43 / 210
三
しおりを挟む
そんなふうにして、常に奇妙なもやもやを感じながらも、初日の授業がすべて終わって放課後になり、これで自由だと気がゆるんだ瞬間、スピーカーから例の音楽が流れてきた。朝は寮の掃除、夕方は校舎の掃除をすることになっているため、ふつうの学校の倍掃除をしなければならない。
ひどくテンポの遅いその曲を聞きながら、教室の掃き掃除をさせられる。ありがたいことに、校舎のトイレ掃除は今回は別の生徒に割り当てられた。
それも終えて、今度こそ帰れると廊下に出た美波の耳に、聞き覚えのある声がひびいてきた。
「この廊下を掃除したのは誰ですか?」
レイチェル、つまり裕佳子だ。指差した箇所はとなりの青薔薇組の担当する場所である。
「あたしよ」
もしや、と思ったが、やはり声を返しているのは夕子である。
「ここ、まだ汚れています。もう一度掃除しなさい」
夕子は怒った顔になったが、それ以上言い返すこともなく、モップを取りに行く。内心美波ははらはらして見ていたが、怒りに顔を赤くしつつも夕子が掃除をしているので安心した。が、次にひびいた裕佳子の言葉に身をすくめた。
「カードを出しなさい」
「なんでよ!」
「掃除をおこたった罰です」
夕子はますますいきりたったが、裕佳子の顔は冷静だ。
「ちゃんとしてるじゃん!」
「掃除をおこたったのですから減点です。カードを出しなさい」
「はぁ!」
そばにいた別の生徒が夕子になにか耳打ちしている。おそらく、言われたとおりにした方がいい、と説得しているのだろう。夕子は怒りに頬をどす黒く燃やしながら、悔しげにポケットから青いカードを出した。
同い歳の裕佳子に上から目線で命令され、召使のように扱われるのは、気の強い夕子にとっては我慢ならないはずだ。美波は夕子が気の毒でたまらない。実際、見ていて裕佳子の態度に腹も立つ。なにがどうとうまく説明できないのだが、裕佳子の態度や雰囲気は美波の神経をもひっかくものがある。
「あ、いたわ。美波、夕子、今すぐ学院長室へ来るようにって」
夕食までまだ一時間以上あり、一日の緊張で疲れていた美波がベッドで寝そべっていると、晃子が部屋へやって来てそう声をかけた。
「え、なんで?」
同じように自分のベッドで寝そべっていた夕子も身を起こす。
「わからないけれど、廊下歩いていたらシスター・アグネスに声をかけられたの。二人に今すぐ学院長室へ来るように伝えてほしいって」
ひどくテンポの遅いその曲を聞きながら、教室の掃き掃除をさせられる。ありがたいことに、校舎のトイレ掃除は今回は別の生徒に割り当てられた。
それも終えて、今度こそ帰れると廊下に出た美波の耳に、聞き覚えのある声がひびいてきた。
「この廊下を掃除したのは誰ですか?」
レイチェル、つまり裕佳子だ。指差した箇所はとなりの青薔薇組の担当する場所である。
「あたしよ」
もしや、と思ったが、やはり声を返しているのは夕子である。
「ここ、まだ汚れています。もう一度掃除しなさい」
夕子は怒った顔になったが、それ以上言い返すこともなく、モップを取りに行く。内心美波ははらはらして見ていたが、怒りに顔を赤くしつつも夕子が掃除をしているので安心した。が、次にひびいた裕佳子の言葉に身をすくめた。
「カードを出しなさい」
「なんでよ!」
「掃除をおこたった罰です」
夕子はますますいきりたったが、裕佳子の顔は冷静だ。
「ちゃんとしてるじゃん!」
「掃除をおこたったのですから減点です。カードを出しなさい」
「はぁ!」
そばにいた別の生徒が夕子になにか耳打ちしている。おそらく、言われたとおりにした方がいい、と説得しているのだろう。夕子は怒りに頬をどす黒く燃やしながら、悔しげにポケットから青いカードを出した。
同い歳の裕佳子に上から目線で命令され、召使のように扱われるのは、気の強い夕子にとっては我慢ならないはずだ。美波は夕子が気の毒でたまらない。実際、見ていて裕佳子の態度に腹も立つ。なにがどうとうまく説明できないのだが、裕佳子の態度や雰囲気は美波の神経をもひっかくものがある。
「あ、いたわ。美波、夕子、今すぐ学院長室へ来るようにって」
夕食までまだ一時間以上あり、一日の緊張で疲れていた美波がベッドで寝そべっていると、晃子が部屋へやって来てそう声をかけた。
「え、なんで?」
同じように自分のベッドで寝そべっていた夕子も身を起こす。
「わからないけれど、廊下歩いていたらシスター・アグネスに声をかけられたの。二人に今すぐ学院長室へ来るように伝えてほしいって」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる