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七
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シスター・マーガレットが二人を見て、紹介するように彼に手を向ける。
「こちらはチャールズ神父さん。月に二回は学院へ来て生徒の相談に乗ってくださっているの。今日はもうお帰りだけれど、ご挨拶しておきなさい」
「こんにちは」
美波と夕子は声をそろえて相手を見上げた。
チャールズ神父もまた外国人か、もしくはハーフらしく、金髪に青い目だ。
「君たちは新入生だね。早くここでの生活になれるといいね。困ったことがあったら相談に来るといいよ」
完璧な日本語である。日本での生活が長いのか、日本生まれなのかもしれない。声や風貌から察すると、三十後半か。外国人の年齢は美波にはよくわからない。
形式的な握手を二人と交わして去っていく彼の背中を見送ってから、シスター・マーガレットはあらためて美波たちに向きなおった。
「では、こちらへどうぞ」
開けられたドアの向こうは、六畳ほどのスペースでやや手狭だ。真ん中に丸いテーブルがあり、そこにすでに来ていた別の生徒たちが座っている。
室内の空気はひんやりして、白い壁のせいか清潔感がただよっている。
入室してすぐ美波の目をひいたのは、壁にかかっている大きな絵だ。
女性がのけぞるように天を仰いでいるのだが、その表情が妙に生々しく、女子高の壁にかかっているのに違和感すら覚えさせられる。美波は絵から目をそらし、シスター・マーガレットのすすめてくれた椅子に座るべく足をすすめた。
「これでそろったわ。では、始めましょうか」
嬉しいことにテーブルのうえには白いティーカップがあり、二枚ずつだがクッキーが添えられてある。ここへ来て一週間、お菓子類をいっさい食べていない美波にとってはありがたい。夕子も目を輝かせている。
「では、皆さん、自己紹介してくれます?」
他に座っている生徒は二人。彼女たちの顔を見て美波はやや目を見張った。
「坂上真保です。二年青薔薇組です」
いつもほんのわずかしか食事をとらない生徒だ。そしてもう一人は、廊下で顔は見たことはあるが、喋ったことのない生徒だった。
「富士桜子です。赤薔薇です。あの、三年の」
桜子という古風な名の彼女は三年生だったのだ。三年生は彼女一人だけなので、やや固くなっているようだ。
「近藤美波です。二年赤薇組です」
「小瀬夕子。二年青薔薇組」
それぞれ名前とクラス名を名乗った。
「真保はここへ来てそろそろ二ヶ月かしら。桜子は一ヶ月ちょっとね。美波と夕子は入ってまだ日があさいのよね。どう、学院には慣れたかしら?」
答えられないでいる美波が口ごもっていると、夕子がぶっきらぼうに言った。
「全然」
「こちらはチャールズ神父さん。月に二回は学院へ来て生徒の相談に乗ってくださっているの。今日はもうお帰りだけれど、ご挨拶しておきなさい」
「こんにちは」
美波と夕子は声をそろえて相手を見上げた。
チャールズ神父もまた外国人か、もしくはハーフらしく、金髪に青い目だ。
「君たちは新入生だね。早くここでの生活になれるといいね。困ったことがあったら相談に来るといいよ」
完璧な日本語である。日本での生活が長いのか、日本生まれなのかもしれない。声や風貌から察すると、三十後半か。外国人の年齢は美波にはよくわからない。
形式的な握手を二人と交わして去っていく彼の背中を見送ってから、シスター・マーガレットはあらためて美波たちに向きなおった。
「では、こちらへどうぞ」
開けられたドアの向こうは、六畳ほどのスペースでやや手狭だ。真ん中に丸いテーブルがあり、そこにすでに来ていた別の生徒たちが座っている。
室内の空気はひんやりして、白い壁のせいか清潔感がただよっている。
入室してすぐ美波の目をひいたのは、壁にかかっている大きな絵だ。
女性がのけぞるように天を仰いでいるのだが、その表情が妙に生々しく、女子高の壁にかかっているのに違和感すら覚えさせられる。美波は絵から目をそらし、シスター・マーガレットのすすめてくれた椅子に座るべく足をすすめた。
「これでそろったわ。では、始めましょうか」
嬉しいことにテーブルのうえには白いティーカップがあり、二枚ずつだがクッキーが添えられてある。ここへ来て一週間、お菓子類をいっさい食べていない美波にとってはありがたい。夕子も目を輝かせている。
「では、皆さん、自己紹介してくれます?」
他に座っている生徒は二人。彼女たちの顔を見て美波はやや目を見張った。
「坂上真保です。二年青薔薇組です」
いつもほんのわずかしか食事をとらない生徒だ。そしてもう一人は、廊下で顔は見たことはあるが、喋ったことのない生徒だった。
「富士桜子です。赤薔薇です。あの、三年の」
桜子という古風な名の彼女は三年生だったのだ。三年生は彼女一人だけなので、やや固くなっているようだ。
「近藤美波です。二年赤薇組です」
「小瀬夕子。二年青薔薇組」
それぞれ名前とクラス名を名乗った。
「真保はここへ来てそろそろ二ヶ月かしら。桜子は一ヶ月ちょっとね。美波と夕子は入ってまだ日があさいのよね。どう、学院には慣れたかしら?」
答えられないでいる美波が口ごもっていると、夕子がぶっきらぼうに言った。
「全然」
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