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13巻

13-3

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「クミルさん、かき揚げ天ぷらも美味いと思うんだけど、新鮮な小エビが手に入らないからなあ。ルカニド湖だっけ? あそこではエビの養殖ってやっていないの?」
「エビ、ですか? 聞いたことがないですけど、どうかしら。あたしらが知らないだけかもしれませんけど、カキアゲってなんです?」
「天ぷらの一種なんだけど、いろんな具材を混ぜて揚げるんだ。ごぼうに小エビとか小魚を混ぜたらもっと美味い」
「あらあらあら! 美味しそう! 小魚ならありますから、すぐにできるかもしれないわ!」

 女将おかみのクミルさんは……ちょっと横にボリュームが増した気もするが、健康ってことで。
 宿屋をいとなむ鮭皮亭一家には、スッスが加入する前の蒼黒の団が大変お世話になったのだ。
 国家転覆をたくらむあれやこれやの陰謀に巻き込まれたというか、気がついたら巻き込まれていたというか、国王陛下暗殺未遂にまで発展した事件に巻き込まれていた俺たち。まさか王都に来てランクA+のモンスターと戦うとは思わなかった。あの巨大なは恐ろしく強かった。
 鮭皮亭一家は揃って猛毒のイヴェル毒を知らずに摂取させられ、イヴェル中毒症の初期症状である色覚異常と、味覚嗅覚障害を発症。
 宿屋の料理人で一家の大黒柱であるユルウさんは美味い料理が作れなくなったと嘆き、鮭皮亭は料理を作れば悪臭あくしゅうを放つ宿屋として嫌悪けんおされていた。
 だがイヴェル中毒症から回復したユルウさんは持ち前の料理の腕を大いに発揮し、美味い料理を作れるようになった。宿屋経営は見事回復。
 本来ならスッスの顔見せをしたかったのだが、俺以外の蒼黒の団団員には大切な用事があるのだ。
 ちなみにプニさんは今回同行しておらず、どこかの空を飛んでいる。王都まで転移門ゲートで行くと言ったらつまらないとねたともいう。

「タケル兄ちゃん! お母ちゃんとのんびりお話していないで! また行列が伸びちゃった!」
「はいはい!」

 ミーリに叱られた俺は、追加の握り飯弁当を抱えて売り場に戻る。
 俺が考案した握り飯弁当は評判が評判を呼び、今では午前と午後の数量限定にしても毎日売り切れる大人気商品になっていた。
 鮭皮亭では握り飯や丼もののご飯が食べられるため、宿泊のほうも毎日満員御礼。建物自体も改築や増築をしたらしく、以前の優しくて落ち着く雰囲気を残したまま広々とした宿屋になった。
 そんで、グランツ卿と待ち合わせの時間になるまで俺だけ座ってお茶していると落ち着かなくて。
 働かないやつは食うんじゃない精神が働きましてね。元祖・握り飯弁当が売り切れるまで手伝うことにしました。
 ごぼうの天ぷらは魔素ありと魔素抜きの二種類が用意されている。
 魔素耐性があり、魔力補充をしたい人は本来のごぼう天ぷらを買えるが、魔力が多くない人には味は同じでも魔素含有量を極限まで減らしたごぼう天ぷらを販売。
 北の大陸で発見した真っ黒の樹木、エラエルム・ランドの枝がごぼう。見た目まんまごぼうで、味もごぼう。
 見た目はアレだが料理したら美味しい。煮ても焼いてもいためても漬けても美味い。乾かしてお茶にしても美味い。
 グランツ卿がトルミ村でごぼうの味を知り、早々に贔屓ひいきの商会を通してトルミ村から定期的に購入するようにしたらしい。
 今のところ東の大陸内でごぼうが食べられるのは、エラエルム・ランドが植えられているトルミ村とエルフのかくざとのみ。まだ量産はできていないが、リベルアリナの恩恵おんけいですくすくわさわさと成長中。
 ごぼうにれ込んだグランツ卿が王都で滞在中も食べたいと言い、ユグル族と交渉を経て鮭皮亭で元祖・握り飯弁当のおかずとして限定で売られるようになった。王宮内でも愛好家がじわじわ増えているらしい。

「ええっと、魔石が赤だと赤のお盆のごぼう天ぷら」
「そうよ。青だったら青色ね」

 ごぼう天ぷらは好評だが、販売する時に魔石で魔力鑑定をするのが決められている。
 白色の魔石が赤色に変化したら魔素がほとんど含まれていないごぼうを売り、青色に変化したら魔素たっぷりのごぼうを売る。
 常連客でもその日の体調によって魔力量が変化したりするので、魔力鑑定は必須。
 貴族は貴族街に専門店があるため、そちらで代理人が購入し、主人に食べさせるらしい。
 買ったあとで魔素たっぷりのごぼうを食べて急性魔素中毒におちいっても、販売店は一切の責任を負わない、という看板を掲げている。
 販売初期は忠告を聞かないで急性魔素中毒になる人もいたが、ごぼうは大公閣下たいこうかっかであるグラディリスミュール家のおすみつきであり、お気に入り。販売先に文句を言うということは、ごぼうをすすめた大公に文句を言うのと同じこと。
 大抵の庶民は背後に貴族がいるというだけで恐れ多くなり、店を利用する際下手な真似はしてはいけないとおのれりっする。そして、名のある貴族が保証しているという圧倒的な信頼のもと、安心して買い物をするのだ。
 面倒なのは貴族相手ではあるが、国王陛下の叔父おじである大公を敵に回してまで己の利を追求するような貴族はアルツェリオ王国には存在しない。
 そもそも急性魔素中毒になるから気をつけてと注意しているのに、急性魔素中毒症ってどんなもんだと試す馬鹿があとを絶たないのだ。魔法学校の生徒とか、教師とか。冒険者も救護院に担ぎ込まれたという話を聞く。
 そういった面倒を引き受けてくれるグランツ卿を案じ、一律して魔素含有量が少ないごぼうを売ればいいじゃないと言ったのだが。

「不思議と疲れが取れるようだな」
「味も美味いし、食べやすいし」
「俺、ごぼうの天ぷらも好きだが、唐揚げも好きだな」
「わかるわかる。美味しいよね唐揚げ」

 店先のイートインスペースで和気あいあいと昼食を楽しむのは、いかつい騎士服をまとった若者。
 王都を守る竜騎士ドラゴンナイトたちだ。

「前より握り飯を増やしてくれたろ? そのぶん割増しになったけど、黒パンと葡萄酒の飯には戻れそうにないな」

 そうだそうだと笑い合う彼らは、青色お盆のごぼう天ぷらを食べている。
 竜騎士や騎士、冒険者、魔導士、錬金術師、治癒術師らは日頃から積極的に魔法を扱うため、魔力保有量が多い。そういった職業の人たち向けに魔素含有量が多いごぼうも扱っているのだ。
 今のところ大公が独占して調理したごぼうを販売しているが、ごぼうの扱いに慣れたら市場や商店などにもおろす予定。皆ごぼうのとりこになるといい。
 弁当の残り数が決まると、末っ子のソーリが「本日売り切れ御免ごめん」の看板を外に出す。
 すると外の列から「嘘だろ!」「だから早く行こうって言ったのに!」といった悲鳴が聞こえてくる。続いて「四番街の店ならまだあるかも!」という声も。
 山と積まれた弁当が次々と売られていくと、俺が手伝い始めてから四半時しはんときで午前の部が終了となった。

「タケルさん、助かりました。お待ち合わせなのに手伝いをしていただいて」
「いえいえ、予約もしていないのに弁当二十個もいただいてしまったんですから、これくらい」
「蒼黒の団の皆さんの注文は何よりも優先するのが決まりです。ご遠慮なさらずに。王都内のどの店舗に行っても、タケルさんたちなら毎日無料で好きなだけ提供しますよ!」

 炊事場すいじばの奥から出てきたのは、料理長のユルウさん。
 毎日とんでもなく忙しいだろうに、忙しいのは嬉しいことだと豪語ごうごしてしまう仕事中毒者。だが放っておくと働きすぎるので、七日に一度は家族で休んでくれと頼んだのは俺。
 ユルウさんの他に料理人が六人。そのなかの一人は、胸に金の王冠のバッジ。あの人は宮廷料理人だ。宮廷料理人まで握り飯の調理法を学んでいるのか。王宮内でも握り飯を食う気だな。
 短時間労働ではあったが、僅かな時間でこの疲労感。久しぶりの接客業に緊張したし、少し楽しんでしまった。

「ピュイピュ」

 店の奥からこっそりと姿を現したのは、水色のレインボーシープの毛をかぶった変装中のビー。もこもこだったはずの毛が少々ねっちょり濡れているのが気になる。

挨拶あいさつはできたのか?」
「ピュイッ、ピューピュイーピュピュ」
「歓迎の歌を歌われそうになったって? そりゃあ……天変地異てんぺんちい前触まえぶれだと思われそうだから遠慮して良かったな」
「ピュイ!」
「ああ、だからねっちょり濡れているわけな。大歓迎と寿ことほぎの代わりがめ回しか。うん、におうので清潔クリーンな」
「ピュピュッピュピュー」

 独特の生臭なまぐささのままビーを放置するわけにはいかない。魔力を調整して光を抑え、ビーにだけ清潔魔法がかかるようにする。
 王都に来てビーは竜騎士のきずな飛竜ワイバーンたちに挨拶をしに行った。挨拶をした際、成竜の姿を取れるようになったと報告したのだろう。竜たちは古代竜の子供であるビーが成長したと喜び、大合唱するところだった。
 竜の歌は「ギャアッ、ギャアアアッ」という叫び声なので、何も知らない人たちが聞けば竜に何があったのだと騒ぐだろう。
 ビーは竜たちに歌をひかえてもらった。そうしたら舐め回されたと。

「お疲れさん」
「ピュピュー」

 水色のもこもこをひざに乗せて一息つくと、外でくつろいでいた竜騎士たちに別の竜騎士が合流し、何かをひそひそと話し合ったと思ったらそれぞれ弁当を抱えて走りだした。
 一般市民が巻き込まれるような事件が起きたわけではないと思うが、竜騎士たちがあんなに急ぐなんて。

「ピュプ?」
「うん。どうしたんだろな」

 大通りで誰かが喧嘩でもしているのかな、それなら俺たちは関係ないよねーと。
 エルフの伝統料理である焼き菓子、マヌケスを広げて鮭皮亭の従業員らとお茶会を開いていたらば。

「蒼黒の団、素材採取家のタケル殿はおられますか!」

 大声で俺を呼ぶ声がした。


 + + + + +


 群衆の大歓声。
 空に響き渡る轟音ごうおん
 大勢の見学者に囲まれた闘技場の中央、一人は直立したまま、もう一人は地に寝そべっている。
 ギルドの裏手に併設されている闘技場は、サッカー場くらいの広さがある。ギルド所属の冒険者や職員は自由に使用できるうえ、たまにランクアップ試験も行われる。
 冒険者ランクを上げるには、一定数の依頼を完璧にこなすか、ギルドが提示する条件つきの依頼をこなすか、自分より上のランクの冒険者と戦わなければならない。
 握り飯弁当を食っていた騎士たちの姿が見える。この騒ぎを聞きつけ、見物に来たのだろう。ものすごい数の見物人だ。
 今回俺たちが王都に来たのはグランツ卿に呼ばれたからだけではない。
 クレイとブロライトとスッスのギルドランクを上げるため、でもあった。
 俺のランクはFBランクのままでいい。Aランクの採取家である必要がないからな。
 現状クレイとブロライトのランクはA。スッスはランクC。
 彼らは壮絶そうぜつな修業を経て大幅に強くなった。そりゃもう引くくらい強くなった。
 ただ突っ立っているだけで身に纏うオーラというか、たたずまいというか、雰囲気が劇的に変化したため、ギルドからランクアップ要請があった。
 ベルカイムのギルドエウロパのギルドマスター、巨人タイタン族のおっさんロドルが頭を下げて頼んだのだ。ギルドに所属しているのなら、強くなったのなら、相応のランクでいなければならない。だからさっさとランクアップしろと。最後はほぼ脅迫きょうはくだったとは言うまい。
 クレイとしては今更冒険者ランクにこだわりはない。ただ、ランクSに昇格すると別格の冒険者として扱われ、指名依頼がなくなる。国から強制的に徴兵ちょうへいされるが、平和なアルツェリオ王国で戦闘に駆り出されることはほぼない。
 他の冒険者たちからの推薦をしこたまもらったクレイたちは、王都のギルドキュレーネにおいてランクアップ試験に挑んだわけなのだが。
 今闘技場に立っているのはスッス。倒れているのは誰かな。あの大きさだと巨人タイタン族っぽいけど、彼はどうしたのかな。

「タケル殿、申し訳ありません。まさかこんなに盛り上がるとは想定外でして」

 俺を鮭皮亭まで呼びに来たのは、グランツ卿の従者だった。
 鮭皮亭で待ち合わせをしていたはずなんだけど、グランツ卿が少しだけランクアップ試験の様子を見たいと言いだしたらしく。
 そのグランツ卿は闘技場が見渡せる貴賓きひんせきで前のめりになっている。大公閣下が何やってんの。

