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1巻

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 広いベルカイム、素材採取を専門としている冒険者は俺だけではない。
 朝一番に受注しないと、昼前には依頼書はほぼなくなってしまう。
 上位ランクの依頼書はいくつか残っているが、俺は最低ランクのF。ランク上の依頼は受けることができない。だが、上位ランク者は二つ下のランクまで依頼を受けることができる。こういうところで最低ランクのもどかしさを感じるが、今は明日食うに困るほど切迫しているわけではない。
 むしろ依頼を受ければ受けるだけ貯蓄が増えている状態。万年金欠のヤツらには羨ましい話だとは思うが、ほらなんせ、俺の探査サーチ先生が優秀すぎましてね。
 現在の貯蓄が1000万ほど。毎日の消費額が大体2000レイブ。宿代と飯代だ。ランクFの素材採取依頼は最低500レイブ。だが俺はその仕事を十倍の報酬にしてのける。なるべくより良い状態のものを選んで採取することができるため、依頼主も金に糸目をつけなくなってきているのだ。俺がFランクだってのを忘れて遠慮なく依頼してくるんだからなあ。
 指名依頼になると最低報酬が1万レイブにまで跳ね上がる。まあ、アリクイのうんこを十個頼まれたときは泣きたくなったがな。
 無駄な買い物さえしなければ、一日二日休んだところで慌てることはない。
 そういうわけで。

「ピューイ」
「ん? 今日は町の外に出ないぞ。前から行ってみたかったところに行くつもりだ」
「ピュイ?」

 ビーは愛くるしい目をまたたかせ、どこに行くのと聞いてくる。

「町の東部分は商業区と言ってな、別名が職人街とも呼ばれているんだと」

 ベルカイムで売られている全ての加工品はこの商業区で作られている。庶民の生活必需品、調理器具や衣服、畑仕事の道具に至るまでの全てが。
 しかもその職人の多くがかの有名なドワーフ族!
 手先が器用な彼ら種族が携わる武具や器具は庶民の強い味方だ。頑固な種族らしく、己が納得できるまでその腕をふるい、たとえ裁縫の針一本でも手を抜くことはしない。
 そんなドワーフ族が造る採取用のハサミが欲しいのだ。
 今使っている採取用のハサミはジェロムの店で購入した裁縫用のハサミ。俺の手はデカいから一般的な採取用ハサミは小さくて使えない。仕方なく裁縫用のハサミで代用しているのだが、これがまた切れにくく壊れやすくて使いづらい。
 薬草や野草はただチョンと切るだけではなく、その切り方によってランクが変わってしまうことがある。
 代表的なのが腹痛を抑えるヨギミテ草。この草は茎から伸びた最初の葉の部分のすぐ下を切り落とさなければ効果が半減してしまう。何がどうしてそうなってしまうのか理由はさっぱりわからないが、知らずに適当に切っていたら、ランクがEからFになってしまった。
 切り口にも問題があり、一気にスパッと切らなければならない。草のくせにあれこれと注文が多いのだ。
 ナイフでなくハサミを利用しているのは、ナイフの使い方がヘタクソだからです。

「親方ぁー! 発注してた針金が届きやしたぜー!」
「おおよー! そこらへん置いとけやー!」
「バッキャロー! 火の加減が甘ぇんだよ! こんなんじゃナマクラになっちまわあ!」
「すいませーん! 先日注文した大鍋はできましたかー!」

 商業区に入った途端、あちこちから大声、罵声、怒声が飛び交う。
 声に負けじと方々でトンテンカンテン音が響き、狭い路地を行き交う者たちはその熱気に押されるように足早に過ぎ去る。
 ドワーフ族はほとんどが男性であり、女性はドワーフ族の郷から滅多に出てこないらしい。野郎だらけの出稼ぎでむさくるしいが、一説によるとドワーフ族の女性も歳を重ねればヒゲもじゃになるとかなんとか。ないわー。
 実はあのむさくるしい軍団の中に女性も混じっているのかもしれないと思いつつ、軒先に並んだ武具を見る。

「ピュイィ……」
「ああ、見事なものだな」

 均等に並んだ武具の数々。俺にはこういった代物を見る目はない。どれが良くてどれが粗悪なのか全くわからない。調査スキャンしてなるほどと思うしかない。
 しかしこう、太陽に反射するぴかぴかのロングソード等を見ていると、たぎるものがある。刀身に唐草模様が描かれているものや、異様にゴテゴテと宝石が飾ってあるもの、短剣やレイピアなんかもあった。
 冒険者が愛用しそうな剣は無骨で何の装飾もなく、極限までコストを抑えた状態のものだ。こういった剣は切り裂くことを目的としていない。叩き割るとか貫くことを前提としている。壊れたとしても比較的安価だからすぐに買い代えることができるのだろう。
 刀といえば日本刀を思い出す俺としては、多国籍な武具のラインナップの中にそれが一つもないことを嘆く。似たような細身の湾曲した刀はあるのだが、その刃先に鋭さはない。まあ、完璧な日本刀があったとしても買いはしないだろうが。
 それにしても、こういう武具を扱う店はもっと冒険者たちで溢れ返っていると思ったが、随分と閑散としているな。通りを歩く冒険者は数えられる程度だ。

「兄さん、何か気になるものでもあったかい?」

 店の中から猫耳の若い女性が出てきた。
 大胆に胸が開いた袖の膨らんだシャツに、革のズボン姿の可愛い女性。こう、むちっとしたぷりっとした二つの膨らみが強調されるようなデザインのドレスは大変素晴らしい。とても素晴らしい。
 おおっと視線を泳がせなければ。

「採取用のハサミは取り扱っていますか?」
「はさみぃ? ここにゃ置いてないよ。そういう生活用品はもっと向こう、五軒隣の店」

 ぶっきらぼうだが、きちんと説明してくれるところが可愛い。俺が剣士ならばこの店を贔屓ひいきしたのに。

「そんなでっかいナリしてハサミをほしがるなんてねぇ…………あっ! アンタ、もしかして、最近この町に来た素材採取を専門にしている冒険者?」
「最近この町に来た素材採取を専門にしている冒険者が何人もいるなら、俺じゃないかもしれない」
巨人タイタンみたいにでっかい人間で常に眠たそうって言っていたから、特徴は合っているだろ」

 なんだその噂。酷くね?

「指名依頼は向こう三ヶ月予約でいっぱいだって!」

 まじか。
 そんなの俺だって知らなかったんだけど。

「ちょっと、ちょっと待ってておくれよ! ね? いいだろ!」
「まあ……」
「おやかた! 親方ぁーーーっ!!」

 猫耳のお嬢さんは店の中にバタバタと駆け足で入っていく。ガチャンとかドサンとかいう音と共に……

「なぁに暴れてやがんだーー!」

 という強烈な怒声。
 鼓膜がビリビリと響くほどの声に、向かいの店のオッサンや通りを行き交うドワーフらが慣れた顔で両耳をふさいでいる。

「親方! 噂の素材採取の専門家、今店の前に来てるんだ!」
「あぁ? だからどうした」
「親方が欲しがっている鉱石が手に入るかもしれないだろ! リュハイ鉱山のイルドラ石!」
「何言ってやがらあ! 採取を生業なりわいにしているヤツなんざ、あんな場所行けるわけねぇだろうが!」
「だけどベルカイムで一番人気のヤツなんだよ? ムンスのリベルアが注文したルファサ草、親方だってすげぇって驚いてたじゃないか!」

 ちなみにこのやり取り、大声同士なので周り近所に筒抜けである。
 俺に何かを採取してきてもらいたいらしいが、親方と呼ばれているドスのある大声の持ち主が反対していると。ムンスのリベルアっていうのは、先日指名依頼してきた薬種問屋の薬師のことだな。報酬を弾んでくれるというから張り切って採取したのを覚えている。
 薬草や野草、山菜等の食材採取が俺の主な仕事であり、鉱石採取の依頼は来ない。鉱石採取には更なる専門知識と危険が伴う。ランクDからが受け持つ依頼であるからして、ランクFの俺に声がかかることはない。無論、探査サーチ先生に尋ねれば採取は可能だ。ただ頼まれないからやらないだけ。
 そんなことより、俺って採取専門としてはベルカイムで一番人気ですって。聞きました? うふふ。

「駄目モトで頼んでみればいいじゃないか!」
「それでソイツが死んじまったらどうすんだよ!」
「頼むだけでもいいだろ!」

 オイオイ物騒ぶっそうな話になってきたな。
 死ぬかもしれない頼み事って何だよ。俺は採取に命までは懸けませんよ?
 怒鳴り合いが落ち着いてしばらくすると、猫耳のお嬢さんがゆっくりと出てきた。尻尾の毛が膨らんでいるのがたまらん。

「悪い、待たせて」
「いや? 話は聞かせてもらったから」
「…………ほんとすまない」

 アタシも親方も声がデカいから、とお嬢さんは頭を下げた。声がデカいどころじゃなく、オペラ歌手にも勝てるんじゃないかって声量だったがな。

「だけど親方は説得したから! 良ければ中で話を聞いてくれ」
「採取の依頼?」
「ああ。困っているんだよ、本当に。初対面でムシのいい話だと思っているが、こっちも余裕がないんだ」

 膨らんでいた尻尾がしゅーんとショゲる。頭部の立派な猫耳も垂れてしまって、猫好きとしてはその毛をもふりまくりたくてたまらなくなるが自重する。獣人にとって獣の部分は髪や肌と同じ。勝手に触れるのはご法度だ。
 しかも猫耳の女性が遠慮しながらも、期待に満ちた猫目でこちらをチラチラ見上げてくる。面倒な予感はありありとするし、これが有名なフラグなのねと思いつつ。

「話だけでも聞こうか」

 格好つけてしまうのは、男の性質さがなんだよ。




 25 必死の懇願、新たなる依頼


 がちーんがちーんがちーん。
 じゅわわわわわ……
 ごうごう……ごうごう……
 がががががががが。
 なるほど。さっきの大声のやり取りは、こういうわけか。
 店内に入ってすぐに聞こえてきたけたたましい音に目を細める。
 鍛冶場というのはこうも様々な音が大音量で響いているものかと感心しつつ歩を進めた。ビーは驚いてローブの下に隠れてしまった。
 何よりもこの熱気がものすごい。肌を焼けつくようなもわりとした熱風がそこかしこから吹いてくる。小柄だが筋肉ムキムキ、ついでにお腹もぼっこり膨らませたドワーフたちがハンマーを振り下ろして形成する鉄の塊。飛び散り舞い上がる火花。あの一本一本が剣になるのかあ、と思わず足を止めた。

「兄さん、こっちだよ」

 更に奥の部屋に来るよう呼ばれ、もう少し見学していたいと思いつつ歩を進める。鍛冶場なんてはじめて見たのだ。
 しかも力強くハンマーをふるうのはドワーフ族。夢中にならないわけがない。

「なんだい、鍛冶場を見るのははじめてなのかい?」
「ああ。鉄の塊を叩いて伸ばして剣になる工程は面白いな」
「だろう? アタシも炎にせられた一人さ。いつか親方の腕を盗んで、英雄が使うような剣を造るんだ」

 壮大な夢だな。志が高いのは良いことだ。

「親方、入るよ」

 扉をノックしてから返答を待たずに部屋に入る。
 六畳ほどの部屋に応接セットのようなものがあり、上座に貫禄かんろくある老齢のドワーフが座っていた。顔面ヒゲもじゃで、どこが口でどこが鼻なのかわからない。
 部屋の扉を閉めるとけたたましい喧騒けんそうがわずかに収まった。それでも怒鳴り合うような声は聞こえてくる。

「アンタが素材採取の専門家かい」

 低くしゃがれた声で俺をギロリと睨む。
 なんで初対面で好戦的なわけ。
 ほこりっぽい長椅子に座れと視線だけで命じられ、だからなんでそんな威圧的なんだよと思いながらも腰をかける。ぎぎぎ、と嫌な音がした。

「ランクFですよ、言っておきますけど」
「ハッ、最低ランクの新参者が随分とご活躍だと聞いてるぜ」
「はあ、そうなんですか。おかげさまで仕事は順調です」

 いやいやどうもどうもと愛想笑いをして頭を下げると、ドワーフの爺さんは面食らったように小さな目を見開いた。
 秘技・日本人の腰の低さを見るが良い。俺が爺さんの嫌味に食いつくと思ったか? 残念だったな、俺は温和な大人なのだから! 下手な喧嘩は買うだけ面倒!

「フン……そんなナリして、ちまちまと草集めしてんのかよ」
「これがけっこう楽しいんですよ。思いがけずランクBの薬草を見つけたときの感動、あれは他では味わえませんね」

 そしてまた愛想笑い。
 価値観なんて人それぞれだ。俺の図体は剣士や戦士向けだとギルドで散々言われているから今更気にならない。デカいだけで剣がふるえるかと言えば、それは違うんだと叫ぶぞ。基礎も何もわかっていないヤツが剣を持ったら怪我をするだけだ。

「親方、こっちが頭を下げる立場だってのに、何威嚇してんだよ」
「うるせぇな! 話をして、それから本質ってぇのを見極めてからだな……」
「悪徳業者にコロッと騙される親方が何言ってんだ」
「んがっ! ぐっ、黙れ!」

 この親方にしてこの弟子あり、といったところか。似たもの同士同族嫌悪もあるだろうが、なかなか良いコンビじゃないか。
 ところでお客さんにお茶とか出してくれないの?

「兄さんごめんよ、親方は気がちっちゃいくせして方々ほうぼうに敵を作りたがるんだ」
「リブ、余計なこと言うんじゃねぇ!」

 なるほどなあ、大声で威嚇するのは怖いと思われたくない気持ちの表れ。
 わかりますよ、そういう上司たくさんいました。というか、顔真っ赤にして焦る爺さんなんて見たくないんだけど。

「単刀直入に言わせてもらう! アンタに仕事を頼みたい!」

 猫耳さんが頭を勢いよく下げる。

「待てリブ! 俺はコイツに頼むなんざひとっことも」
「うっさいわ! こっちが選べる立場だとでも思ってんのかよ! 納期が迫ってんのに、あれこれ難癖つけてなかなか造ろうとしない親方の責任でもあるんだからな!」
「バッキャローめが! ハンパな材料で一流のモンが造れると思ってんのか!」
「工房のモンが明日の飯すら食うに困る状況でも同じこと言うのかい!」
「うっぐううううううう!!」

 ああ……そば茶うめぇ。
 市場で購入したナントカというお茶っ葉。これがそば茶の味がしてとても美味い。ビーは苦手らしく匂いすら嗅ごうとしないが、珈琲コーヒーよりも緑茶と紅茶派の俺としては気に入っている。
 ちなみに珈琲はこの世界にもある。ラガーもあればエールもある。味は大味。
 鞄から大きさの違うカップを三つ取り出し、一つにビー用の魔素水を汲み、残りにそば茶を注ぐ。向かいのぎゃんぎゃんとした口論を無視して飲み続ける。うめぇ。

「親方が妥協したくない気持ちはわかるさ! アタシだって悔しい! 思うような素材で一級品を造ってもらいたいさ! だけど現状を見てくれよ、借金しか増えてないんだよ!」
「てめぇ、俺に魂を捨てろって言うのか!」

 ああうんなんか把握した。
 フラグ立ったどころじゃない。完全に面倒な話だこれ。
 借金まみれの工房が起死回生の剣を造って一念発起しようにも、思うような素材が手に入らないと。それで職人としての爺さんと現実問題を考える猫耳さんとで意見が分かれているとな。
 猫耳さんとしては、噂に聞いた『巨人タイタン族みたいにでっかい素材採取専門家に鉱石などを依頼したい』といったところだろう。

