聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
31 / 210

奉仕 一

しおりを挟む

「これがあなた方のカードです」

 寮の部屋にもどった二人はシスター・アグネスの訪問を受け、トランプサイズのカードのたばを差しだされた。

「十枚ずつあります。赤いのが美波、青いのが夕子です。すべて名前を書いておくように」

「って、ことは、私は青薔薇組?」

「わたしは赤薔薇組なんですね?」

 確認しながら内心美波はすこし嬉しい。晃子と同じクラスになるのだ。一方、夕子は苦々しい顔付きになっている。レイチェルこと裕佳子とおなじクラスだからだろう。

「レイチェルから聞いていると思いますが、ルール違反をした場合はこのカードを、」

「そのことですけれど、聞いてないです!」

 夕子の言葉にシスター・アグネスは首を振った。

「仕方ないわねぇ。説明をするようにと言ったのに、抜けていたのね」

「それで、廊下でしゃべったとかいってプレとかのえーと……、誰だった?」

 名を思い出せない美波が夕子を見ると、憮然ぶぜんと告げる。

「貝塚。貝塚寧々」

 意外と夕子は記憶力がいい。

「そうです、その貝塚さんからルール違反だからカードを持って来るようにと言われたんです。でも、知らなかったのに、出さないと駄目ですか?」

 美波は救いをもとめるような顔になっていた。

「仕方ないわ。ルールはルールですからね。明日、寧々のところへカードを持っていきなさい」

「そんなぁ! あいつが……、レイチェルの奴がちゃんと説明してないのが悪いんじゃないですか」

 夕子の言い分は、シスター・アグネスのはしばみ色の瞳をうっすら冷たく光らせた。

「言葉づかいを改めなさい。彼女はジュニア・シスターなんですよ。彼女を侮辱することはシスターへの冒涜であり、学院長への冒涜でもあり、それはとりもなおさず、学院すべてへの冒涜、神への冒涜でもあります」

 ――はぁ? あんた、正気? 

 開けられた夕子の口から言葉はもれないが、その声なき声が美波には聞こえてくる。

「本来なら、その言葉づかいだけでもカードを取るはずですが、今日だけは許しましょう。明日にはかならず寧々のところへカードを持って行くのですよ、いいですね、二人とも」

「はい……」 と言うしかなく、美波は力なく告げた。

 隣の夕子も不承不承うなずいている。

「あ、それと」

 美波は気になっていたことを訊ねた。

「あの、洗濯物、どこで洗濯すればいいんでしょうか?」

「ああ、それなら、そこの棚の下にランドリー用の袋があるはずです」

 言われて棚のちいさな扉を開けると、たしかに中に二枚の網袋がある。洗濯機に洗濯ものを入れるとき、服がいたまないように入れるものだ。実家にもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10日間の<死に戻り>

矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...