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3巻

3-2

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 アリアンナが淹れてくれたちょっと……ものすごく苦いそば茶を飲んでから開始。

「で?」
「え?」
「いや、だから、で? 君の縄張りだかなんだかで、俺が君の仕事を奪ったと思っているわけだろ? はい、奪ったつもりはありません。俺は俺なりに仕事をしているだけです。以上。終わり」
「えっ? ちょっ、いやちょっと待てって!」

 さて終わったと席を立つと、ワイムスが慌てて俺を制止する。

「な、なんでランクFのくせして……指名依頼が多いんだよ」

 ランクFのくせして、って言葉に少々腹が立つが、ここは俺が大人になってあげよう。
 彼は世渡りが上手なほうではなさそうだし、きっと方々ほうぼうで恨みを買っているんじゃないだろうか。俺は前世でいろいろと経験させてもらっているから、喧嘩を売られても冷静に対処できる。教えてくれる人がいたから、学ぶことができたんだ。
 では、大人の対応というのを見せてやろう。

「ええとですね、まず俺がランクFのままなのには理由があるんだよ」
「そうです。ギルドは再三にわたって、タケルさんにランクアップ試験を受けろと進言しているんです。タケルさんの実力はランクFなんてとんでもないんですよ」

 グリットが援護射撃。
 ランクアップすることに問題はないのだが、ランクが上がってしまうと主な依頼クエストは、モンスター狩りや鉱石採取になる。ランクB冒険者でも、ランクFの地味依頼を受けることはできるが、今1000レイブで済んでいる依頼にランクB冒険者の指名料が加算されてしまい、依頼料金は1500にも2000にも跳ね上がってしまう。
 なんせ指名料やら手数料やらまで支払う余裕はない、という依頼者が大半だからな。贔屓ひいきにしてくれている顧客は皆顔見知りでいいヤツばかりなんだよ。そういう優しい人たちを拒んでまでランクアップすることに、価値はあるのかなと。個人的に依頼主と直接交渉してやり取りすればいいかもしれないが、それはギルドから禁止されているし。
 それに、俺の仕事は他の冒険者とは違う。依頼された品はより良いものを探し、最低ランクの薬草一つでも葉の色や大きさ、状態まで考えて採取をしている。顧客を満足させることに関しては自信があるんだ。
 調査スキャンが優秀だからって、それを選んで採取するのは俺の判断。採取の仕方だって多種多様。無造作に切って折って鞄に詰めているんじゃないんだ。採取の仕方は図書館の蔵書をいくつも読んで勉強した。
 それに最近は、魔法に頼らずとも、薬草や野草が生息していそうな場所がわかるようになった。アリクイのうんこだって任せろ。
 何百何千もの採取をしてきたんだ。学習しないわけがないだろう?
 俺だって少しは採取専門家として胸を張りたいんだから。

「この際ランクとか関係ないよな? 俺は地味依頼を消化しているだけ」
「それじゃあなんで、俺の客がお前に移るんだ」
「そんなこと考えなくてもわかるだろ。さっきも言ったし」

 そっちが客をないがしろにしたんだよ。
 客が、仕方なく仕事をこなす採取家より、誠意を持って仕事をする採取家を選んだだけ。

「うっぐぐぐ……わっかんねぇ、わっかんねーよ! なんで、俺が、ランクBの俺が!」

 わかりやすく説明したつもりなんだがなあ。
 ワイムスはまだまだ納得できないようだ。自分が正しいと思っている人間ほど、間違いを絶対に認めない。
 以前、領主の娘を諭したように優しくするつもりはねーぞ? 俺は男には厳しいんだ。

「そんじゃ、アンタはどうしたいんだ。俺はこれからも仕事を辞めないし、ベルカイムで世話になる」
「当たり前です。ダンゼライのシリウスなんかに移らないでください」

 そう言ってグリットが俺を見る。その、ルセウヴァッハ領の隣の領にあるダンゼライという町も気になってはいるのだけど。
 そこへ、ワイムスが一言。

「採取で………………そうだ、採取で勝負だ!」
「えっ、やだ、めんどくさい」
「は!?」

 反射的に拒否してしまったが、いやそもそもなんで採取勝負なんて熱血なことやらなきゃいかんのだい。採取で勝負して白黒つけてそれでどうするんだよ。勝ってドヤるだけだろ? 俺の生活は全く何も変わらない。たとえ俺が負けたとしても、俺を信用してくれている顧客は離れないと思う。

「勝負して、どっちがより優秀な採取専門家か、決着をつけ……」
「いやだからね、決着つけてどうしましょう?」
「うっ、それは、えっと、だから」

 ようしわかった、受けて立つ! って言えるのは熱血主人公だけなんだよ。俺は主人公じゃなくていい。世界の端っこで細々と生きる健気けなげなモブAで十分なんだ。

「いいですね! それ!!」

 あれっ?

