その後何故か脳内でノイズの様な雑音とともに意識が途切れた・・・・・。 ・ ・ ・  なぜか、また同じ部屋で目を覚ましたのであった・・・・・。  あれは夢だったのかそれとも現実なのか、それはわからない。 それに夢の中で同じ様な夢を数回見ている。 いよいよ訳が解らなかった。  これは、始まり何のか?それとも・・・・・・。  これより始まる彼のいや、彼らによる奇妙な事と夢か現実か区別のつかない体験、そして彼は・・・いや彼らは生還できるか?それとも消えてしまうのか? これから死と隣り合わせミッションゲームが始まる。 そして、脱出でき平和な日常に帰還できるのか・・・。

処理中です...