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奉仕 一
しおりを挟む「これがあなた方のカードです」
寮の部屋にもどった二人はシスター・アグネスの訪問を受け、トランプサイズのカードの束を差しだされた。
「十枚ずつあります。赤いのが美波、青いのが夕子です。すべて名前を書いておくように」
「って、ことは、私は青薔薇組?」
「わたしは赤薔薇組なんですね?」
確認しながら内心美波はすこし嬉しい。晃子と同じクラスになるのだ。一方、夕子は苦々しい顔付きになっている。レイチェルこと裕佳子とおなじクラスだからだろう。
「レイチェルから聞いていると思いますが、ルール違反をした場合はこのカードを、」
「そのことですけれど、聞いてないです!」
夕子の言葉にシスター・アグネスは首を振った。
「仕方ないわねぇ。説明をするようにと言ったのに、抜けていたのね」
「それで、廊下で喋ったとかいってプレとかのえーと……、誰だった?」
名を思い出せない美波が夕子を見ると、憮然と告げる。
「貝塚。貝塚寧々」
意外と夕子は記憶力がいい。
「そうです、その貝塚さんからルール違反だからカードを持って来るようにと言われたんです。でも、知らなかったのに、出さないと駄目ですか?」
美波は救いをもとめるような顔になっていた。
「仕方ないわ。ルールはルールですからね。明日、寧々のところへカードを持っていきなさい」
「そんなぁ! あいつが……、レイチェルの奴がちゃんと説明してないのが悪いんじゃないですか」
夕子の言い分は、シスター・アグネスの榛色の瞳をうっすら冷たく光らせた。
「言葉づかいを改めなさい。彼女はジュニア・シスターなんですよ。彼女を侮辱することはシスターへの冒涜であり、学院長への冒涜でもあり、それはとりもなおさず、学院すべてへの冒涜、神への冒涜でもあります」
――はぁ? あんた、正気?
開けられた夕子の口から言葉はもれないが、その声なき声が美波には聞こえてくる。
「本来なら、その言葉づかいだけでもカードを取るはずですが、今日だけは許しましょう。明日にはかならず寧々のところへカードを持って行くのですよ、いいですね、二人とも」
「はい……」 と言うしかなく、美波は力なく告げた。
隣の夕子も不承不承うなずいている。
「あ、それと」
美波は気になっていたことを訊ねた。
「あの、洗濯物、どこで洗濯すればいいんでしょうか?」
「ああ、それなら、そこの棚の下にランドリー用の袋があるはずです」
言われて棚のちいさな扉を開けると、たしかに中に二枚の網袋がある。洗濯機に洗濯ものを入れるとき、服が傷まないように入れるものだ。実家にもあった。
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