91 / 210
六
しおりを挟む
「ちょっと大きなショッピングセンターがあるところまでも自転車でけっこうかかるし。田んぼばかりで、娯楽もなんにもないの。まぁ、夏に川遊びぐらいは出来るかもね。だから、男の子たちもああいうことしか興味なかったのかも。そんなんだから、ここでの生活も苦でもなんでもないのよ」
なるほど。
もともと外でも似たような生活をしていたのなら、いっそ性的搾取されないだけまだこの学院での生活の方が晃子にはいいかもしれない。
美波までもすこし老成した気持ちになり、ほろ苦くそんなことを思ってしまう。そして、ふとまたあることが気にかかって訊いてみた。
「ねぇ、もうすぐ夏休みだけれど、晃子はどうするの?」
「残るわよ。いったん出た施設に夏休みだけ戻るのは、ちょっと嫌だし。福岡のあの田舎で夏を過ごすのも、この学院で過ごすのもたいして変わらないしね」
なんだか、この会話、昔読んだ『足長おじさん』のヒロインのようだ、と美波は妙なことを思い出す。生まれ育った孤児院に帰りたくないと悩むジュディーには、心優しい足長おじさんが田舎の家で過ごすように手配してくれたが、晃子にはそんな人はいない。
会いたいと思う人も、戻りたいと思う場所も持たない高校生の少女の夏とはどういうものなのだろう。
美波だとて人に言えるほど健やかな青春を送っているとは思えないが、考えるといっそうまたほろ苦い心持ちになる。
「わたしと夕子は別館へ行くことになるらしんだけれど……」
晃子は頷いた。
「実をいうと私も行くの。夏期休暇に家にもどらない生徒は別館で特別奉仕することになっているから。去年もそうしたし」
「え? そうなの?」
少しほっとして美波は眉をひらいていた。
「帰省しない生徒って、どれぐらいいるのかな?」
「うーん、十数人……元から別館にいる生徒も含めて去年は十八人だったわ」
来週はもう別館にいることになっているだろう。
そこで一ヶ月半、どんな生活を過ごすのか想像すると、不安でもあるが、晃子がいてくれるのなら心強い。つい先ほどあんな話を聞いても、晃子に対しての好意は消えず、嫌悪や侮蔑の気持ちはふしぎなほど湧かない。
美波はあつめた草を籠に放りこんだ。
なるほど。
もともと外でも似たような生活をしていたのなら、いっそ性的搾取されないだけまだこの学院での生活の方が晃子にはいいかもしれない。
美波までもすこし老成した気持ちになり、ほろ苦くそんなことを思ってしまう。そして、ふとまたあることが気にかかって訊いてみた。
「ねぇ、もうすぐ夏休みだけれど、晃子はどうするの?」
「残るわよ。いったん出た施設に夏休みだけ戻るのは、ちょっと嫌だし。福岡のあの田舎で夏を過ごすのも、この学院で過ごすのもたいして変わらないしね」
なんだか、この会話、昔読んだ『足長おじさん』のヒロインのようだ、と美波は妙なことを思い出す。生まれ育った孤児院に帰りたくないと悩むジュディーには、心優しい足長おじさんが田舎の家で過ごすように手配してくれたが、晃子にはそんな人はいない。
会いたいと思う人も、戻りたいと思う場所も持たない高校生の少女の夏とはどういうものなのだろう。
美波だとて人に言えるほど健やかな青春を送っているとは思えないが、考えるといっそうまたほろ苦い心持ちになる。
「わたしと夕子は別館へ行くことになるらしんだけれど……」
晃子は頷いた。
「実をいうと私も行くの。夏期休暇に家にもどらない生徒は別館で特別奉仕することになっているから。去年もそうしたし」
「え? そうなの?」
少しほっとして美波は眉をひらいていた。
「帰省しない生徒って、どれぐらいいるのかな?」
「うーん、十数人……元から別館にいる生徒も含めて去年は十八人だったわ」
来週はもう別館にいることになっているだろう。
そこで一ヶ月半、どんな生活を過ごすのか想像すると、不安でもあるが、晃子がいてくれるのなら心強い。つい先ほどあんな話を聞いても、晃子に対しての好意は消えず、嫌悪や侮蔑の気持ちはふしぎなほど湧かない。
美波はあつめた草を籠に放りこんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。

黒き学び舎 ~僕たちの生首事件~
坂本 光陽
ミステリー
若草小学校には、〈夜の校長〉という怪談がある。夜になると男の生首が校内を徘徊し、うっかり見てしまうと高熱を出して死んでしまう、というのだ。相次ぐ生首目撃者。生首写真の恐怖。近所の中年クレーマー。謎が次々と連鎖して、生徒たちはパニックに襲われる。まさに、怪談めいた事件だ。そんな時、事件の謎を解明しようと乗り出したのは、ウルマとシロという小学5年コンビだった。


【完結】試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
御院家さんがゆく‼︎ 〜橙の竪坑〜
涼寺みすゞ
ミステリー
【一山一家】
喜福寺の次期 御院家さんである善法は、帰省中 檀家のサブちゃんと待ち人について話す。
遠い記憶を手繰り寄せ、語られたのは小さな友達との約束だったが――
違えられた約束と、時を経て発見された白骨の関係は?
「一山一家も、山ん無くなれば一家じゃなかけんね」
山が閉まり、人は去る
残されたのは、2人で見た橙の竪坑櫓だけだった。
⭐︎作中の名称等、実在のものとは関係ありません。
⭐︎ホラーカテゴリ『御院家さんがゆく‼︎』主役同じです。
白い男1人、人間4人、ギタリスト5人
正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます
女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。
小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。
バージン・クライシス
アーケロン
ミステリー
友人たちと平穏な学園生活を送っていた女子高生が、密かに人身売買裏サイトのオークションに出展され、四千万の値がつけられてしまった。可憐な美少女バージンをめぐって繰り広げられる、熾烈で仁義なきバージン争奪戦!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる