聖白薔薇少女 

平坂 静音

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別館 一

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 夕方頃、舎監室に呼ばれた美波はシスター・グレイスから雪葉の荷物を別館へ持っていくようにと言われて目を見張った。

「あの、別館って、特別奉仕とかをする場所のことですよね?」

 敷地内の北側にある三階建ての建物であり、そこで生徒が特別奉仕と呼ばれる作業をしていることを聞いている。なぜ来たばかりの雪葉がそんなところへ行くのだろう。

「別館は医務室でもあるのですよ。健康に問題のある生徒はそこで生活するようになっているのです。彼女には通常の寮生活は無理ですから、そこへ行かせました。あなた、彼女の持ち物や着替えをそこへ持って行ってあげなさい」

「は、はい。……でも、全部持っていくんですか? つまり、あの、元気になったらまた寮へ戻ってくるんですよね?」

 そこでシスター・グレイスは考えこむような顔つきになる。ほとんど白色に見えるプラチナブロンドの眉がしかめられる。

「……どのみち、もうしばらくすれば夏期休暇に入りますし、全部持って行った方がいいかしら。荷物が多いようなら、ミス・オゼ……夕子にも頼みなさい」

 夏期休暇と聞いて嫌な予感がする。美波は気になっていたことを訊いた。

「あのぉ……わたしは夏期休暇には……?」

 シスター・グレイスの目がゆがむ。そこには哀れみのようなものが混じっていて美波は背筋が寒くなってくる。

(やっぱり、帰れないの?)

「親御さんからは何も聞いていないの?」

「き、聞いていません!」

 溜息をひとつこぼしてシスター・グレイスは説明した。

「あなたと夕子は、今度の夏期休暇には家には帰れないのよ」

 最悪だった。そんなことは母からは聞いていなかった。

「入ったのが、あなたたちは六月の後半でしょう? 休暇まで一ヶ月しかないのだから、学院生活を学ぶためでもあるのよ。あなたたちには、休暇返上で別館で奉仕作業をしてもらうことになっています」

「そ、そんなぁ……」

 本当に最悪だ。そういうようなことを今までにも聞かされてはいたが、心のどこかで、夏休みがないわけがない、と甘く踏んでいたのだ。

「あの、それじゃ、冬休みとか、来年の夏は……?」

「先のことは、いずれ学院長から連絡があるでしょう。なんといっても、あなたたちは、特殊奉仕者になるのだから」

「え、と、特殊……奉仕者って……あの」

 以前、中庭で見かけた生徒たちのことを思い出した。彼女たちは特殊奉仕者だと裕佳子が言っていなかったか。同年代とは思えないような冷めた、疲れたような目をした少女たち。
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