聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
72 / 210

しおりを挟む
 シスター・マーガレットは溜息を吐く。

「桜子、あなたは生まれ変わって人生をやりなおしたくないの? そのままでいいの?」

「え……?」

 桜子はとまどった顔でシスター・マーガレットを見上げる。

「桜子、あなたが生まれ変わるための、ここが最後のチャンスなのよ。ここで変われないと、あなたは死ぬまでそのままよ。永遠に業火に焼かれたいの」

「……その」

 桜子はもじもじと足を動かすと、下を向いたまま呟いた。

「お店で……口紅を万引きしました」

 美波も含めて三人が一瞬息をつめる。

「幾つのとき?」

「高二の夏休みです」

「それが初めて? そうじゃないでしょう?」

 桜子は真っ赤になった。

「……小六の頃から……友達にそそのかされて」

「そのときは何を盗んだの?」

「ジュ、ジュースとか、お菓子とか。中学になると漫画とか雑誌とか……」 

 万引きの常習犯らしい。朴訥そうな印象からは想像できず、美波は目を瞬いていた。

 前の高校にもそういったことをする生徒がいた。性質たちの悪いことに彼女は万引きした化粧品を他の生徒に安く売り渡していたのだ。私立の名門校でもそういうことをする生徒はいるのだ。だが、いかにもずる賢そうなかつてのクラスメートとちがって、目の前の桜子は、いたって小心そうで、そういうことをしそうには思えないだけに意外だった。

「よく話してくれたわ。大丈夫よ、ここで罪を告白したのだから生まれ変われるわ」  

 桜子は消え入りそうに厚みのある肩をすくめた。

「それでは、次は夕子」

 名を呼ばれて夕子が背をただしたのが隣に座っている美波にもわかった。

「あたしは……べつに」

「何もないと言える? 罪ひとつない清らかな身体だと言えるの?」

 シスター・マーガレットの言葉に美波は背がむずがゆくなる。罪だとか、地獄の業火だとかいうのは、すべて聖職者が使う常套句なのだと思っていたが、ここにきて、そこに特別な意味が込められていることを察しはじめたのだ。

「清らかって、」

 夕子が呆れたように首をすくめた。

「じゃ、いいます。中学のころから煙草吸ってました。ビールもときどき飲んでます」

「それだけ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

双珠楼秘話

平坂 静音
ミステリー
親を亡くして近所の家に引き取られて育った輪花は、自立してひとりで生きるため、呂家という大きな屋敷で働くことになった。 呂家には美しい未亡人や令嬢、年老いても威厳のある老女という女性たちがいた。 少しずつ屋敷の生活に慣れていく輪花だが、だんだん屋敷の奇妙な秘密に気づいていく。

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

白薔薇黒薔薇

平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...