上 下
46 / 250
3巻

3-14

しおりを挟む


 18 海松藍みるあいの伝承


 青き空が宵闇よいやみに染まるとき 尊き血は失われ 大地は乾き死を招く
 尊きみなもと枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者
 異なる血を抱きし者 輝き放ちて大地を潤す


 ハイエルフ族に伝わる古い言葉。
 美しい水をたたえる地底湖のほとりに、その言葉が刻まれた石碑があった。ハイエルフだけが解読できる特殊な文字で刻まれた伝承とやらは、読んでも意味がわからない。
 俺は考古学者じゃないんだ。専門的な言い回しも抽象的な言葉の意味もわからない。だが、想像することはできる。予言というよりも、こうしたほうがいいんじゃない? っていう忠告のような気がするのは、最後の一文。

「ここで大地は乾くって書いてあるのに、こっちでは大地を潤すになっている」
「よう気づかれましたな」
「最初の二行で悪いことばかり言っているのに、最後の一行ではその解決法になっているような?」
「さすが!」

 俺の隣でぱちぱちと手を叩いて喜ぶアーさんが、ハイエルフ族しか近づくことを許されていないこの地底湖に連れてきてくれた。クレイとブロライトは留守番。プニさんはどこかに散歩しに行ってしまった。
 大樹の地下にあるこの地底湖。ボルさんの棲処ほど広くはないが、底は深い。松明たいまつの光に照らされ、大樹の太い根っこが水底まで伸びているのが見える。
 湖の中央が少しだけ盛り上がっているのは、あそこから湧水が出ているのだろう。少しだけ湿気を感じる。だけど、嫌な感じはしない。あとで調査スキャンさせてもらおう。
 碑文を見せられたところで解読なんてできないと思っていたが、俺には前世の知識がある。サスペンス映画やドラマを見て、こういった謎解きはなんとなくできるようになった。
 あくまでもなんとなくだから、うかつなことを言わないように気をつける。

「タケル殿はとても博識であらせられるのでございまするな」
「そんな舌噛みそうな丁寧な言葉遣いやめてくれるかな。博識なんて滅相もない」
「ご謙遜を。この碑文を一目見て読むことができるなど、相当なご努力をなされたのでしょう」
「ほんとやめて」

 努力なんてしていませんよ。
 ただ読めるだけなんです。
 世界言語とかいう、恩恵という名のずるっこなんです。

「この、えーと? 異なる血を抱きし者、輝き放ちて大地を潤す……この部分かな、俺が救い主って言われる所以ゆえんは」
「左様でございまする」
「言葉遣い」
「さ、左様」

 馬鹿丁寧な言葉遣いをやめてもらい、ついでに俺のことを神様か何かのように崇めるのもやめてもらった。ずっと頭を下げたままの侍女や侍従たちにも顔を上げてもらう。
 このハイエルフたちはアーさんのおそば要員らしく、おはようからおやすみまでずっと彼に仕えているらしい。時々アーさんを抱っこして移動するからちょっと微笑ましい。全員綺麗な顔しているから、いちいちまあ素敵、とか反応してやるのも疲れる。

「俺は大地を潤したわけじゃないだろ? 濃い魔素を吸い込む魔道具マジックアイテムを作っただけだし、あのオレンジダイヤは大地を潤すというよりも、除湿……呼吸がしやすくなっただけ」

 大地を潤すって言葉は、一行目の「大地は乾き死を招く」に引っ掛けているんだろう。だから、文字通りの意味ではないはず。

「大地を潤すイメージっていうか、これは俺の想像なんだけど」
「想像でも構いま……構わぬ。タケル殿の考えを伺いたい」

 言われ、胡坐あぐらをかいて碑文を指さす。

「大地は乾き死を招くっていうのは、えーと、乾くっていうのは土地が干からびるというか、何かが失われるって意味にも思えないか? 特に、この死を招くってところ」
「では、尊き血というのは」
「これはハイエルフ族に伝わる言葉なら、ハイエルフ族のことを言っているんじゃないかな。この石碑はずっとここにあったんだろう?」
「左様」
「青き空が宵闇に染まるとき、っていうのは昼から夕方になるって意味だよな。つまり時間の経過」

 つまり、時間が経つにつれ、ハイエルフ族が死んじゃうってことかな。
 これはうかつに言えなかったが、さとい彼らならわかるだろう。

「やはり我らは滅ぶのか……?」
「おお……リベルアリナよ」
「執政様……」

 ざわつくハイエルフたちは小さなアーさんにすがりつき、悲しみに暮れている。碑文の解読は彼らもやっていたのだと思う。俺に別の見解を求めたのかもしれないが、答えは同じだったのだろう。
「尊き源枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者」っていうのは、一族が滅んでしまうかもしれないのに、何かを止めないなんてバーカバーカ、ってことだよな。
 何を止めないんだろうか。一族が滅んでしまうような何かをやり続けているってことだよな、きっと。

「アーさん、三行目の言葉だけど」
「うむ」
「異なる血を抱きし者っていうのは、やっぱりハイエルフ族以外の種族のことじゃないかな」
「我らもそのように解釈をしておる」

 そう言うとアーさんは、視線だけで取り巻きのハイエルフたちを退がらせた。
 地底湖に二人きりになると、アーさんは深く息を吐き出す。

「我ら一族の掟は薄々知っておろう」
「他の種族を近寄らせないんだっけ」
「左様。ハイエルフ族は特に他種との繋がりを隔て、尊き血を守ることを重んじる」

 ハイエルフが珍しい種族だってことはわかったが、俺のよく知っているハイエルフ代表がブロライトだからな……どうにもこうにも、アレのイメージが強すぎる。
 先導するアーさんに連れられて外に出ると、空は茜色あかねいろに染まりはじめていた。ログハウスから煙が立ち上り、そろそろ夕飯だと知らせている。

「ピュイ、ピューィ」
「うむ、腹が減ったな」

 ビーの鳴き声に、アーさんが返答した。

「アーさん、ビーの言葉が」
「少しだけだがな。言わんとすることがわかるようになった」
「ピュピュ」

 警戒心を解いたビーがアーさんの頭に飛び乗る。子供サイズのアーさんの頭はビーが飛び乗るとすべて隠れてしまう。爪を立てないようにさせ、歩き出したアーさんのあとに続いた。
 魔素が薄れた郷では、エルフたちが晴れ晴れとした顔をしていた。やはり濃すぎる魔素はエルフたちの身体にも悪影響を及ぼしていたらしい。

「タケル殿、明日は我が母であらせられる国王に逢うてはくれぬか」
「国王様はアーさんのお母さん? ということは、ブロライトのお母さんか」
「ハイエルフ族すべての母だ」

 ハイエルフ族の王様は女性。つまりが女王。そんなすごい人に、一介の冒険者に過ぎない俺が逢ってもいいのだろうか。
 ドワーフ王国の国王様にも逢ったことのある俺だが、あのちみっこ王様は畏れ多いっていう言葉と縁がないじゃないか。それに対して、エルフとハイエルフをべる女王様だろ? まさしく女王様っていう感じなんだろうな。
 むちとか持っていたらどうしよう。


 + + + + +


 日の暮れたエルフの郷に泊まることになった。
 アーさんは王宮にある客室に泊まれと言ってくれたが、俺としてはギルドに隣接している宿屋が気になったのでそっちで。
 だって宿屋の奥から煙が出ているんだもの。独特の煙。

「ああああぁあぁぁあああ~~~~」

 乳白色のほどよい熱さのお湯に肩まで浸かると、自然と漏れる声。この声があってこその温泉だと思うんだ。
 そう。エルフの郷の小さな宿屋には、露天風呂があったのだ。これを見つけたときの俺は正直泣いた。膝をついて男泣き。恥とか知らない。独特の硫黄いおうの匂いを嗅いだときに、これはまさかと震えた。
 エルフたちは薬の湯と呼んでいるが、これはまさしく温泉。しかも岩風呂なんだよ。露天で岩風呂なんて最高じゃないか!

「どわああぁぁぁあああ~~~~」
「やかましい。黙って入っていられんのか」
「いやいや、これは声出るだろ。出すべきだって」
「ピュヒィィィ~~~」

 マイ桶に湯をはって湯船に浮かせば、ビー専用の湯船の出来上がり。
 ビーも俺に倣って嬉しそうに湯を楽しんでいる。

「これがお前が申していた風呂なるものなのですね」
「わたしもこの湯は大好きなのじゃ!」

 はいはい、ちなみに完全混浴です。
 えっ? 何想像しているの。
 着 衣 の ま ま ですよ。
 浴衣ゆかたのような、絶対に透けてなるものか、っていう素材で作られた服を着ています。残念。いやいや、混浴しているのがブロライトとプニさんだから、嬉しさはかなり減る。
 しかし景色としては素晴らしい。見た目は白い肌の美女が二人もいるのだから。髪を後頭部で一つに纏めたうなじの滑らかさを見て、思わず黙ってうなずく。うなじ素敵。
 ちなみに、クレイは人の女性の肉体に一切興味はないそうだ。枯れているとかではなく、リザードマンはリザードマンにしか食指が動かない。人がリザードマンを見て何とも思わないのと同じことらしい。

「エルフの伝承も気になるが、それよりもブロライトのお姉さんだろ」
「あっ」
「あじゃねーよ。本来の目的を完全に忘れていたな」
「しかたなかろう! 貴殿の力により、郷を渦巻く魔素が消えたのじゃから」

 魔素が完全に消えたわけではない。濃い魔素は今でも生まれ続けている。
 もう関わってしまったから原因が解明するまでサヨナラできないと思いつつ、本来の目的も忘れてはならない。

「ブロライトが郷の掟を破ってまで外の世界に出かけていたのは、もしかしたら郷の現状を嘆いて?」
「それもあるが、ほとんどが興味本位じゃ」

 ですよねー。
 それでもハイエルフ族が郷の外に出るということは、恐怖だろう。座敷猫が外の世界を知らずに育つように、ハイエルフも完全温室育ち。ハイエルフのためだけに仕えるエルフに守られ、蝶よ花よと暮らすらしい。そんな純粋培養が、よく外の世界に興味を持ったな。

「というのも、碑文の異なる血を抱きし者というのは、もしかしたらば外の世界の者を言うのではなかろうかと兄上が言うてな」

 執政であるアーさんがブロライトの行動に目をつぶり、外の世界に行くことをとがめなかった。しかしそれは保守派のハイエルフやエルフたちの反感を買い、掟破りの忌むべき者として嫌われるようになったのだと。
 だからアーさんはブロライトに対して罪悪感を抱いていたんだ。すべての負の感情を、ブロライトが黙って受け止めていたのだから。

「タケル、クレイストン、わたしは忌むべき者ではあるが、それで良かったと思うておる。貴殿らに出逢うことができたのじゃ。悔いることなどなかろう」
「それに関してはブロライトの行動に感謝するよ。ブロライトに逢わなかったら、エルフの郷に来ることもなかっただろうからさ」
「ピュイ、ピューイィ」

 もうブロライトが郷の掟を破ったからどうのこうの、っていうのはいいんだよ。
 それよりも大切なのは、ブロライトのお姉さんの行方。それから濃すぎる魔素の発生理由。そして、エルフ族に伝わる言葉の意味。
 あれ。
 目的が三つに増えてた。



 19 猩々緋しょうじょうひ喜悦きえつ


「ププププ……」
「ビー、温泉は飲まないでおけよ。美味くないから」

 広い湯船を犬かきならぬドラゴンかきで泳ぐビーを眺めながら、エルフの巫女について詳しく聞いてみた。情報源がブロライトなのが不安だが、あとでアーさんに裏を取ればいいだろう。
 エルフの巫女は、ハイエルフの中でも特に魔力の強い者が選ばれ、その膨大な魔力を使って郷を守り、エルフ族を導いていく存在となる。
 詳しい仕事の内容はわからないが、巫女には大切な役目がある。それが、次世代の巫女を産むという役目。
 力の強い巫女からは新たなる巫女が産まれやすく、さらなる強い力を秘めた巫女を望めるらしい。
 だが、ここ数代は魔力の強い巫女は産まれなかった。

「数代って……どのくらい?」
「三百年ほどじゃ」
「わあ」

 エルフ族の時間の概念は人間と大いに違う。
 エルフ族は不老長寿に不死の一族というイメージが強いが、マデウスのエルフは不死ではないらしい。風邪をこじらせて死ぬこともあれば、大怪我を負って死ぬこともある。ただ、人間より肉体は強いからなかなか死なないってだけ。

「年齢を聞くのは失礼かもしれないけど、ブロライトっておいくつ?」
「わたしは五十七歳じゃ!」

 五十七歳でそれか! クレイより年上!
 いや、人間の五十七歳と比べてはならない。エルフは長寿。とてつもない年月を生きる。それに引きこもり一族というのだから、世間知らずでかたよった知識しか与えられない。となれば、精神年齢も人間のそれとは違うのだろう。
 三百年ぶりの巫女がブロライトのお姉さん、リュティカラ。久しぶりの強い魔力にエルフ族一同大はしゃぎしてしまい、幼少期から誰が嫁にするか揉めていたらしい。巫女を嫁にした男は、その恩恵によって魔力が強くなるのだとか。

「それじゃあ巫女そのものを好きになって嫁にするんじゃなくて、強い魔力が欲しくて嫁にするってこと?」
「うむ」
「お姉さんが逃げ出したわけだよ……」

 しかも自らの力で手に入れず、ブロライトの持ち帰った天馬を利用しようとした連中だ。それが郷の掟だったとしたら、とんでもない掟だよな。
 貴族の娘が嫁入り先を選べないように、巫女も自分の意思で結婚相手を選ぶことはできない。それが当たり前だったのに、リュティカラは疑問を抱いた。
 なぜ、相手を選べないのかと。
 そして、失踪。
 プニさんが腹が減ったと言い出したため、大して長湯もできずに露天風呂をあとにした。
 やっぱりいいよな、露天風呂。ドワーフ王国の突貫工事の露天風呂も素晴らしかったが、エルフの郷の温泉露天風呂に軍配が上がる。マデウスに温泉があったことが何より嬉しい。ベルカイムにも作れないかな。トルミ村に作れたらもっといいな。
 俺たちに用意された部屋は個室で三つ。プニさんは眠るとき馬になるので、郷の中央にある祭壇で休んでもらうことにした。
 リルとテールさんに案内された食堂は、それほど広くない。外界から閉ざされている郷だから、外から訪れる客人も少ない。ゆえに宿屋はふだん閉まっているそうだ。
 明日になったらエルフの郷のギルド、ダイモスを訪れるつもりだ。エルフのギルドにはどんな依頼クエストがあるのか気になるし、その報酬の額がエウロパとどう違うのか調べてみたい。
 手持ちの月夜草、いくらで引き取ってもらえるかな。

「……これが、夕飯?」
「そうじゃ」

 食堂で待ちに待った夕飯を迎えていたのだが、出てきたのは木の実と野菜のオンパレード。肉は干し肉や燻製くんせい肉がほとんどで、温かな煮物とかは一切ない。
 いや木の実って、酒のつまみじゃないんだからさ。

「エルフ族って食に関してあまりこだわりはないとか」
「すまぬが、これでも精一杯のもてなしなのだ」

 いやありがたいですよ。
 屋根のあるベッドを提供してくれただけでほんともうすごくありがたいんだよ。
 だけどさ。
 食べることって大事じゃない?

「んー、こっちはクルミっぽいな。それで、こっちは……マカダミアナッツ。カシューナッツもあるのか。うん、美味しい」

 だけど主食が欲しい。
 温かいご飯を腹いっぱい食べたいよな。
 干し肉を見つめるプニさんが、口をへの字に曲げて至極残念そうな顔をしている。美人がそんな顔するなって。

「リルとテールさん、台所を貸してもらえますか?」
「は? 何を言っておる」
「この材料……夕飯を使って、ちょっと料理をしたいんです」

 リルとテールさんは渋い顔をしたが、プニさんのそれはそれは綺麗な笑顔を見て、台所に案内してくれることになった。なぜかクレイとブロライトも付いてくる。
 数人のエルフ女性と料理長っぽい男性に見守られながら、毎度お馴染みの料理のお時間。
 魔素が豊富なエルフの郷には、様々な魔道具マジックアイテムがあった。
 水道も魔道具マジックアイテムでいつでも綺麗な水が飲めるし、コンロのようなものもある。だが、火力調整が難しいらしく最大火力しか出ない。これは魔素の影響もあるだろうから使わないでおく。
 手製の魔石をいくつか取り出し、調理開始。
 鞄の中には食材が豊富に保管されている。肉好きのクレイが率先して食用モンスターを狩ってくれるため、肉の塊が大量。肉の種類もかなりそろっている。
 いろいろな木の実があるからそれを利用させてもらおう。

「クレイ、ロックバードの肉をこのくらいの大きさに切ってくれ」
「任されよう」

 クレイは肉の扱いが上手い。解体も速いし、手先も器用。俺が指示をすればその通りにしてくれる。

「ブロライト、ここに木の実を剥いて入れてくれ」
「了解じゃ!」
「ヴェルヴァレータ様、わたくしもお手伝いいたします」
「わたくしも」

 興味津々な目で身を乗り出していたエルフたちが、一人また一人と手伝いはじめた。働かざる者なんとやら。木の実をつまみ食いしているプニさんを放置し、料理を続ける。
 ボウルのような深い皿にクレイが処理した肉の細切れと、木の実と数種類のキノコを入れてあえる。醤油の実から汁を搾り出し、ショウガに似た味の木の根をり下ろしてさらにスクランブル。最後に塩と胡椒こしょうで味を調え、フライパンで一気にいためる。
 そう、ナッツと鶏肉の辛味炒めを作っているのだ。本来ならオイスターソースが欲しいところだが、ここはあるもので誤魔化す。醤油の実、ほんと見つけてよかった。
 食欲をそそる香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。醤油とショウガって相性抜群だよな。塩胡椒だけでもじゅうぶん美味しいのだが、せっかく見つけたショウガだ。ちなみに、このショウガに似た木の根はベルカイムで普通に売られている。薬草として売られていたため、しばらく存在を知らなかった。見つけて即行で買って料理に使うと言ったらクレイが嫌な顔をしたが、特別にからあげを作ってやったら涙を流して俺を拝んだ。

「この匂いは……」
「おかあさん、いい匂いがするよ」
「あら本当ね。何を作っているのかしら」

 気がつけば、宿の食堂にエルフたちが集まっていた。窓という窓からたくさんのエルフたちがこちらを凝視している。子供のエルフもいるのか。さっきは見なかったから、隠れていたのかも。
 全員分作るにはちょっとしんどいが、こういう場合は専門家に任せればいいのだ。
 俺の作る様を逐一見ていた料理長に作ってくれと頼むと、料理長は嬉しそうに調理をはじめた。新しい調理法を知ることができて嬉しいらしい。
 閉鎖的な国の弊害へいがいがこれだよな。伝統や秩序は保たれるが、進歩がない。進歩というのは突然のひらめきだけではなく、外部からの刺激が必要になる。交易などをして新たなる文化を知ることが発展に繋がるのだ。
 大皿に野菜を敷き、その上に鶏肉炒めを載せる。果物などで彩りを添えたら出来上がりだ。

「なんて美しいのかしら!」
「それに、このいい匂い……」

 ざわつくエルフたちは狭い食堂にひしめき、俺たちの夕飯をジト見。
 さすがの料理長は、慣れた手つきで俺とまったく同じ鶏肉炒めを作っている。材料はまだまだ山のようにあるから、ここに来たエルフ全員が食べられるくらいは作れるだろう。
 その前に、俺たちの胃袋を満たさねば。
 大皿に盛られた大量の肉炒め。匂いだけで美味いことが決定している料理を前に、チームが勢ぞろいして手を合わせる。

「はい、それでは皆さんご一緒に」
「「「いただきます!」」」
「ピュイ!」
「召し上がれ」

 糧に感謝することを忘れてはいけない。これがチーム蒼黒の団の数少ない掟。

「うむ、うむ、ほふっ、美味いっ!」
「ぬおおおっ! 美味じゃ! これは、とても、はふっ、ううう、美味い!」
「もぐもぐもぐもぐ、ひひん、いつもと同じですね。もむもむ、もっとよこしなさい」
「ピュイーイィ! ピュイ、ピュムムム」

 柔らかい肉を噛むと、大量の肉汁が口の中で弾ける。それが少し甘くて、醤油とショウガと胡椒の辛さと相まって、食が進むこと進むこと。
 ここに白米が欲しいが我慢して、肉すいとんスープを出す。このスープは大鍋に調理して保管しておいた。本当は調理できない場所で食べる用の非常食だったんだけど、まあせっかくだから食べてしまおう。
 しゃきしゃきとした新鮮な野菜も美味い。レタスに似ている。果物はパプリカのような味。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。