「ピュ」
「スッスはどうしたんだ。相手は倒れているようだけど」

 雑踏のなかかき分けて関係者席まで案内されると、王都のギルド職員たちが興奮しながら教えてくれた。

「あの小人族が、一瞬にしてランクBのジェダワを倒したんです!」
「ジェダワはあの巨体で俊敏な動きをするのに、一歩も動いていなかった!」
「小人族が毒でも使ったんじゃないか?」
「なんだ? 何の毒を使ったんだ」
「ピュグッ」

 ギルド職員の言葉にビーが反論しそうだったが、俺はビーの口を押さえて声を上げる。

「うちのスッスはそんな真似しません。大体、確証もないのに憶測だけでものを言うのはギルド職員としてどうかしちゃっていると思うんですけど!」

 スッスにあらぬ疑惑をかけられてはたまらない。俺は声を張り上げて毒を使ったと言った職員に反論すると、職員は俺が蒼黒の団の団員であることに気づき慌てて謝罪をした。

「ピュピ!」

 ビーが指さした先、闘技場の真ん中で立っていたスッスが、急におろおろと走り回り倒れた冒険者へと駆け寄る。スッスは何か叫んでいるな。

鳩尾みぞおちに深く入れてしまったっす! 誰か回復薬ポーションくださいっす! 内臓ちょっと潰したかもしれないっすー!」

 慌てふためくスッスの傍に治癒術師が向かったようだ。
 内臓ちょっと潰したんだって。ヒエッ。
 スッスの修業相手は屈強くっきょうなオグル族。オグル族は巨人タイタン族より背は低いが、その肌は鋼のように硬い。クレイの鋼鉄こうてつ皮膚ひふと似たような感じ。スッスは修業でそんな相手と戦っていたのだから、加減がわからなかったのだろう。
 見学者たちは小さな小人族が大きな巨人タイタン族に勝利するとは思わなかったのか、勝手に賭け事にして負けたと叫んでいる。

「クレイとブロライトはどうしたのかな」
「彼のように瞬時に勝敗を決しました。武器を手にすることなく、揃って素手すでで」
「なるほど」

 とっとと決着をつけたということは、アイツら戦闘を長引かせて観衆を喜ばせるより、俺がもらった握り飯弁当が早く食いたいのだろう。

「武器を手にするまでもない、ということでしょうかね」

 グランツ卿の従者が苦く笑う。
 そういうこっちゃないんだけどもね。
 武器を持たないことに深い理由はない。
 今回は試験をする相手の強さを見極め、できることなら拳で一撃作戦だった。
 ランクアップ試験で愛用の武器を使う必要はないし、拳一つで終えられるのならそれで良い。クレイとしては人前でわざわざ己の技能を見せる必要はない、むしろ見せたくないと言った。
 それならばグーパンで良くね? と提案したのは俺。相手を舐めているわけではなく、実際にそれだけの技量があるのならば文句を言われる筋合すじあいはない。衆人環視しゅうじんかんしの下で必殺技をいちいちお披露目ひろめするほうがおかしいのだ。
 俺たちは並みの冒険者が味わえないような戦闘を経験してきた。
 絶対に殺してやんよと向かってくる大量のモンスター相手に、加減などするわけがない。どこを切り裂けば絶命するのか経験で知っている。どうやって苦しませずに素早く命を奪えるか。
 それは相手が人でも同じ。
 誰かの娯楽になるような戦いは、俺たちは絶対にしない。
 食うために刃を持ち、あらがうために戦うのだから。

「握り飯弁当……二十個で足りるかな」
「ピュー」

 ぎゅーくるるるるるぎゅぐぐぐぐ……
 ビーの腹が盛大に鳴る。俺も早いところ弁当食いたい。
 醤油とゴマ油で味付けした焼きお握りと、塩むすび、とろとろチーズが入ったふんわり卵焼きと、ほうれんそうと肉厚ベーコンのバターソテー、タコさんウインナー、ショウガ入りのハンバーグなどなど。
 タコさんウインナーとハンバーグは俺が教えた調理法だが、味付けはユルウさん任せ。鮭皮亭以外でも食べられるメニューばかり。ちなみにベルカイムとトルミ村では先行発売中。
 鮭皮亭に負けてたまるかと、王都内の料理人が切磋琢磨してより美味いものを作ろうとしてくれるのは嬉しいことだ。もう二度とドロドロした謎汁は食べたくない。
 そうしてビーの腹をけたたましく鳴かせながら、ランクアップ試験は無事に終了した。
 ギルド側から、あまりに早すぎて確認できなかったから再度戦えと言われたが、それならばランクアップはしなくても結構だとクレイが反論。ブロライトに至っては見物人が一切いない場を設け、相手を再起不能にしても良いのなら再戦しようと笑った。怖い。

