73 / 210
三
しおりを挟む
シスター・マーガレットのまえで、夕子は挑発するように足を組んだ。青いスカートがひらりと揺れた一瞬、美波には夕子がまるでドラマなどに出てくる酒場女のように蓮っ葉に見えてしまう。意識して夕子はそんな態度をとっているのだ。
「ロックのコンサートに行きたくてキセル乗車したことがあります」
一瞬、意味を考えたが、ただ乗りのことだと推測した。
「他には?」
「まぁ、好奇心で万引きも中学のころ一回だけしました」
「なにを盗んだの?」
「Tシャツ一枚。それだけです」
美波は目を見張っていた。
「他には?」
「……それぐらいです」
捨て鉢な態度で答える夕子を、シスター・マーガレットはやんわりと睨みつける。
「私の顔を見なさい、夕子」
シスター・マーガレットはきびしい表情で命じた。
「私の目を見て、真実を言いなさい。あなたは他に罪を犯さなかったというの? 汚れない清い身だといえるの?」
「……」
夕子のいつもの気丈さがくずれてきた。
美波の方がハラハラしてくる。
「誤解しないで。私はあなたを責めようとしているのではありません。それどここか、あなたの堕落した魂を救おうとしているのですよ」
「はあ?」
夕子がまた挑発するように敵意をこめて訊き返すのに、シスター・マーガレットはさらに言いつのる。
「あなたは、なぜこの学院に来るようになったのですか? その罪を考えてごらんなさい」
夕子の目が敵意に燃えた。
「……知ってんの? だったら訊かなくてもいいじゃん」
「ここですべて打ち明けるのです。罪を懺悔しなさい」
馬鹿々々しい……、そう低くつぶやいて夕子はシスター・マーガレットと、ちょうど向かいあうかたちで座っている真保や桜子をも睨みつけた。
「じゃ、言うわよ。バイト先の店で知り合った年上のロッカーとセックスしました」
声高にそういう夕子に真保は唇をひきしめ、桜子は肩をすくめた。美波はどういう顔をしていいかわからず、ひたすら無表情をつくろっていた。
「そして?」
「……それだけだって。相手とはその後何回が会って。言っておくけど、あたしはウリはやってないからね」
夕子の言葉はここにいる四人だけに言っているのではなく、彼女をとりまくこの世界のすべてに向かって宣言しているようだ。
「ロックのコンサートに行きたくてキセル乗車したことがあります」
一瞬、意味を考えたが、ただ乗りのことだと推測した。
「他には?」
「まぁ、好奇心で万引きも中学のころ一回だけしました」
「なにを盗んだの?」
「Tシャツ一枚。それだけです」
美波は目を見張っていた。
「他には?」
「……それぐらいです」
捨て鉢な態度で答える夕子を、シスター・マーガレットはやんわりと睨みつける。
「私の顔を見なさい、夕子」
シスター・マーガレットはきびしい表情で命じた。
「私の目を見て、真実を言いなさい。あなたは他に罪を犯さなかったというの? 汚れない清い身だといえるの?」
「……」
夕子のいつもの気丈さがくずれてきた。
美波の方がハラハラしてくる。
「誤解しないで。私はあなたを責めようとしているのではありません。それどここか、あなたの堕落した魂を救おうとしているのですよ」
「はあ?」
夕子がまた挑発するように敵意をこめて訊き返すのに、シスター・マーガレットはさらに言いつのる。
「あなたは、なぜこの学院に来るようになったのですか? その罪を考えてごらんなさい」
夕子の目が敵意に燃えた。
「……知ってんの? だったら訊かなくてもいいじゃん」
「ここですべて打ち明けるのです。罪を懺悔しなさい」
馬鹿々々しい……、そう低くつぶやいて夕子はシスター・マーガレットと、ちょうど向かいあうかたちで座っている真保や桜子をも睨みつけた。
「じゃ、言うわよ。バイト先の店で知り合った年上のロッカーとセックスしました」
声高にそういう夕子に真保は唇をひきしめ、桜子は肩をすくめた。美波はどういう顔をしていいかわからず、ひたすら無表情をつくろっていた。
「そして?」
「……それだけだって。相手とはその後何回が会って。言っておくけど、あたしはウリはやってないからね」
夕子の言葉はここにいる四人だけに言っているのではなく、彼女をとりまくこの世界のすべてに向かって宣言しているようだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる