聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 うまく言えないが、それこそ美波が通っていた前の学校の女生徒たちとは何かちがう。何かがちがうのだが、それがいったい何なのか美波にはわからない。

(雰囲気……っていうのか、なんだろう?)

 やけに静かなのだ。                            

 ミッション系だからそう教育されているのかもしれないが、十代の少女というものは、もっとにぎやかなものではないだろうか。

 庭でベンチに座っていたあの三人の生徒にしても、普通、この年頃の少女が三人もつどえば――スマートフォンでも触っていないかぎり――もう少ししゃべったり笑ったりしたりしないものだろうか。

「礼拝堂には、ここからも行けます」

 そういって裕佳子は廊下の奥のガラスドアを押す。コンクリートの歩道が行く手をしめすように伸び、そこを歩いていくと、庭木の向こうに黒い屋根の建物が見えてきた。その様子は、昔の洋画に出てくる教会そのものだ。

 美波も夕子もだまって礼拝堂を見上げた。

「多分、こちらにシスター・マーガレットがいらっしゃるはずです」

 新たに聞く名前に興味をひかれて堂内にはいると、十字架をかかげた祭壇らしき場所があり、そのすぐそばとなる一番前の席に黒い人影が見える。 

「シスター……お邪魔してよろしいでしょうか?」

「あら、レイチェル。ごきげんよう」

 こういう挨拶をする人が本当にいるのだと美波は目を見張った。

 立ち上がって三人に向きあった女性は、僧服の下から見える黒い瞳をきらめかせて、白い顔にこぼれるような笑顔をつくり、また美波を驚かせた。

 シスター・アグネスも美人だったが、ややクールな印象の彼女とちがって、マーガレットと呼ばれたその人からは暖かい親しみを感じる。ひんやりとした空気の礼拝堂のなかだけに、いっそう彼女からはおだやかでほのぼのしたものを感じるのだ。微笑すると目尻にかすかに笑い皺が浮かぶ。美波の母と同年代ぐらいだろうが、すこしも老けて見えない。

(……いい人みたい)

 隣の夕子も毒づくことも反抗的な目つきもせず、やや驚いた顔でシスター・マーガレットを見上げている。

 シスター・マーガレットは身長は平均ぐらいだが身体付きは小柄で、そのせいかいっそう気安く見える。言葉は完全に日本人だ。標準語を喋っていてもかすかに訛りを感じる裕佳子の日本語にくらべれば、完璧な日本語だ。

「こちらのシスター・マーガレットがカウンセラーです」

「どうぞ、よろしく。ミス・コンドウとミス・オゼですね。今からは美波と夕子と呼んだほうがいいかしら?」

「は、はい」

「どうぞ」
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