「確かに、目に見える結果を作れば良いのです!」

 ヒゲをひくひくさせちゃって、グリットが目を輝かせて立ち上がった。
 おかしいな。何言っているんですか、と激怒するのを待っていたんだけど。

「タケルさん、こうなったら、持てる技術のすべてをワイムスに叩きつけてやりなさい!」
「えー」
「そうやっていつまでも逃げていると、ワイムスはしつこいですよ? ほんとこの人、しつこいですよ?」

 それでグリットは、腰に両手を当て、高らかに宣言してしまった。

「ワイムスさんとタケルさんの素材採取勝負、私が責任を持って立ち会いましょう!」

 なんで、面倒なことになりたくないっていつも言ってるのに、さらに面倒なことになるんだ。



 2 歓喜・臨戦態勢


 素材採取専門家による、ギルドの素材採取競争が開催される。
 ベルカイム唯一のランクB素材採取専門家であるリンド・ワイムスと、最近頭角を現したランクF素材採取専門家であるタケル。
 両名が己の意地とプライドを懸けた熱きバトルを――


「したくない……」

 屋台村の一角いっかくにあるイートインスペースで、俺は机に突っ伏して大いにねていた。
 ギルド公認の素材採取競争だなんて、この俺がホイホイ了解すると思うか? エンジンかかったグリットにやめてよしてと言っても一切聞く耳を持ってくれず、話はくま獣人のウェイドに飛び火。そりゃ面白そうじゃねぇかと乗ってしまった熊さんが、「ギルド公認」としてしまったのだ。これに喜ぶギルド職員一同。久しぶりのお祭りだと万歳ばんざいしていた。
 こうなってしまったら、かたくなに拒んだところで批判を受けるのは俺。
 素材採取競争ってそもそも何だよ。借り物競争みたいなものか? 競って勝敗決めてどうすんのほんとに。

「今後も難癖なんくせをつけてくるであろうから、良い機会ではないか」

 すっかり気に入ったじゃがバタ醤油をどんぶりに山盛りよそったクレイが、完全に他人事として言ってくる。俺の面倒くさがりな性格を知っていてこれだからな。口元笑ってるじゃないか。くそ。

「お前が気に入らぬのでしたら、わたくしが少し殺しますよ?」
「少しがどのくらいなのか気になるが、そこまでのことじゃない」
「人の子はつまらぬことでいさかいをするのですね」

 プニさんの言う通り、そうですよね。
 ほんと、つまらないことだよ。
 ワイムスに素材採取家としての確固たるプライドがあったなら、こんなことにはならなかった。
 他に活躍している人がいるな、ようしボクも負けずに頑張ろう、えいえいっ、ってなっていれば平和だったのに。
 すでに丼をカラにしたクレイから疑問の声が上がる。

「勝負というが、どのように勝負をするのだ。お前なら大抵のものは手に入るであろう?」
「それなんだよなー……」


 + + + + +


 時をさかのぼり、ギルドにて。
 勝負となった段階で、それじゃあ何を採取するのかと。
 俺はあくまでもランクF、相手はランクB。ランクFの俺でも採取してよい素材でなくては勝負にならない。
 俺には優秀な先生方のご支援がありますから、何でも来いなのだが。

「ランクBの月夜草つくよぐさでどうだ!」

 ワイムスが高々と提案したが、俺とグリットは顔を見合わせて苦笑い。

「それがいいなら、それでいいけど」
「タケルさんの採取した月夜草を見たことありますか? 彼の採取した月夜草の薬効成分が優れているおかげで、ベルカイム産の高位回復薬ポーションは最高品質に認定されたんですよ」

 グリットの説明を聞いたワイムスの顔が青くなった。

「そそ、それじゃあ、アレだ! ハンマーアリクイのふん! ランクCだぞ!」

 俺もグリットも目を閉じ、そしてため息。

「………………ハンマーアリクイの糞を三日で十個採取したタケルさんにそれを言いますか」
「うんこ採取得意です」

 さすがに在庫は保管していないが、何かと注文が絶えないうんこ採取は得意になっていた。今では探査サーチをしなくても在処ありかがわかるくらいに。嬉しくない。

「それじゃあミスリル鉱石!」
「タケルさんはランクFですよ?」
「鉱石採取はランクDから」

 探してこいと言われれば探すことは容易たやすいが、それはグリットが止めた。あくまでもギルド公認の勝負なので、ランクによる採取の制限は守らなくてはならないと。
 グリットは勝負などしなくても勝敗がわかっているのだろうし、俺も負ける気はしない。だが、わざわざこの場を設けたのは、ワイムスに現実を知らしめるためだ。
 それなのにワイムスときたら、グリットの優しさだとどうして気づかないかな。なんでそんなに余裕がないんだ。
 結局、採取対象はギルドが考えることになり、ひとまず解散することになった。


 + + + + +


 そして、再び屋台村。
 何を採取するのであれ俺は負けない。プライドとかそういう問題じゃなくて、単純に俺が有利だからだ。
 異能ギフトとしてもらった探査サーチ能力は優秀すぎるほど優秀。たとえるなら、今日からお前は勇者です、世界を恐怖に陥れようとしている悪魔の居場所を探しなさい、はいわかりました見つけたよ、って言えるくらいなのだ。なんだそれ、って感じにすごいのだ。
 諸々の恩恵で生活できているからこそ、必要最低限の仕事にしている。欲は絶対に出さない。出るくいは打たれるものだ。だが、頼られたら応えたいと思うし、喜ばせたいとも思う。広く浅くではなく、狭く深く。
 それを気に食わないからやめろと言われたら、誰だって反発する。

「勝負をするのならば、俺は同行できぬのか?」
「ピュッ!?」
「クレイはそうなるのかな。ビーはどうなるかわからんが、駄目って言われるかもしれない」
「ピュイ! ピュイイィ!!」
「仕方がないだろ? 相手だって単身で挑むんだから。こっちにドラゴンがいると知ったら、不公平だとかなんだとか噛みついてくるに違いない」

 ビーと出逢う前は一人で採取をしていたのだから、何とかなるだろう。
 必死にすがりついてくるビーをなだめ、意気揚々いきようようと豊かな胸を張るプニさんを見る。

「わたくしは必要ですよね? なんせわたくし、馬、ですから?」
「馬も駄目」
「ええっ」
「全部同じ条件での勝負になると思う。もしも相手が馬車とか持っていたら話は別だが、たぶん徒歩じゃないかな」
「馬も連れずに何処どこへ行くと申すのですか? う、馬は必要でしょう?」

 馬のこととなると人が変わるプニさんも置いておいて。というか、プニさんを使ったら絶対に楽勝。なんせ神様だし。
 ところで、俺自身はどこまで力を抑えればいいのだろうか。俺の能力はすごすぎるので、抑えたところで公平にならないかもしれないが、勝負は勝負だからなあ。
 いや、待てよ、そもそも魔法全面禁止だったらどうしよう。
 探査サーチ調査スキャンをするなと言われたらさすがに困るな……採取したことのない未知なるものだったら、どこに行けばいいのかすらわからない。お題が決まったら図書館に走るか。

「ピュイィ……」
古代竜エンシェントドラゴンうろこを持ってこいとかはさすがに言わないだろうよ。一日か二日でこなせるものに決まっているって」
「ピュイ! ピューイ! ピュピュ、ピュイィ!」
「いや、お前の鱗はいらんから。話を聞きなさい」
「神獣のたてがみはどうでしょう」
「ないから」
「ドラゴニュートの抜けきばはどうだ」
「ないから」

 そんなこんなで大量のじゃがバタ醤油を消費しながら、チーム「蒼黒そうこくの団」はお題について話し合った。
 クレイもビーもプニさんも俺の異常な力のことは知っている。それに、俺のことを信じてくれている。たとえ俺が勝負に負けても、この関係が揺らぐことはない。でも、面倒だから不戦敗で、って言ったらクレイが怒るだろうからそれはナシにする。
 そうして数日後、ギルドで大々的な発表が成された。


