31 / 210
奉仕 一
しおりを挟む「これがあなた方のカードです」
寮の部屋にもどった二人はシスター・アグネスの訪問を受け、トランプサイズのカードの束を差しだされた。
「十枚ずつあります。赤いのが美波、青いのが夕子です。すべて名前を書いておくように」
「って、ことは、私は青薔薇組?」
「わたしは赤薔薇組なんですね?」
確認しながら内心美波はすこし嬉しい。晃子と同じクラスになるのだ。一方、夕子は苦々しい顔付きになっている。レイチェルこと裕佳子とおなじクラスだからだろう。
「レイチェルから聞いていると思いますが、ルール違反をした場合はこのカードを、」
「そのことですけれど、聞いてないです!」
夕子の言葉にシスター・アグネスは首を振った。
「仕方ないわねぇ。説明をするようにと言ったのに、抜けていたのね」
「それで、廊下で喋ったとかいってプレとかのえーと……、誰だった?」
名を思い出せない美波が夕子を見ると、憮然と告げる。
「貝塚。貝塚寧々」
意外と夕子は記憶力がいい。
「そうです、その貝塚さんからルール違反だからカードを持って来るようにと言われたんです。でも、知らなかったのに、出さないと駄目ですか?」
美波は救いをもとめるような顔になっていた。
「仕方ないわ。ルールはルールですからね。明日、寧々のところへカードを持っていきなさい」
「そんなぁ! あいつが……、レイチェルの奴がちゃんと説明してないのが悪いんじゃないですか」
夕子の言い分は、シスター・アグネスの榛色の瞳をうっすら冷たく光らせた。
「言葉づかいを改めなさい。彼女はジュニア・シスターなんですよ。彼女を侮辱することはシスターへの冒涜であり、学院長への冒涜でもあり、それはとりもなおさず、学院すべてへの冒涜、神への冒涜でもあります」
――はぁ? あんた、正気?
開けられた夕子の口から言葉はもれないが、その声なき声が美波には聞こえてくる。
「本来なら、その言葉づかいだけでもカードを取るはずですが、今日だけは許しましょう。明日にはかならず寧々のところへカードを持って行くのですよ、いいですね、二人とも」
「はい……」 と言うしかなく、美波は力なく告げた。
隣の夕子も不承不承うなずいている。
「あ、それと」
美波は気になっていたことを訊ねた。
「あの、洗濯物、どこで洗濯すればいいんでしょうか?」
「ああ、それなら、そこの棚の下にランドリー用の袋があるはずです」
言われて棚のちいさな扉を開けると、たしかに中に二枚の網袋がある。洗濯機に洗濯ものを入れるとき、服が傷まないように入れるものだ。実家にもあった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
デアシスタントス
huyuyu
ミステリー
「― これは生死を分ける戦いです。」
それは、様々なルールで叶望達を◯えていく、残酷で絶望の時だった…
叶望達は絶望の中、彼女は…。
※鬱表現と血の表現がややあります。
苦手な方はブラウザバックをオススメします。
またこの作品へのコメントで、ネタバレ発言は厳禁です。

蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。

放課後は、喫茶店で謎解きを 〜佐世保ジャズカフェの事件目録(ディスコグラフィ)〜
邑上主水
ミステリー
かつて「ジャズの聖地」と呼ばれた長崎県佐世保市の商店街にひっそりと店を構えるジャズ・カフェ「ビハインド・ザ・ビート」──
ひょんなことから、このカフェで働くジャズ好きの少女・有栖川ちひろと出会った主人公・住吉は、彼女とともに舞い込むジャズレコードにまつわる謎を解き明かしていく。
だがそんな中、有栖川には秘められた過去があることがわかり──。
これは、かつてジャズの聖地と言われた佐世保に今もひっそりと流れ続けている、ジャズ・ミュージックにまつわる切なくもあたたかい「想い」の物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話


月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる