聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 晃子は机に座ってぼんやりとしている。もう夕暮れどきだというのに明かりをつけていない。部屋は美波たちが使っているのと同じスペースだが、向かって左側のベッドには布団もシーツもないせいか、やや広々として見える。というよりも、やや寒々として見える。

「……切らないわよ」

「え、なんで?」

「私、絶対髪を切らないわ。パパだってそんなこと許さないわ」

「そ、そんなこと言ったって、切らないと怒られるわよ」

「ほっといてくれる?」

 ひどくきつい言い方に、美波はそれ以上言うべき言葉がなかった。

 以前の学校でも、中学でも、教師が何度注意しても髪を染めたり、色つきのリップを塗ったり、マニキュアを塗ったりしてくる生徒はいた。制服のスカートの長さを守らなかったり、ブレザーをわざと崩して着る生徒もいた。叱られようが内申書にひびこうがおかまいなしだ。
 
 一方、校則は守りつつも、放課後や休日には化粧したり派手な格好をするという割り切れるタイプの生徒もいた。夏休みのあいだだけパーマをかけたり染めたり好きにして、新学期が始まるまえには元に戻すという合理的な生徒もいた。美波としては後者の方が正しく賢いと思うのだが、何故か教師の心象を悪くしても校則に逆らおうとするのが、若さ、というより幼稚な時代の証しなのだろう。そう、雪葉は外見からはそう見えないが、ひどく幼稚なのだ。

「夕食に行かないの?」

 行けばシスターたちに咎められるのは判りきったことだ。

「行かないわ」

 そう……、と美波は呟いた。

「具合悪いって伝えておこうか?」

「けっこうよ」

 声には一片の感謝もない。

「なにか……持ってこれるようなものがあれば持ってこようか?」

 昨日は小さなヨーグルトがついていた。

「けっこうよ。何も食べたくないわ。ほっといてくれる?」

 だったら、明日はどうするの? とは、つん、と澄ましたその横顔に、もはや訊く気もしない。

 全身からかもしだされる拒絶と反発のオーラのようなものが、美波の同情心を消してしまっていた。

(なによ、意地張って……。もう、勝手にしたら)

 思えばただ一日違いで入学したというだけで、べつに雪葉と親しいわけでも友達というわけでもない。いや、美波としてはなるべくなら仲良くやりたいが、雪葉の方ではそういうつもりはないらしい。

 美波はひどくぎすぎすした気分で109号室を去った。
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