 + + + + +


 ぷっぷくぷー、ぷっぷっぷっぷっぷくぷー。
 ギルドの前で、間抜けなラッパの音とともに広げられた巨大な横断幕。そこに書かれた巨大文字。


 リンド・ワイムス 対 タケル 素材採取一本勝負 ギルド公認


 その横断幕を高々と掲げるのは――

「おうタケル! 俺が留守にしている間、おもしれぇこと考えやがって!!」

 偉大なるギルドマスター、別名、暇ぶっこきおっさん。あなたどっかの町に出張中だと聞きましたが? てか、誰だこのおっさんにチクったの。一番面倒で一番熱苦しいヤツじゃないか。

「グリットさん?」
「私じゃありませんよ! 私はただ、勝負の内容をウェイドに相談しただけで……」

 視線をウェイドに移すと、ウェイドは悪びれもせずニカッと笑ってサムズアップ。こいつか。
 いつもなら依頼を受けたら即行で町を出てしまうはずの冒険者が、騒ぎを聞きつけてたくさん集まっていた。
 顔見知りの上位冒険者から、気さくに挨拶してくれる下位ランク冒険者たち。ギルドマスターのお祭り好きの犠牲になったことで俺に同情してくれるギルド職員たち。屋台村や職人街といったベルカイム住人までいる。
 完全なお祭りだ。
 だから定期的に何か催し物をやれと領主に……言っておけば良かったな。
 せめて大通りでバザーとか開催すりゃいいのに。他に娯楽がないばかりに、こんなくだらない勝負さえ立派な娯楽になってしまう。
 そうだ、もっと娯楽を増やせばいいんだよ。それこそ庶民が楽しめるような。奥様方の編み物大会とかどうだ? 父ちゃんたちによる綱引き大会でもいいじゃないか。お子さんたちのパン食い競争とか。ベルカイム秋の運動会とか。
 ……領主に勧めてみるかな。

「よく逃げずに来られたもんだな!」

 そう叫んで現れたのは、登場から小物感ばりばりのワイムス氏。
 低ランク冒険者たちは露骨に嫌な顔をし、高ランク冒険者たちは冷めた顔をしている。どうやらこのワイムス、俺の想像以上に嫌われているんじゃなかろうか。
 そういえば、ペンドラスス工房の可愛い猫耳リブさんも言ってたな。ランクB冒険者の素材採取専門家は仕事を選ぶことで有名なのだと。どうせ頼んだところで、貧乏工房の頼みなんて引き受けるわけがないと。だから、最低ランクでも指名依頼の多い俺に依頼してきたのだ。俺は大体の依頼は断らないから。

「聞いてんのか!」

 何でも断らないとはいえ、とある若者から三軒隣の美人に懸想文ラブレターを書いてくれないかと頼まれたときはさすがに断ったなあ。
 代筆はできるが、恋愛小説家のような文章はとてもじゃないが書けない。愛する女性を花にたとえたり星にたとえたりするんだろ? 無理無理無理無理。恥ずかちい。そういう文章はそういう手紙を欲しがる女性に聞けばいいじゃないかと言ったら、彼は俺の言う通り知り合いの女性に相談したらしい。そしてその相談に乗ってくれた女性とお付き合いをはじめたとか。なんだそれ。

「ピュイッ?」

 頭の上にいたビーが俺の額を叩いた。

「ん? ああ、はいはい。聞いてます。で、何?」

 俺の返答にワイムスが超激怒。

「ふざけんじゃねぇよ!」

 朝っぱらから元気いいなあ。
 今朝の朝ごはんは肉厚のパンにバターと目玉焼き、とどめに醤油で楽しむつもりだったんだ。某アニメ映画で出てきた特製飯。それなのに、ギルドから突然呼び出されたせいで目玉焼きナシになったんだぞ。俺だって機嫌の一つくらい悪くなってもいいよな?

「ワイムスさん、また問題行動ですか? 私、言いましたよね? これ以上タケルさんに喧嘩を売るような真似をしたら、エウロパから除名処分もありうると」
「だってコイツが! 俺の話を!」
「貴方のつまらない挑発に乗らないだけでしょう」

 グリットも嫌気が差しているようだ。
 ワイムスが慌てているのは、除名処分の話が出たため。一度冒険者の資格を失うと、一生再登録することはできないのだ。

「タケルさん、不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」

 グリットが深々と頭を下げる。目をかけてくれている人にこんな真似させて、恥ずかしいと思わないのかね、ワイムス君。
 そもそもなんで俺ばっかり敵視するのかな。そりゃ指名依頼の顧客は俺に流れたかもしれないが、ランクB用の採取依頼はランクFとは比べられない。基本報酬ほうしゅうだってランクBのほうがずっといいだろうし、俺に仕事を取られたといっても大したことはないと思う。それこそ、素材採取専門家は他にもいるのだから。
 ギルドマスターのでかい声が狭くないギルドに響き渡る。

「よおし! それじゃあ勝負の内容を発表するぞ!」

 その声を合図に、横断幕の隣に設置されていたボードがひっくり返される。そこには、見覚えのある美麗びれいな男の肖像画。

「うーん、うんっ、うんっ、では、及ばずながら俺が説明する」

 なぜか赤いちょうネクタイを締めたウェイドが、嬉しそうに差し棒を手にボードを示す。

「今回の依頼はベルカイム領主、ルセウヴァッハ伯爵直々じきじきのご依頼だ!」
「「「うおおおおお!!」」」

 なにしれっと参加してんだ、イケメン領主!
 なにこれ領主公認なわけ?
 ギルド公認どころか、領主公認!?

「最近までご病気でせておられた伯爵夫人が回復された話は聞いてるよな! そのうるわしの奥方様を喜ばせるため、ルセウヴァッハきょうはレインボーシープの七色ウールをご所望だ!!」
「「「うおおおおお!!」」」

 なにそれ。
 俺も隣にいたワイムスもキョトン顔。
 良かった、彼も知らない素材で。

「真夏に抜け落ちるレインボーシープの毛だ! こいつは期間限定の品だが、難題というわけでもない! とても暖かく、それはそれは美しい毛らしいぞ!」
「「「うおおおおお!!」」」

 七色の抜け毛か。領主も妙なものを依頼したな。
 レインボーシープがどんな動物なのかわからないが、名前からして凶悪な肉食動物ってことはないだろう。クレイに聞けば……聞いていいのかな。図書館で調べるのはあり?

「これはランク関係なく希少な品だ! 知識と経験が必要となる! ランクFのタケルが不利だが、テメェら、タケルの実力は知っているだろう?」

 ギルドマスターがでかい声で皆をあおる。

「タケルの採取する月夜草は最高品質よ!」
「冒険者になる前にモンブランクラブを倒したのは、アイツなんだぜ!」
「「「うおおおおお!!」」」

 祭りに飢えていたヤツらは、ここぞとばかりに騒ぎ立てた。
 娯楽ってほんとだいじ。
 不満や怒りというものは、定期的に発散しなければ鬱憤うっぷんとなって溜まるだけ。この世界の住人は今ある現状に不満はあれど、そういうものだからと素直に受け入れる傾向にある。現状に我慢できない者の多くは、冒険者となって新天地を求める。そうして無駄に散っていった命はあまりにも多い。

「両者ともに異論はないか? ワイムス」
「それらしき動物なら見たことがある! 余裕だぜ!」
「タケルはどうだ」

 問われ、さてどうするかと考える。
 お肉が美味おいしいモンスター以外は興味がなかったから、ほとんど知識がない。生息地はもちろんのこと、どんな見た目なのかもわからない。背後でクレイとプニさんが意気揚々と挙手をしているのは無視しておく。アイツら対象物を知っているな。
 ここは確認のため聞いてみよう。

「ギルドマスター、質問」
「うん、何でも言ってみろ」
「対象物の生態を調べることは許容範囲内?」
「そうだな。知らねば探しようがねぇだろう」
「誰かに聞くことは?」
「それはならねぇ。採取家自身の知識と経験で戦うんだ。人に教えてもらっちゃ意味がねぇからな」
「えっ」

 今の「えっ」は俺じゃない。ワイムスだ。
 愕然がくぜんとした顔をしている。誰かに聞くつもりだったな。採取家自身のってことは他人に頼るなってことだろう。

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