聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「いっしょにしないでよ!」

「学院長のような人種からみたら結婚せず男とやったというだけでも犯罪者なんだよ。今だってキリスト教の宗派によっては神父――司祭は生涯独身だっていうところもあるし、いったん結婚したら離婚は駄目、中絶や同性愛だって断固認めないっていうのもけっこうあるんだぜ」

「いつの時代の話なのよ?」

 夕子は興奮していた。

「まぁ、落ち着けよ。それより、来週からおまえも別館だからな」

 話を変えるように言った田辺に夕子は目をむいた。

 別館と聞いて雪葉のことが思い出される。彼女も妊娠していた。だからこそ聖ホワイト・ローズ学院で受け入れたのだ。聖ホワイト・ローズ学院はそういう学院なのだ。

「別館でなにすんのよ……」

「仕事だよ。労働。炊事、洗濯、他の生徒が帰省しているあいだに、学院中の大掃除だよ」

「なんなのよ、それ」

 やりきれなさに溜息が出る。

 ロックのあの血をにぎわせるようなメロディー、煙草の紫煙、酒の匂い、薄着で夏の夜の街を謳歌する少女たち、彼女たちに声をかける少年たち。良識的大人からみたら顰蹙ひんしゅくものだろうが、それでもそれこそは夕子にとっての夏だった。そのすべてが遠くなる。代わりに迫ってくるのは見るのも嫌な制服、質素な食事、学院長の冷たい目、シスターたちのお説教、モップと箒、洗剤、炎天下での草むしり、終わることのないような作業……、夕子は大声をあげて走行中の車のドアを開けたくなった。

(逃げたい)

 聖ホワイト・ローズ学院の実情を知ると、いっそうそこが恐ろしい場所に思えて、嫌悪感が夕子をせっつく。

 だが車は止まることなく夕子をその〝監獄〟へとはこんでいく。




「お早いお帰りで」

 学院長が夕子が入ってくるの立って睨みつけている。ひどく気が立っているようで、さすがに夕子も怯えたが、顔には出さないようにつとめる。

(負けるもんか……)

 そう思って今まで何度も試練をのりこえてきたのだ。中学のとき初恋にやぶれたときも、アルバイト先で酔客に因縁をつけられたときも、あの、おぞましい集団レイプにあったときも、流産したときも、いつも夕子は苦しい目にあったときそう思って耐えてきた。

(こんなばあさんに負けるもんか)

 夕子のなかにひそむ負けん気と反骨の炎がめらめらと燃えあがる。

「いったい何をしていたのですか?」
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