聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「信じられないわ……。私がこんなところで半年以上も過ごさなければならないなんて」

 その言葉は少し気になった。

「半年以上? 卒業までいないの?」

「……いたくないわ。でも、少なくとも七カ月はどうしてもいなくちゃならないわ……」

 雪葉の表情はひどく悪い。彼女は力なく、それでもご飯とお味噌汁だけは口にした。秋刀魚さんまにはなかなか箸をつけようとしない。

「食欲がないのよ、今はまだ……」

 そんなことを言いながら、雪葉は不味まずそうにわずかな食事をすます。




 雪葉の部屋は美波たちの部屋から少しはなれた109号室で、現在は一人部屋になる。

「いいなぁ、一人部屋だなんて。あ、べつに美波と一緒が嫌ってわけじゃないよ」

 頷きながらも美波は複雑だ。この状況で一人は、女の子にとってはかえって辛いのでは。

「あの子なら、一人の方がいいんじゃない。なんていうのか、個人主義タイプだから。あたしもそうだけどさ」

 そう言っているまさにそのとき、ドアをノックする音がひびく。

「あの……お風呂へは何時頃行くの?」

 そこにいたのはバスタオルを手にした雪葉だった。やっぱり寂しくてわざわざここまで訊きに来たのだ。

「そろそろ行こうと思っていたの。じゃ、一緒に行く? 夕子も行こうよ」

「うーん。あたしはもう少ししてから行く」

 美波は棚のバスタオルをつかみ、着替えの下着や、ブラシと無色のリップなどを入れたポーチを用意する。

「タオルは毎朝、係の人が届けに来てくれるの。で、そのとき洗濯物をわたすのよ」

「係の人?」

 美波が、自分自身も聞いた洗濯物の出し方を説明すると、雪葉は怪訝そうな顔になる。

「……それって、生徒が洗濯を担当しているの? つまり、私の洗濯物を他の生徒が洗うということ?」

 雪葉の複雑な表情に美波は説明しづらくなる。美波だとて、最初に聞いたときは微妙な気持ちになったのだ。

 自分の洗濯物を人に洗われるというのは嫌なもので、運動部などでは下級生が上級生のユニフォームを洗ったりすることもあるかもしれないが、運動部の経験のない美波には、そういった状況はひどく居心地悪いものに思える。

「この学院て、いろいろ変わっているのよね……、廊下では私語も駄目なんだって」

 浴場に着くと、そこには十数人並んでいるが、今日はまだ少ない方だ。それでもその列を見て雪葉は顔をしかめる。

「そこの……、あなた」

 声をかけてきたのは、やはりここで見かけたことのある小早川紗江である。

「名は?」

 ぞんざいに訊かれて雪葉の顔がこわばる。
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