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11巻

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 甘いものよりも、からいものが好きになりつつあるお年頃。
 皆さんお元気でしたか。素材採取家のタケルです。
 トンデモ異世界マデウスに転生しまして、俺の肉体年齢は十九歳になりました。転生前は二十八歳です。肉体が若返ったとて、二十八年積み重ねてきた経験という名の記憶を消されることはなく、時に役立ち、時に足枷あしかせとなっております。
 こんなの放っておけばいいじゃないか、なんて思っていた若かりし頃。しかし、そんなのを放置すれば後々面倒なことになると気づいた成人後。
 元ある場所に片付ければいいだけなのに、後で後でと後回しにし、気づけば汚部屋おべや街道まっしぐら。洗濯物もなあ、ぱんつ七枚買っちゃったからなあ、週末にまとめてやろうと考えて寝るだけになっていた休日。やだあ。
 話がれたが、それはともかくだ。
 面倒なことこそ率先してやれと、元竜騎士ドラゴンナイトのクレイストンは言った。どこぞの熱血教師のようなことを言うなと思うが、マデウスにおいて面倒くさがりは冒険者にはなれない。
 面倒だからといって無防備で街の外に出れば、モンスターにワンパンで殺される。
 面倒だからといって倒したモンスターの処理をおこたれば、血のにおいで新たなるモンスターを呼び寄せる。
 面倒だからといって食後の歯磨きをサボると、真夏に放置した生ごみの強烈なすっぱくさい匂いになる口臭とか。お前のことだぞビー。
 いやだから、それはともかくだよ。
 魔法をたくみにあやつる一族、略して魔族まぞくのユグル族。彼らの種族間抗争的なものに巻き込まれた俺は、北の大陸から失われつつある魔素まそを取り戻すべく、東の大陸グラン・リオの守護神ヴォルディアスに相談をした。
 ビーの親御おやごさんでもあるボルさんは、北の大陸の守護神である炎神えんしんリウドデイルスを紹介してくれた。炎神は、白マリモ状のもふもふしたヴラキオサウルスでした。
 炎神が封じられていた影響で魔素が薄くなり、北の大陸に住まうユグル族をはじめ、民は苦しめられていた。
 その炎神を封じていたのが、ユグル族の王だったわけで。
 ユグル族の王――魔王まおうは、己の魔力が弱かったため、王位継承権をもらえなかった。ユグル族は魔力が多い少ないで優劣が決まる種族。矜持きょうじなのかなんなのか知らんが、魔王はそれが許せなくて、馬鹿にされるのが嫌で、だったら魔力のみなもとである魔素をくしましょうと。いや待て馬鹿。
 そんな魔王の浅はかな考えにより炎神は封じられ、しかもその封印のくさびは歴代のユグル族の王様の命そのものときたもんだ。ほんと馬鹿。
 もともと魔力が強かった者から魔力を抜き、彼らをハヴェルマとさげすむようになり、王都から追放。そして、もともと魔力が弱かった者がゾルダヌと呼ばれるようになり、他種族を蔑むようになった。
 種族にこだわりを持たない俺としては、そこまでして王になりたいの? と、思う。
 だってほら、王って色々と面倒そうじゃないか。あっちこっちの話を聞いて対処して、あっちこっちの顔色をうかがって決断して。諸外国との駆け引きと、忖度そんたくと、国民の不満を受け止める役目。考えるだけで面倒くさい。
 俺は冒険者でいい。
 素材採取家のままでありたい。多くは望まない。
 三食おやつと風呂、たまの昼寝があればそれでいい。



 1 とある王太子おうたいしの独白


 ぼくはコタロ。
 誇り高きコポルタ族の第二十八王子だ。
 好きなことは穴を掘ることと、珍しいものを見ることと、美味しいものを食べることと、尻尾しっぽを追いかけることと、お日様にお腹を出して寝ることだ。硬い木を噛むのも好きだ。丸いものを追いかけるのも好きだ。
 ぼくたちは兄弟姉妹仲良しで、父と母をうやまい、たくさんの民と毎日笑いながら暮らしていた。
 ある日、執政しっせいのレオポルンおじいが言った。なんだか息苦しくなってきたと。ぼくには息苦しいという気持ちはわからなかったが、父王様は魔素が少なくなっていると言っていた。
 魔素は魔力になり、魔力は魔法を使うのに必要なもの。ぼくは魔法が得意ではないけど、魔法が得意な者は魔法が使いづらいと言った。
 誇り高きコポルタ族の歴史のなかで、魔素が少なくなるのははじめてで、ぼくたちの平和な毎日はなくなってしまった。
 魔法が使えなくなっただけなのに、不便なことがたくさんあった。だけど、ぼくたちは誇り高きコポルタ族。簡単に火が点かなくなっても、他にも火を点ける方法は知っている。
 魔法が得意なものが病気になったとき、無理をさせるわけにはいかないと先王様たちが対処を考えてくださっていたのだ。
 洗濯ものを洗うのも大変になった。だけどぼくたちは皆で協力して洗濯ものを洗うようにした。
 魔法が使えなくなっても、毎日の生活が不便になっても、ぼくたちは笑い合っていた。このするどい爪と牙があれば、ぼくたち誇り高いコポルタ族は生きていけるのだ。
 ある日、王都、というところから使者が来た。
 魔法を巧みに操るユグルの民だ。
 ぼくたちは薄くなった魔素のなかで魔法を扱うのが難しいのだが、ユグルの民は変わりなく魔法を使っていた。さすがユグルの民だ。
 彼らはぼくたちに魔石を探してほしいと言った。魔石とは、魔素がぎゅっとなっている石のことだ。山の奥深いところにたまにある、貴重な石だ。
 その魔石があれば、ぼくたちもまた魔法が使えるようになるらしい。
 ぼくたちは穴掘りが得意だ。穴掘りと言えばぼくたちだ。外の国には穴掘りを得意とする種族がいるらしいが、ぼくたちほど得意ではないだろう。
 ユグルの民はぼくたち全員を王都へと誘った。そして、城の地下へと案内した。
 城の地下には魔石の坑道が続いていた。ユグルの民はここから発掘された魔石を使い、魔石の力を使っているのだ。詳しいことはわからないが、そういうことだとレオポルンおじいが言っていた。
 だが、きらきらした城をきらきらしたままにするためだけに魔石を使うのは、とても勿体もったいないと思うのだ。
 ぼくたちの腕にかかれば魔石だってすぐ見つけられる。
 たくさんの魔石を掘り出したので、ぼくたちは少しだけ魔石を貰って帰ろうとした。
 そうしたら、ユグルの民は城から出るなと怒鳴どなった。
 ぼくたちは言われたように魔石を掘ったし、魔石を掘ったら分けてくれるとも言ったから貰ったのに。
 ユグルの民は嘘をついた。
 ぼくたちを坑道に閉じ込め、ずっと魔石を掘れと命令してきた。
 ぼくたちは反対した。ぼくたちは、お日様の下でお腹を出して寝るのが好きなんだ。こんな暗くて狭くてじめじめしたところにいたくない。ご飯なんてプンプンオタマと草しかないんだぞ。プンプンオタマは栄養があるけども。
 魔法が使えなくても、お日様の下で暮らしたい。
 偉そうなユグルの騎士にそう言うと、ぼくは殴られた。そして、殺されたくなければ言うことを聞けと言った。
 ぼくは何を言われたのかわからなくて、騎士に掴まれた首が痛くて、心配そうにぼくを見る兄弟姉妹たちや、父王様や母王様の怖い顔を見てやっとわかった。
 ぼくは人質ひとじちというやつになった。
 ぼくを保護すると言い出した優しいユグルの民が教えてくれた。そのユグルの民は、ユグルの民の王女様だった。
 王女様の名前は、ルキウス殿下と呼ばれていた。とても綺麗きれいなユグルの民であった。
 ルキウス殿下は涙を流しながらぼくにびた。
 ぼくたちを閉じ込めるつもりはなかったのだと言った。ぼくたちの穴掘りの技術を思い出し、手を借りようと言ったのは、ルキウス殿下だった。だけど、ぼくたちを閉じ込めることには反対してくれた。
 毎日毎日、ルキウス殿下は城の地下にある魔石坑を訪ねては、ぼくの家族や仲間たちに水や果物を運んでくれた。
 ルキウス殿下と侍女のアルテは良いユグルの民なのだ。
 二人以外にも、ぼくのことを気遣ってくれるユグルの民がいた。おかしなことに、ユグルの民たちは自分たちのことをゾルダヌと言うのだ。ユグルの民のなかにゾルダヌという種が生まれたのだろうか。
 ある日、王城がとても強く揺れた。
 山に住むと言われている、神様が寝返りを打ったのだろうか。それともくしゃみをしたのだろうか。
 たくさんたくさん揺れて、地面がこんなに揺れたのははじめてで……
 ぼくはひとりで机の下にもぐっていた。

