104 / 210
四
しおりを挟む
「いっしょにしないでよ!」
「学院長のような人種からみたら結婚せず男とやったというだけでも犯罪者なんだよ。今だってキリスト教の宗派によっては神父――司祭は生涯独身だっていうところもあるし、いったん結婚したら離婚は駄目、中絶や同性愛だって断固認めないっていうのもけっこうあるんだぜ」
「いつの時代の話なのよ?」
夕子は興奮していた。
「まぁ、落ち着けよ。それより、来週からおまえも別館だからな」
話を変えるように言った田辺に夕子は目をむいた。
別館と聞いて雪葉のことが思い出される。彼女も妊娠していた。だからこそ聖ホワイト・ローズ学院で受け入れたのだ。聖ホワイト・ローズ学院はそういう学院なのだ。
「別館でなにすんのよ……」
「仕事だよ。労働。炊事、洗濯、他の生徒が帰省しているあいだに、学院中の大掃除だよ」
「なんなのよ、それ」
やりきれなさに溜息が出る。
ロックのあの血をにぎわせるようなメロディー、煙草の紫煙、酒の匂い、薄着で夏の夜の街を謳歌する少女たち、彼女たちに声をかける少年たち。良識的大人からみたら顰蹙ものだろうが、それでもそれこそは夕子にとっての夏だった。そのすべてが遠くなる。代わりに迫ってくるのは見るのも嫌な制服、質素な食事、学院長の冷たい目、シスターたちのお説教、モップと箒、洗剤、炎天下での草むしり、終わることのないような作業……、夕子は大声をあげて走行中の車のドアを開けたくなった。
(逃げたい)
聖ホワイト・ローズ学院の実情を知ると、いっそうそこが恐ろしい場所に思えて、嫌悪感が夕子をせっつく。
だが車は止まることなく夕子をその〝監獄〟へとはこんでいく。
「お早いお帰りで」
学院長が夕子が入ってくるの立って睨みつけている。ひどく気が立っているようで、さすがに夕子も怯えたが、顔には出さないようにつとめる。
(負けるもんか……)
そう思って今まで何度も試練をのりこえてきたのだ。中学のとき初恋にやぶれたときも、アルバイト先で酔客に因縁をつけられたときも、あの、おぞましい集団レイプにあったときも、流産したときも、いつも夕子は苦しい目にあったときそう思って耐えてきた。
(こんなばあさんに負けるもんか)
夕子のなかにひそむ負けん気と反骨の炎がめらめらと燃えあがる。
「いったい何をしていたのですか?」
「学院長のような人種からみたら結婚せず男とやったというだけでも犯罪者なんだよ。今だってキリスト教の宗派によっては神父――司祭は生涯独身だっていうところもあるし、いったん結婚したら離婚は駄目、中絶や同性愛だって断固認めないっていうのもけっこうあるんだぜ」
「いつの時代の話なのよ?」
夕子は興奮していた。
「まぁ、落ち着けよ。それより、来週からおまえも別館だからな」
話を変えるように言った田辺に夕子は目をむいた。
別館と聞いて雪葉のことが思い出される。彼女も妊娠していた。だからこそ聖ホワイト・ローズ学院で受け入れたのだ。聖ホワイト・ローズ学院はそういう学院なのだ。
「別館でなにすんのよ……」
「仕事だよ。労働。炊事、洗濯、他の生徒が帰省しているあいだに、学院中の大掃除だよ」
「なんなのよ、それ」
やりきれなさに溜息が出る。
ロックのあの血をにぎわせるようなメロディー、煙草の紫煙、酒の匂い、薄着で夏の夜の街を謳歌する少女たち、彼女たちに声をかける少年たち。良識的大人からみたら顰蹙ものだろうが、それでもそれこそは夕子にとっての夏だった。そのすべてが遠くなる。代わりに迫ってくるのは見るのも嫌な制服、質素な食事、学院長の冷たい目、シスターたちのお説教、モップと箒、洗剤、炎天下での草むしり、終わることのないような作業……、夕子は大声をあげて走行中の車のドアを開けたくなった。
(逃げたい)
聖ホワイト・ローズ学院の実情を知ると、いっそうそこが恐ろしい場所に思えて、嫌悪感が夕子をせっつく。
だが車は止まることなく夕子をその〝監獄〟へとはこんでいく。
「お早いお帰りで」
学院長が夕子が入ってくるの立って睨みつけている。ひどく気が立っているようで、さすがに夕子も怯えたが、顔には出さないようにつとめる。
(負けるもんか……)
そう思って今まで何度も試練をのりこえてきたのだ。中学のとき初恋にやぶれたときも、アルバイト先で酔客に因縁をつけられたときも、あの、おぞましい集団レイプにあったときも、流産したときも、いつも夕子は苦しい目にあったときそう思って耐えてきた。
(こんなばあさんに負けるもんか)
夕子のなかにひそむ負けん気と反骨の炎がめらめらと燃えあがる。
「いったい何をしていたのですか?」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる