聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
64 / 210

しおりを挟む
「進学校じゃないんなら、就職にむけてその手の勉強しなきゃならないんだけれど、ここって、そっちもまるで力入れてないよね。パソコンとか簿記とか、仕事に必要なスキルや知識もべつに熱心に教えようとしないし。英検とか漢検とか受けろとも言わないし。普通の学校だったら、TOFELやTOEIC受けろとかって教師がすすめたりしないもん?」

 夕子の言い分はもっともで、言われてみればそれも不思議だ。

 進学や受験にまったく力を入れないなら、就職に向けてなにかさせるものだと思うが、そういったこともいっさいシスターたちは指導しない。

「まぁ、あたしなんて卒業しても家業を手伝うか、近所の商店街のお店でアルバイトでもすればいいんだけれどね」

 聞けば、夕子の地元の友人もたいてい高校を卒業したら飲食店など親の仕事を手伝ったり、近い場所でアルバイトなどしてそのうち結婚して子どもを産む、というパターンがほとんどだという。それはそれでいいのだが、そういう生き方は美波には向いていない、というか、できない。

(やっぱり、高校を卒業したら進学しないと……)

 それしか道はないような気がする。美波の育ってきた今までの世界での価値観では、高卒で仕事をするという概念がないのだ。仮に仕事をするにしても、どうやって見つけていいのか、そこで頭が止まってしまう。それを言うと、

「ハローワークに行くか、求人のチラシでも見たらいくらでもあるじゃん」

 と夕子にあっさり返される。

(ちょっと、違うんだよね……)

 どう説明すればいいのかわからず言葉を濁していると、鼠色の建物が見えてきた。

「なんか、病院みたいね。まぁ、それを言うならこの学院自体が病院みたいだけど」

 石造りの建物を見上げながら夕子が息を吐く。

 建物自体は灰色の煉瓦造りで長方形だ。上部が丸くなった窓は、どこかメルヘンティックで童話のお城めいていて、見ようによってはロマンティックにも思えたかもしれないが、とにかく全体に雰囲気が重い。

 どっしりとしていて、見ていると建物が迫ってきて倒れてきそうな気持になってくる。威厳がある、というより威圧感にあふれているのだ。

「なんかさぁ……窓の向こうにはお姫様より魔女がいそうじゃない? ハハ」

 美波は笑えない。

「ここに雪葉がいるのね」

 二人は正門の赤茶けた扉のまえに立った。見れば見るほど古色蒼然こしょくそうぜんとしていて、それなりに文化的価値はあるのかもしれないが、十代の女の子にとってはやはり重々しすぎる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

死者からのロミオメール

青の雀
ミステリー
公爵令嬢ロアンヌには、昔から将来を言い交した幼馴染の婚約者ロバートがいたが、半年前に事故でなくなってしまった。悲しみに暮れるロアンヌを慰め、励ましたのが、同い年で学園の同級生でもある王太子殿下のリチャード 彼にも幼馴染の婚約者クリスティーヌがいるにも関わらず、何かとロアンヌの世話を焼きたがる困りもの クリスティーヌは、ロアンヌとリチャードの仲を誤解し、やがて軋轢が生じる ロアンヌを貶めるような発言や行動を繰り返し、次第にリチャードの心は離れていく クリスティーヌが嫉妬に狂えば、狂うほど、今までクリスティーヌに向けてきた感情をロアンヌに注いでしまう結果となる ロアンヌは、そんな二人の様子に心を痛めていると、なぜか死んだはずの婚約者からロミオメールが届きだす さらに玉の輿を狙う男爵家の庶子が転校してくるなど、波乱の学園生活が幕開けする タイトルはすぐ思い浮かんだけど、書けるかどうか不安でしかない ミステリーぽいタイトルだけど、自信がないので、恋愛で書きます

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

白薔薇黒薔薇

平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...