「コタロ、落ち着いて聞いてくれ」

 家族は無事だろうかとルキウス殿下に聞いたら、ルキウス殿下は涙を流しながら教えてくれた。
 たくさん地面が揺れたせいで、魔石坑が大きく崩れたらしい。
 そして、ぼくの家族が死んでしまったのだと。
 父王様も、母王様も、兄たち、弟たち、姉たち、妹たち。
 仲間のコポルタたちが、たくさん死んでしまった。
 二十九番目の弟、モモタだけを残して。
 ぼくの、頭は、真っ白になって。
 何も、考えたくなくて。
 だけど、生き残ってくれたモモタに会いたくて、会わせてくれと頼んだのに、誰も会わせてくれなかった。
 ルキウス殿下は、何度もごめんなさいって言ってた。ルキウス殿下がどうして謝るんだろう。変なの。
 ぼくたちは毎日平和に暮らしていた。
 それなのに、平和に暮らせなくなった。

「ぼーくはーコポールター……すごいぞ……つよいぞ……」

 ぼくたちの歌は悲しいときや苦しいときに歌うと元気になれる。
 勇気を出すときに歌うのだと、母王様が言っていた。
 ぼくはひとりだけ穴掘りができなくて、城の中庭の木の根元を掘ろうとしたらしかられた。「そこで反省しろ」って、ゾルダヌの騎士が怒鳴りながらぼくを東屋あずまやの屋根に投げた。
 騎士とはコポルタのように誇り高い生き物だと思っていたのに、ゾルダヌには怒ってばかりの騎士しかいないようだ。
 生き残っている仲間たちは無事だろうか。モモタは泣いていないだろうか。モモタはまだまだ小さいから、きっと泣いているはずだ。父王様たちは偉大なる祖先の御許みもとへ行けたのだろうか。
 寂しい。
 寂しい。
 ぼくも、父王様の元へ行きたい。
 ふいに、とてもいい匂いがした。
 今までいだことのない匂いだ。
 今まで嗅いだことがない匂いなのに、これは美味おいしい匂いだとわかる。
 誰かがご飯を作っているのだろうか。だけど、ゾルダヌのご飯はあまり美味しくない。プンプンオタマの塩団子のほうが美味しいときがある。


 ぐぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ……


 なんだ! 誰だ! ぼくを誇り高きコポルタ族と知ってのことか!
 恐ろしいほどのうなり声! きっと、きっと、恐ろしい見目みめをした化け物なのだろう!


 ぎゅく~るるるる……


 なんだと! ぼくは、こわ、怖くなんかないぞ! この、鋭い、爪と、牙が、見えないか!


 ぎゅく~ぎゅるるるる。


 むむむっ? こ、これは、ぼくの腹が鳴っているのか? ぼくの腹には、恐ろしい化け物がんでいたのか? なんてこと!

「おーい。腹が減っているなら下りてきな。美味うまい飯を食わせてやるよ」

 美味しい匂いをさせた、優しい声。
 はじめて聞く音なのに、ぼくの尻尾が勝手にふりふりした。
 ぼくの尻尾はとても優秀なのだ。ぼくに悪いことをしようとするやつには、ぴくりとも動かない。
 声はぼくに言ったのだろう。きっとそうだ。美味い飯って言っていたな。どんな飯なのだろう。
 ぼくは、屋根から転がり落ちながらもいた腹を抱え、窓の下に座る。ふりふりする尻尾を落ち着かせながら東屋の中を覗いた。
 そこには、まばゆい光を背にした大きな男がいた。
 真っ黒の髪の毛に、真っ黒の服を着た男。
 その男はぼくを見ながら笑った。
 優しく、優しく、笑ってくれたのだ。



 2 魔王の暴走


 ダイオだけ山頂、はるか遠くの空に浮いたままの白マリモ――炎神が、ぬるぬるとゆっくり動き出している。
 これで北の大陸に魔素が戻ればいいのだが、炎神パワーでよっしゃ任せろ魔素ボンバー! とは、いかないらしい。ちょっと期待したんだけど。
 だが、確実に大気に魔素が戻りつつあるのがわかる。
 湿しめを感じる風が汗ばむひたいでると、肺の奥まで深く息をすることができた。はじめて北の大陸に落とされたときに比べれば、ずっと呼吸がしやすい。

「ルキウスの呼吸が穏やかになった。アルテとラトロはまだ苦しんでいるが、ひどくはない。彼らに埋め込まれた魔石は輝きを失っている」

 転移門ゲートから出てきたゼングムが、辺りを警戒しながら教えてくれた。転移門ゲートの先はハヴェルマの集落につながったまま。そこでは数人のゾルダヌたちが寝かされ、それぞれハヴェルマの民たちが看病している。
 こんな状況におちいる前から、ハヴェルマたちはルキウス殿下たちゾルダヌを受け入れてくれた。きっと彼らのなかには、まだまだゾルダヌに対する憎しみがある者もいるはずだ。魔力を魔王に吸われ、記憶を操作され、きらびやかな王都を追われたのだから。
 しかし、憎しみを訴える者はいない。彼らはそれぞれ今できることを探し、見つけ、必死に動いている。幼い子供たちすら怯えながらも泣かずに、周りの大人たちの邪魔にならないよう幼いコポルタ族たちと身を寄せ合っていた。
 もともとのユグルの民という種族自体が優秀な人たちの集まりだったのだろう。魔力で優劣をつけてしまう習わしは残念なことだが。
 魔素が戻りつつあるから、魔王はゾルダヌたちから魔力を吸わなくなったのかもしれない。もしくは、炎神が解放されたことによって、魔力吸い取り装置のようなものが壊され、吸えなくなっているのか。
 すべて俺の憶測に過ぎないが、とりあえず今はルキウス殿下たちユグルの民の体調を優先させたい。

「それは良かった。魔力が全部なくならないよう、魔素水を一滴ずつでもいいから飲ませてくれ。炎神が解放されたから、今に魔素が元通りになると思う。時間はかかるかもしれないけど」

 俺がゼングムに言うと、ゼングムの背後にいた数人のハヴェルマたちが頷き、動き出す。
 統率の取れた無駄のない動きは、アルツェリオ王国の王城内で見た騎士たちを思い出させた。もしかしたら彼らは騎士だったのかもしれないな。

「まさか……ゾルダヌが禁術きんじゅつに手を出しているとは」

 ゼングムははるか空の上で戦う魔王とロボヘスタスを見上げ、劣勢な魔王をにらみつけた。

「埋め込まれた魔石のこと? あれって、やっぱり危険なんだよな」

 ルキウス殿下の侍女アルテの胸に埋まっていた魔石を思い出し、ゼングムに問う。

「危険などという言葉では済まされない。我らハヴェルマ……いいや、ユグルの汚点おてんと言っても過言ではない」
「汚点」
「ああそうだ。汚点だ。禁術というのは、祖先が犯したあやまちそのもの。身をもって末代まつだいまでに教訓として知らしめてくだされた、教えでもあるのだ」

 ゼングムはこぶしを握りしめ、憎らしげに吐き出した。

「魔力を失っても生きる道はあっただろう! 何故なぜ、何故、禁術に手を出したルキウス!」

 ほんとにな。
 ほんとだよな。
 魔法に頼らない生活の仕方を考える余地よちがあったのにな。
 ルキウス殿下の胸に飾られている青い魔石。あれは装飾品ではなく、胸に埋め込まれている。
 魔石は心臓と直結していて、心臓の鼓動をかてとして魔力を生み出す。
 一度装着してしまった魔石は二度と取り外すことができない。心臓にもそれなりの負荷がかかるだろう。魔石の力は永遠ではないため、いつか力は失われてしまう。
 魔石の力が失われたとき、繋がっている心臓の鼓動までも止めてしまうのだ。
 でもな。
 魔法が使えなくなったからって安易に魔石を埋めちゃおう、寿命を縮めちゃおう、って考えるものだろうか。
 高等かつとても複雑な魔術と外科げか手術による魔石埋め込み法は、アルツェリオ王国では禁止されていた。と、言っても王都の図書館の隠し部屋に保管されていた古い文献に書かれていた術式は、現国王の叔父であるグランツ大公閣下すらまったく知らないものだった。
 回復魔法や治癒魔法、回復薬ポーションなどでちぎれた手足がくっつくマデウスにおいて、外科的手術は戦場での最終手段となっている。魔力を失ったときとか、回復薬ポーションの在庫が尽きたときの。戦争がなくなって久しいアルツェリオ王国内では、竜騎士すらその知識があるのか定かではない。
 そんな、失われたはずの禁術。
 長命のユグルの民の寿命を縮めるような真似を、ルキウス殿下は進んでやりたいと思うだろうか。
 いくら魔王が実父とはいえ、ルキウス自身が死ぬかもしれないのに。

「なあゼングム、もしかしたらルキウス殿下は魔王に……あの、王様に無理やり魔石を埋め込まれたのかもしれないぞ?」
「何?」

 怖い顔のまま俺を睨むゼングムにひるみながら、俺は話を続ける。

「ルキウス殿下が魔石の力に頼ろうとしたきっかけは、本人に聞かなければわからない。わからないけど、あのルキウス殿下だぞ? 自ら望んで魔石を埋めたいと思うかな」

 本の頁すら魔法でめくっていたユグルの民にとって、魔法が使えないことは死に繋がる。本くらい手を使えよと言いたい。何のために指があるんだ。
 ともかく、魔素は少なくなったが今までの生活は変えたくない、そんな我儘わがままがゾルダヌを生んだ、と思っていた。
 だがしかし、魔素が薄くなった原因はユグルの王である魔王のせい。魔力が少なく、王位継承権を得られなかった魔王が欲をかいたせい。
 ならば、ユグルの民の胸に魔石を埋め込んだのも――

「ルキウス……」

 俺の言葉にゼングムは困惑しているようだ。記憶を取り戻しつつあるゼングムは、ルキウス殿下が望んで魔石を身体に埋めるような人物ではないことを知っている。魔王に強制されたか、それともコポルタ族やコタロを人質にされ、仕方なく――――

「タケル、タケルタケルタケルタケル」
「はいはいはいはい」

 転移門ゲートから、辺りを警戒しながらも巨大な本を抱えて出てきたのは、ポトス爺さん。
 ポトス爺さんは縦が一メートルもありそうな本を地面に置き、頁を必死で開く。
 濃紺色の本の表紙には、ユグル族の言葉で「王家秘匿ひとく事項」と書かれていた。

「ポトス爺さん、この本は王様が代々受け継ぐものじゃないの?」

 本来ならばあのブチ切れている魔王が所持するべきものであって、数代前に退位したポトス爺さんが持っている理由はなんだろうか。
 俺の素朴な疑問に、ポトス爺さんの肩が大仰おおぎょうに跳ねた。
 この反応はまさか。


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