65 / 210
五
しおりを挟む
インターホーンのブザーが壁についているので美波は押してみた。
「どなた?」
乾いた声が聞こえる。
「あ、あのぉ……シスター・グレイスに言われて来たんですが……。雪葉の、西条雪葉さんの荷物を持っていくようにと……」
やや緊張しながら言うと、しばらくしてドアが二つにわかれ、なかからシスターたちのように黒いロングスカートをはいている女性があらわれた。。
「名前は?」
「こ、近藤美波です」
「そちらは?」
「小瀬夕子です」
「昨日来た子の荷物ですね?」
「は、はい」
バッグと着替えを見て相手は確認する。
「入っていいわ。あなたたち、ちょっとあの子と会っていってあげて。昨夜から具合が悪いみたいで。……そこの階段を上がって行って、すぐの部屋だから。201号室よ」
「は、はい」
階段は木造で、どことなく暖かみがありすこしホッとする。
雪葉のことはやはり気がかりなので、美波と夕子は足早に階段をあがった。階段はやや急であり、外国映画に出てくる城塞を思わせた。広々とした学舎や寮にくらべると、かなり手狭な感じだ。
「ここだわ」
201という錆びた鉄のプレートのついた赤茶色の扉をノックした。
しばし沈黙。焦れて美波は声をかけた。
「雪葉……、いる? わたしよ、美波と夕子だけれど」
「……どうぞ」
そっとドアを押した。夕暮れも深まる時刻のせいで、明かりをつけていない室内はひどく暗く見える。気のせいだろうが、どことなく饐えた匂いがする
「雪葉……」
狭い部屋である。寮の部屋より狭いが、驚くことに二人部屋らしく、ベッドが二つ並んでいた。
その片方のベッドで雪葉が、まるで冬眠中の動物のように、毛布をかぶってうずくまっている。頬はまた涙で濡れている。おそらくずっと泣きつづけていたのだろう。哀れになってきた。
「大丈夫?」
「うう……」
ベッドに近寄って床に膝をつくようにすると、側の台にプラスティックの洗面器があり、そこに嘔吐したものがあるのに気付き、美波はあわてて目をそらす。饐えた匂いの原因はそれのようだ。
「具合、悪いの?」
後から入ってきた夕子が低い声でたずねると、雪葉は首を振った。
「どなた?」
乾いた声が聞こえる。
「あ、あのぉ……シスター・グレイスに言われて来たんですが……。雪葉の、西条雪葉さんの荷物を持っていくようにと……」
やや緊張しながら言うと、しばらくしてドアが二つにわかれ、なかからシスターたちのように黒いロングスカートをはいている女性があらわれた。。
「名前は?」
「こ、近藤美波です」
「そちらは?」
「小瀬夕子です」
「昨日来た子の荷物ですね?」
「は、はい」
バッグと着替えを見て相手は確認する。
「入っていいわ。あなたたち、ちょっとあの子と会っていってあげて。昨夜から具合が悪いみたいで。……そこの階段を上がって行って、すぐの部屋だから。201号室よ」
「は、はい」
階段は木造で、どことなく暖かみがありすこしホッとする。
雪葉のことはやはり気がかりなので、美波と夕子は足早に階段をあがった。階段はやや急であり、外国映画に出てくる城塞を思わせた。広々とした学舎や寮にくらべると、かなり手狭な感じだ。
「ここだわ」
201という錆びた鉄のプレートのついた赤茶色の扉をノックした。
しばし沈黙。焦れて美波は声をかけた。
「雪葉……、いる? わたしよ、美波と夕子だけれど」
「……どうぞ」
そっとドアを押した。夕暮れも深まる時刻のせいで、明かりをつけていない室内はひどく暗く見える。気のせいだろうが、どことなく饐えた匂いがする
「雪葉……」
狭い部屋である。寮の部屋より狭いが、驚くことに二人部屋らしく、ベッドが二つ並んでいた。
その片方のベッドで雪葉が、まるで冬眠中の動物のように、毛布をかぶってうずくまっている。頬はまた涙で濡れている。おそらくずっと泣きつづけていたのだろう。哀れになってきた。
「大丈夫?」
「うう……」
ベッドに近寄って床に膝をつくようにすると、側の台にプラスティックの洗面器があり、そこに嘔吐したものがあるのに気付き、美波はあわてて目をそらす。饐えた匂いの原因はそれのようだ。
「具合、悪いの?」
後から入ってきた夕子が低い声でたずねると、雪葉は首を振った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる