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14巻

14-1

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 晴れた日にこそ寝坊ねぼうして、昼過ぎに起きて昼寝をしたい今日この頃。
 たまには二度寝がしたいと常日頃願っているけどかなわないはかなき夢。
 さわやかな朝のモーニングコールは素敵な口臭のベロベロ攻撃。良い夢、悪い夢、すべてが吹っ飛ぶ強烈な目覚め。ペパーミントの清涼感ある目覚ましが欲しい素材採取家のタケルです。皆さんすこやかに過ごされていますか? たまには自力で起きたい。
 早速さっそくだが、俺は多趣味だ。
 前世では映画鑑賞、音楽鑑賞、読書に散歩に旅行にテレビゲームにと、娯楽にあふれた世界でその恩恵を大いに受けていた。
 その中でも力を入れていたのは、ご当地お土産みやげ集め。
 旅行先で民芸品やら工芸品やらを買うのが好きなのだ。
 北海道のしゃけくわえた木彫きぼりのくま、福島県の赤べこ、茨城県の笠間焼かさまやきの湯飲み、ご当地ナニナニ的なキャラクターものも好きだった。
 収集癖があると後々苦労するのはわかる。置き場所とか。置き場所とかね。飾ってもほこりかぶって掃除大変じゃんとかよくわかる。
 しかしなんでだか買ってしまうあの妙な魅力。冷蔵庫に貼るマグネット型の栓抜きとか。それ必要か? って思うものでもコレクターにはたまらないんだわ。
 高速のサービスエリアでは真っ先にキーホルダーコーナーをチェックしたものだ。キーホルダーとかストラップとか、買いやすいんですよね。ちっさいし。
 有名な工芸品ならば何でも買っていたわけではなく、ピンとくるものというか、これは欲しいぞと思えるものしか買わなかったこだわりもある。どうして買ったのか覚えていないなぞ物体を玄関に飾っていました。なんというか……前衛的で気色の悪い……剣みたいなでかいオブジェ。あれは今でもどこで買ったのか思い出せない不思議。あるよねそういうの。
 そんな収集癖は転生しても続いています。
 映画鑑賞は無理になり、音楽鑑賞も気軽にできるようなものではなくなった。
 だがしかし、工芸品を買うのは止められなかったのだ。
 マデウスには旅行をするという概念がそもそもない。
 貴族が領地を視察したり、商人が町から町へと移動したり、そういった仕事上の大移動を旅行とは言えない。
 体調不良で隠居いんきょして保養所で暮らすのも旅行とは言えない。
 そのためお土産を露店ろてんなどで売ることはあまりないのだが、貴族や商人は買うこともある。綺麗きれいな宝石が付いた花瓶とかつぼとか、最先端の流行を追った衣類など。
 俺は辺境の地トルミ村から外に出ない村人たちに、村の外で作られた工芸品を見せたかったという大義名分たいぎめいぶんのもと、蒼黒そうこくだんの拠点にある広間の棚に飾れるだけのお土産を買っている。
 そのうちご当地お土産博物館とか建設しちゃおうかしら、なんてたくらみ中。種族特有の工芸品なんて展示したら、めずらしくて喜ばれるんじゃないかな。
 トルミ村でもご当地ストラップを作ってもらおう。ビーちゃんストラップはどうでしょう。絶対可愛い。
 王都におもむいた際お土産を吟味ぎんみしていた俺に、クレイは「無駄むだなものを」と言ったことがある。
 そりゃさ。生きるためには必要はないよな。木彫りのおおかみとか、こけしみたいな造形の何かしらの神様の像とか、完全に無駄なものだ。むしろ、荷物になる。
 だがしかし、生きるためには無駄だけども、無駄なことこそ大切だと思う俺。
 生きているのなら楽しまないと。
 俺は何でも入る優秀なかばんを持っているのだから、お土産くらい買ってもいいと思うんだ。鞄の性能は最大限利用する。
 むしろ鞄にアレコレ入れすぎているのだけども、俺は基本的に心配性だから仕方がない。飲料水入りの大樽おおだるが二百個入っているのも仕方がないのだ。
 俺の収集癖は蒼黒の団にしっかりと伝染している。
 ビーは押し花が趣味だったりする。好きな花を採取してしばらくで、特注で作ってもらった全ページ白紙の本に閉じて収集しているのだ。なんとも可愛い。
 クレイは故郷で暮らす息子のギンさんと、ギンさんが引き取って育てている双子にお土産を買うようになった。竿ざおに付けられる疑似餌ぎじえの代わりになるものや、動物がモチーフの人形など、たまに転移門ゲートを使ってギンさんたちにお土産を渡しに行っている。
 ブロライトもさと兄姉きょうだいたちにお土産を買っていた。何か……よくわからない生き物が描かれた大皿とか。地獄じごくからの使者が持っていそうな黒紫色の小刀こがたなとか。店で売れ残って数年は経過していただろうものを好んで買うんだよな。ブロライトの好みなのだろうけども、アメーバみたいな茶色の何かが描かれた壁掛けタペストリーをもらったアーさん、笑顔が引きつっていた。
 スッスは蒼黒の団に入ってから無駄なものを買う楽しさに目覚めた。
 日々の生活と仕送りとに追われていたスッスは、仕送りの額を増額しても余る依頼報酬額に戸惑いつつも、生活必需品以外のものを買っても余裕があることに気づいた。
 蒼黒の団は三食おやつ付きで絶対に食に不満を持たせないことをモットーとしているため、スッスは買い食いをしなくなった。俺は食うことも好きだから買い食いしまくっているんだけども。
 生活に余裕が生まれれば、次に必要なものは趣味だと思う。
 それは俺が元日本人のせいなのか、余裕のある生活を送れているからこそ思うのか、それはわからない。
 趣味が無駄なことなら、俺は無駄なことにこそ心血しんけつを注ぎたい。
 無駄なことを楽しむために仕事をし、稼いでいるのだから。
 ご当地キーホルダーや人形をアルツェリオ王国内に流行はやらせたいとたくらんでいる俺は、まずはトルミ村で反応を見ることにしている。トルミ村の特産品にしてしまっても良いし、小物作りは外で作業ができない人の小遣こづかい稼ぎにもなる。
 村には木工細工が得意なエルフ族がいる。彫り物が得意なコポルタ族もいる。金属に関することはドワーフ族に聞けばいい。魔法や魔道具マジックアイテムはユグル族に相談だ。
 各領地の名産品や名物料理をモチーフにしてもいいし、種族別マスコットなんてのも作っていいんじゃないかな。コポルタストラップは俺が買う。
 一つ買ったら満足してしまうかもしれないが、似たような意匠いしょうで似たような小物を各領地で販売するのだ。もしかしたらそろえたいと思う貴族が出てくるかもしれない。いや、グランツきょう嬉々ききとして揃えそうな気がする。
 お金がある人にはお金を使ってもらい、お金が必要な人にはお金を稼いでもらう。
 やりたいことは多々あるのだが、やらなければならないことのほうが多い現実。
 ルカルゥとザバを故郷の国まで送っていくためには、有翼人ゆうよくじん末裔まつえいであるエステヴァン子爵ししゃくが所有するみちびきの羅針盤らしんばんという魔道具マジックアイテムが必要となる。
 だがしかし、導きの羅針盤はバリエンテの大穴おおあなという名の巨大洞窟内に保管されており、おまけにその洞窟にはモンスターがわらわらと。
 ランクS+の凶悪モンスター、巨大モグラことコルドモールが闊歩かっぽする洞窟内で、大きな垂れ耳が特徴のうさぎ種族、アルナブ族と邂逅かいこう
 うさぎ獣人の始祖であるアルナブ族は、ふわふわの毛皮をまとった見た目完全にうさぎさん。新しいもっふり種族じゃないかと喜ぶ間もなくやみギルド所属の盗掘者がコルドモールから逃げているのを発見。はい、面倒事が飛び込んできました。
 盗掘者は導きの羅針盤を狙っていたらしく、俺たちが入ったバリエンテの大穴があるマティアシュ領ではなく、お隣のガシュマト領から侵入。犯罪者集団の闇ギルド所属だというから話がややこしくなった。
 おまけに俺たちが今いる洞窟内、アルナブ族の避難所から外に出ればそこはガシュマト領という驚き。
 導きの羅針盤はコルドモールが食っちゃって、おなかで大切に保管中。なんで食うのさ。
 おびえる数百人のアルナブ族たち。
 必死で逃げる盗掘者。



 1 さて、どうするよ


 薄暗い穴の中では天井からぱらぱらと土砂が落ち、もろい部分は少しずつ崩れている。
 ずしん、ずしん、という不気味な足音と。
 がりがり、ごりごり、という壁を削りながら進む音。
 垂れ耳うさぎ族――アルナブ族たちは展開された結界内に避難しているが、大地が揺れ、天井が崩れそうな状況に怯え、身体の震えが治まらないようだった。
 壁の中をでっかいコルドモールモグラが移動しているせいで、アルナブ族たちの避難所としている巨大な空間は崩壊寸前。だが、結界魔石が機能し続ける限り命の危険はない。
 もしも天井が崩落しても、結界魔法を展開してから全員に浮遊魔法をかけ、上へ上へと目指せば脱出は可能。出た先がマティアシュ領のお隣さん、ガシュマト領っていうのが困るけども。
 追尾魔法をかけたコルドモールは壁の中をゆっくりと移動中。
 ゆっくりと言っても決して動きを止めることはなく、がっしんがっしん岩盤がんばんを掘り進めているだろうから振動がひどい。
 何かを探しているのか、それともただ本能で歩いているのか。
 アルナブ族の避難所に近づいたかと思えば遠ざかり、再びこっち来るかな? と思えば更に遠ざかる。
 こんな状況下で暮らしてきたアルナブ族はどれだけ恐ろしい思いをしてきたか。
 ルカルゥは俺のローブの下で震えていた。大丈夫だよという思いを込めてルカルゥの頭をでると、もふりとした感触が腕に纏わり付く。

「タケル様、タケル様、あのならず者たちは起きないとのことです?」
「ピュイッ!」

 俺の手と腕に巻き付くようにザバがぬるりとしがみ付き、そのふわふわボディをビーが引き剥がそうとする。しかしザバは俺の手首にぐるぐると絡み付く。ビーは更に激高げきこうして騒ぐ。そんなところで争わないで。
 ザバが指さす先には、結界内の端っこで昏倒こんとうしている盗掘者二名。
 俺が穏やかな夢を提供したため、彼らは微笑ほほえみながら夢を見ている。
 クレイが縄で念のために縛ってくれたが、俺が起こさない限り眠り続けるだろう。無駄に騒がれるよりマシだ。
 コルドモールがモグラのモンスターならば、目は見えないのだろう。もしくは暗闇の中で目は必要ないのかもしれない。代わりに嗅覚と聴覚が発達していてにおいや音に敏感だとしたら、静かにしなければ。

「起きないから大丈夫。ビー、あんまり大きな声で叫ぶなよ。モグラを呼ぶことになるから」
「ピュイッ」
「ザバも小さい声でしゃべってくれよな。ほら、ルカルゥが怯えているだろう? 落ち着かせたいから襟巻えりまきになってくれ」
「ややや、これは失礼しましたことで」

 そう言いながらルカルゥの首に巻き付いたザバは、そのまま沈黙。ルカルゥはザバが定位置に戻ったことで少し安心したようだ。

「ピュイ?」

 ビーの頭とルカルゥの頭を撫でていると、ビーは安眠中の男たちをどうするのと聞いてくる。

「指名手配の賞金首だから、生きたまま冒険者ギルドに突き出したいな」

 マティアシュ領の領主であるエステヴァン子爵の家宝を狙い、バリエンテの穴――いや、お隣のガシュマト領から侵入してきたのだろう男たちを誰がのがすものか。
 俺とビーが安眠中の男たちを眺めていると、ブロライトがよっこらしょと腰を上げる。

「賞金首なのじゃから、首だけ持っていけば良いのではないか?」
物騒ぶっそうなことを笑顔で言うんじゃないよブロライト。ジャンビーヤしまいなさい。賞金首っていうのは生きたまま捕らえたほうが良いんだ。闇ギルドの情報とか、誰に雇われたのか、情報を持っているだろう? そういうのを聞き出さないと」
「おお。なるほどな!」

 エルフっていうのは神秘しんぴの種族で穏やかにかすみを食って生きていそうなイメージだが、どっこいマデウスのエルフは完全なる肉食狩猟民族。
 これでもブロライトは穏やかな性格ではある。しかし、エルフの中には敵ならば殺しちゃえ、という危険思想を持った奴がいたりするのだ。誰とは言わないけどベルクさん。最近優しくなったけど、初対面では俺たち殺されそうになりました。

「我らの足枷あしかせになるようならば首を、と思っておったのだが……」

 クレイまでもがそんな物騒なことをつぶやき、俺はあせる。
 首をどうする気だ。切ってお持ち帰りするの? 誰が? もしかして俺の鞄に入れるつもりじゃないだろうな。食材は入れても、その他の有機物は入れませんよ。俺が作った魔法の巾着袋きんちゃくぶくろにも入れさせないからな。
 戦国武将の首打ち取ったりぃ、と太陽たいようやりに首をぶら下げて闊歩するクレイを想像して肩を落とす。似合う。

「情報を得るまでは殺しちゃ駄目」

 鞄から串焼き肉を取り出し、スッスを含めた三人に一本ずつ進呈。ビーにも渡し、ルカルゥにはワサビあめとキノコグミを渡した。
 俺たちはスッスが作ってくれた豚汁を食べたばかりだが、腹五分目くらいだったのでまだ食える。
 腹が減っているから考える余裕がなくなっているんだよ。首を切る前にできることを考えようじゃないか。
 スッスは腰に付けているポーチから小さな小さな黒いびんを取り出した。

「情報を聞き出せばいいんすよね? それなら、おいらが尋問じんもんするっすよ」
「じんもん」
「そうっす。口が軽くなる薬をいくつか持っているっす」
「口が軽くなるお薬……」

 加減が難しいので死ぬかもしれないのがちょっと怖いっす、なんてスッスの口から聞きたくなかった。スッスの考えが暗殺者っぽいんだけども、スッスは暗殺者ではないよな? 忍者にんじゃって暗殺もしていたんだっけ。いや、スッスは暗殺者ではなかったはず。たぶん。自白剤じはくざいなんて誰に渡されたんだ。
 マデウスでは犯罪者で指名手配犯で賞金首ともなると、存在に価値はないと判断される。
 悪いことをしたのなら処刑されても仕方がない、モンスターに食われるよりはマシ、みたいな考えが当たり前にある。
 無論、万引きとか詐欺さぎとか、軽犯罪に対する処罰もある。
 被害者の命を奪わないまでも法を犯す真似をすれば、犯罪奴隷どれいへと落ちる。それでもまだ情状の酌量しゃくりょうがあると思われているからこそ、奴隷という身分でいられるのだ。
 奴隷にも格差があり、重犯罪奴隷、軽犯罪奴隷、借金奴隷、などなど扱われ方が違う。
 借金奴隷は借金を返すために労働をする。経験や知識がある人ほど貴重な労働力とされ、寝食は保証されるのだ。健康診断も受けられる。奉公時期は借金の額で決められ、早ければ一年も待たずに奴隷から解放されることもある。
 軽犯罪奴隷は借金奴隷よりも扱いは悪く、だけど寝食は保証されている。最低限食わせないと働けないからだ。大体が畑仕事や建築業などといった重労働に回され、冬の寒い時期などで命を落とす奴隷が多いそうだ。なお、怪我や病気で医師や治癒術師を派遣されることはほぼない。
 重犯罪者奴隷は最早もはや人として扱われることはない。鉱山で死ぬまで働かされ、食事は質素なものを日に二回。仕事をなまければむちを打たれ、反論すれば殴られ、死ねば穴にまとめて捨てられて燃やされる。新しい薬を開発するための人体実験にされるのも重犯罪者奴隷だ。
 身分の高い者から命はとうといものとされ、続いて金持ち、その次に庶民。
 貴族が一言、庶民のコイツが犯人だ、ジャジャーン、なんて言ってしまえばもうそいつが犯人。無実だとしても、貴族の言うことは絶対。
 一応裁判は行われる。一応。形だけ。
 金のある人は自分より上の権力者などに協力を求め、裁判に勝とうとする。
 しかし、庶民は裁判費用など支払えるわけもなく、金持ち相手には泣き寝入り。
 冤罪えんざいで奴隷に落とされたり、死んだ人とかめちゃくちゃいるんだろうな。
 庶民の命は軽視されている。
 しかし、貴族が悪事を働けば庶民よりも重い処罰になる。
 犯罪者の命は軽い。塵芥ちりあくたのような、ゴミ扱いされるのがアルツェリオ王国での常識。他の国の事情は知らないけれど、他の国も君主制らしいので犯罪者の扱いは似たような感じなのではないかな。
 俺の考えは前世の日本の記憶ありきなので、犯罪者を見つけたらとっとと殺す、なんてことはしない。
 だがしかし、人類皆平等、誰の命も尊いもの、なんて綺麗事は言わない。
 スッスに串つくね甘辛あまから味を渡し、俺も皿に盛ったごぼうのから揚げを食う。

「スッス、今ここで口が軽くなるお薬を使うのはよろしくない。俺たちだけではなく、第三者の、ギルド職員の目があるところじゃないと情報の信憑性しんぴょうせいがなくなる」
「でも、蒼黒の団の証言には信憑性があるっすよ?」
「それよりもウェイドさんやグリットさんの前で情報を引き出したほうが、懸賞金の額が上がるだろう? 指名手配犯の扱いってそんな感じだった気がする」
「あ。そうっすね。死んだ奴よりも生きている奴のほうが懸賞金が高いっす」

 ギルド職員であるスッスは指名手配犯の懸賞金事情も知っているのだろう。つくねを食べつつ即座に脳内で計算をしたようだ。

「三人とも、まずはこの洞窟から外に出ることを考えよう。アルナブ族の避難を第一に、どこに避難をするのか。次に導きの羅針盤の確保、コルドモールを倒せるかどうか。盗掘者たちはついでのついで。生きて連れ帰れればいいかな、程度で。どのギルド所属で誰に頼まれてここに来たのかは俺が調べたから」
「ピュイ!」

 ビーが元気よく賛成のお返事。

「なんじゃ。タケルは情報を得たのか。それならばやはり」
「殺しません。ジャンビーヤしまいなさいブロライト。アイツらに浮遊魔石をくっ付けて、縄で引っ張れば連れていけるだろう? 俺が引っ張っていくから」

 まだ首を落とそうとするブロライトを座らせる。
 賞金首を連れ回すのが危険なのはわかっているのだが、盗掘者たちが持つ情報は貴重だ。
 安眠中の盗掘者たちは、ユゴルスギルドという犯罪者組織に所属している犯罪者。奴らはS+ランクのモンスターであるコルドモールに追われていた。
 なぜ追われていたのか、どこからバリエンテの穴に入れたのか。
 ユゴルスギルドはガシュマト領に潜伏中。ガシュマト領公認なのか非公認なのか、そこまでの情報を得ることはできなかった。
 調査スキャン先生は対象者が「知っていること」を教えてくれるが、「知らないこと」までは教えてくれない。
 俺が調査スキャン魔法が使えるのを知るのは、グランツ卿や国王陛下といったごく一部の人のみ。グランツ卿にはうかつに調査スキャン魔法のことを言うなと厳命されてもいる。
 トルミ村に来たユグル族の一部にも調査スキャン魔法が使えるようになったのは内緒。気がついたら使えるようになったというのだから、ユグル族の探求心と努力に感服した。
 ベルカイムのギルドエウロパの受付主任であるグリットには、俺の探査サーチ魔法や調査スキャン魔法のことが知られているかもしれない。あの人さといから。だけど指摘するまでもなく黙っていてくれているのは、ギルドの方針なのかグリットの良心なのか。
 調査スキャン魔法のやり方を教えてくれと言われないのは助かる。魔法のことをよくわかっていない俺が、魔法を教えられるわけないので。
 盗掘者から情報を得る手段は調査スキャン魔法以外にもある。お口が軽くなっちゃうお薬とか、惑わせるような魔法とか、考えたくはないけれども拷問ごうもんとかね。
 あくまでも盗掘者たちの首を取らないようにと俺が改めて三人に言うと、クレイは深く深く息を吐き出した。

「お前の優しさは時にあやうい」

 今まで散々言われていることを改めて言われてしまったが、俺は目を薄めてうっすらと笑った。
 首を切って持って帰れば楽だろう。
 しかし、散々さんざん悪さをしてきた連中を楽にして何になる。
 悪事に手を染めるには理由が、などと甘いことはマデウスでは通用しない。全てが自己責任であり、全てが自業自得じごうじとくとなる。
 故郷での暮らしがつらくて都会に出て、だけど仕事がなくて落ちるところまで落ちた、なんて話はたくさん聞いた。食うに困り罪を犯してエウロパから追放された冒険者の中にも数多あまたいる。
 しかし、仕事は選ばなければあるのだ。それこそ冒険者ギルドに登録して素材採取家になることだってできる。いや、努力は必要だけども。
 日々をなんとか生きられるだけの金銭は得られるのだ。快適に生きるか、それとも日銭だけを稼いでギリギリで生きるかは自分次第。
 努力をおこたって楽な道楽な道へと自分で進んだくせに、誰かのせいにして自分は被害者だと主張する人は冒険者ギルドに必要ありません。
 とは、グリットの言葉。
 至極不愉快そうに言っていたっけ。


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