「ピュイ、ピュピュ?」
「俺は素材採取家だからな。ああいった対人の試験じゃなくて、難しい依頼をいくつか受ければ昇格するんだろうけど」
「ピューゥ……」

 ビーがいやらしい笑みを浮かべて「面倒くさいんでしょ」と言う。
 そうだよ。ランクアップして貴族からの依頼が激増している暇はないんだよ俺には。
 トルミ特区監修とトルミ街道整備、ベルカイムへと続くドルト街道の整備も手伝う約束をした。夜に光る花を探さないとならないし、その前にルカルゥとザバを故郷に帰すべきだし、いやまず浮遊都市を探さないとならなくて、そのためには何か文献が残っていないか探さないと。やることいっぱい。
 冒険者ギルド所属の冒険者としては、ベルカイムの塩漬け依頼を定期的に消化したり、チームで高ランクのモンスター退治たいじをすることでギルドへの貢献こうけんとさせてもらう。
 時々珍しい素材を流しているので許してもらいたい。ごぼうとか。ワサビとか。ネコミミシメジとか。
 ギルドとしては観客を入れたランクアップ試験を見世物みせものにしたかったのだろう。だけどな。俺たちは見世物になっている暇はないんだよ本当に。
 それぞれ戦う相手をしたランク上の冒険者たちが、あっという間に負けるという失態しったいを犯した。しかし、負けた側は確かに強烈な一撃を食らったのだとうったえているのだから認めてほしい。
 クレイとブロライトは暫定的にランクSへと昇格。暫定的というのは、ランクSを上回る素質があるということ。
 国王陛下の御前試合でランクS冒険者同士の戦いを経て、ランクSに+(それ以上の力量)という結果になるのだ。
 クレイは以前この御前試合に挑戦し、ランクS冒険者に負けたことがある。再びあの場に立てるのかと感慨深くしていた。
 御前試合は半年に一度のもよおし。上半期の御前試合は既に終わったので、次は冬の御前試合がある。その際二人とも出てくれとギルドから頼まれたようだ。
 スッスは見事ランクB冒険者へと昇格。ギルドとしては再試験をしてランクAに昇格させたかったらしいが、まずランクBとしての依頼を受け、順当にランクAを目指すんすとスッスは言った。
 一度に二人のランクS冒険者の誕生に王都はお祭り騒ぎとなり、そして小人族の冒険者が巨人タイタン族の冒険者を瞬殺――殺しちゃいないけど倒したということで、スッスもまた話題の渦中かちゅうとなった。
 またしばらく王都に来づらくなったなと、俺たちはギルドをあとにしてグランツ卿の屋敷を目指すことにした。


 + + + + +


「これと、これと、こちらもだ。余には読めぬ字で書かれてあるものもある故、不確かではあるのだが」

 そんな満面の笑みで貴重な本を気楽に差し出さないでほしい。
 執政しっせいのパリュライ侯爵がオロオロしているじゃないか。グランツ卿、やめてちょうだい。

「陛下、御みずからお探しせずとも我々が」
「良いのだ。せものを探すようでとても楽しい。其方そなたらが探すは有翼人らのことだけで良いのか? 貴重な薬草や珍しき食材について記された書もあるぞ。ほれここに、ラティオの黄金の記述が」
「陛下、これらは門外不出もんがいふしゅつの貴重な文献でございますれば……」
「案ずるな、シルト。蒼黒の団が無法むほうな真似をするはずがなかろう?」
「まあ……左様さようでございますな。では陛下、こちらの文献は如何いかように」
「言語学者が解き明かせぬ文字ではあるが、確か中ほどに美しき絵があろう」

 いや待ってよ。
 貴重な文献を一介の冒険者に見せちゃ駄目だめでしょう。珍しき食材ってなんだろな。
 鼻歌でも歌いそうな勢いで本棚から本を引き抜く国王陛下と、協力する執政官。
 そう。目の前におわすのはアルツェリオ王国の国王陛下であらせられる、レットンヴァイアー陛下だ。
 まるで俺たちを友人のように扱ってくれる陛下だが、民からはアルツェリオ王国の生ける神としてあがめられているとうとい存在。


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