聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
56 / 210

しおりを挟む
「109号室で騒いでるみたい。雪葉とシスター・アグネスが」

「え?」 思わず美波はぎょっとした。

「ほら、雪葉、髪切りに行かないといけないのに行かなかったじゃない? それでシスター・アグネスが怒ってしまってさ。学院長まで来ているらしいよ」

 やっぱり、という思いが美波の胸にせまる。あのまま済むとは思わなかったが。

「ね、行ってみよう」

 夕子につられて廊下の角を曲がって109号室に行くと、すでに数人の生徒がドアのところに集まって、なかの様子に聞き耳をたてている。ドアはかすかに開いているので、怒鳴り声が外まで丸聞こえだ。

「嫌だったら! 絶対に嫌!」

「何言っているの、規則でしょう。いらっしゃい」

 そんなやりとりが聞こえてくる。

「うわぁ、やるねぇ、雪葉」

 夕子の目は楽しそうに輝いているが、口調にはどこか感嘆もまじっている。

「こっちへいらっしゃい!」

「いや!」

 その後、びっくりするような雪葉の悲鳴が聞こえ、その場にいた生徒たちは全員凍り付いてしまった。



 
「あなたたち、何をしているんですか、さっさと部屋に戻りなさい!」

 ドアから出てきた学院長のその声で皆逃げるように去ろうとした。だが、シスター・アグネスによって美波と夕子は呼び止められた。

「あなたたちは掃除をしなさい」

 命じられて奇妙に思いながらおずおずと部屋に入った二人は、室に散らばる黒髪を見て仰天した。

 さらに部屋の中央では美波がうずくまって泣いており、あの長かった髪は無残に短く切られている。美波はぞっとした。

 無理やり切られたのだ。

 こんなことが今時、本当にあるのだろうか。美波は異様なものを見た衝撃に立ち尽くしていた。

「……ちょっと、大丈夫?」

 夕子が訊くが、雪葉にはまるで聞こえていないようだ。

「うー! うう!」 

 どうも様子がおかしい。

「シスターを呼んでくるわ」

 あんなことがあった後でも、シスターに頼るしかないのが悔しいが、雪葉の様子は尋常ではない。美波はあわて
てシスターを呼びに廊下に出た。

 長い廊下を走り、舎監が詰めている一階の部屋のドアをノックすると、出てきたのは初老になろうかというシスター・グレイスだ。彼女は校医も兼ねている。

「どうしました?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白薔薇黒薔薇

平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...