「まあ、とりあえず、茶が冷める前に飲みなよ」

 せっかく適温で保存しておいたそば茶だ。
 両方一歩も引かない睨み合いを温かな茶で中断する。二人は肩で息をしながらも視線を茶に落とした。

「……すまねえ」
「ごめんよ、客人の前で」

 二人は同時に腰を落とすと、同時にカップを持って同時に飲む。ほんと似ているな、こいつら。

「…………うめぇな、これ」
「ほんとだ。エプル茶だろ?」

 正式名は知らぬ。

「………………ん? これ、どこから出した?」
「まあまあ、それはどうでもいいじゃないか。そんなことよりもさっさと本題に入ってくれ」

 師弟口論はそれはそれで面白いのだが、こんなの見学するよりも鍛冶場の見学がしたい。剣を造りたいとかそういうことではない。ただ見ていたいのだ。
 爺さんはバツの悪そうな顔をしてそっぽを向き、その態度に苛立った猫耳さんが憤慨しそうになったが必死に抑える。

「すまなかった。許してほしい。アタシの名前はリブル。こっちは武器鍛冶職人のグルサス親方」
「タケルだ」
「さっそくだがアンタに依頼をしたい。ギルドで指名依頼を出せば話は早いんだが、三ヶ月も四ヶ月も予約で埋まっていると言われた。正直、そんなに待てるほど時間がない」

 ………………指名依頼を一日三件くらいはこなしているつもりだったんだが、それでも三、四ヶ月待ちってどういうことなの。そりゃ俺の探査サーチは優秀でいい仕事をするが、そんなに指名依頼が殺到するほどなのか?
 他にも素材採取を専門にしている冒険者は、それこそベルカイムにはランクBの素材採取専門家がいると聞いているのに。

「タケル、アンタはリュハイ鉱山に行ったことがあるかい?」
「いや、聞いたこともないな」
「ドワーフ族の国が管理している鉱山なんだが、そこにしかない特別なイルドラ石という鉱石がある。イルドラ石は魔鉱石に類似する、鉱石の中ではミスリルよりも硬くて鉄より加工しやすい特別な石なんだ」

 うん? 魔鉱石って言ったな。

「だが最近、リュハイ鉱山でイルドラ石が採掘されにくくなったんだ。理由はわからない。ドワーフ族も収入源が減少して困っているし、アタシら鍛冶場のヤツらも、イルドラ石ほど使い勝手のいい石がなくて……正直どうすればいいのか……」
「聞いてもいいか? 硬いのに加工しやすいってどういうことだ?」
「ああ、ドワーフは鉄でも銀でも加工のさいに魔力を込めるんだ。イルドラ石はその魔力によく反応してくれる石で、魔力を込めればどれだけ硬い石でも思うような形になってくれる。魔鉱石ほどの力はないけどな」
「熟練の技が必要だ。一朝一夕いっちょういっせきでできるモンじゃねぇぞ」
「わかってるよそのくらい。リュハイ鉱山で何が起こったのかは、ドワーフのゾロワディーン王も原因不明だって」

 ドワーフの国か……鉱山っていうのも見たことがないな。
 頭の中では面倒な案件だとわかっているのに、それを上回る好奇心が出てきた。ゲームや映画の世界で見たドワーフ族の国。どんな光景なのか見てみたい気がする。女性はほんとにヒゲもじゃなんですか。
 職人街の武具屋に冒険者がいなかった理由がこれか。需要のある鉱石が品薄しなうすだから、職人たちが思うような武具を造れないのだ。
 ドワーフは決して妥協を許さない。どんなに頼んでも適当な仕事は絶対にしない。

「頼む。他の依頼者にはすまないと思うが、こっちは工房の、いや、ベルカイムの鍛冶場連中皆が困っているんだ。きっとベルカイムだけじゃない。他の町の鍛冶場だって、そうだ、冒険者だって困ることになる!」
「イルドラ石っていうのは、そんなに貴重な石なのか?」

 そば茶のお代わりを注ぐ。自作の魔道具マジックアイテムである保温水筒から湯気の立つ茶が出るのを間近に見て、爺さんは目を丸くしていた。
 ふふん、これは自信作なんですよ。その名も魔法瓶。まんまです。

「鉄鉱石くらいの値段だ。それなのにミスリル鉱石と同じくらい、加工の仕方によってはそれよりも丈夫になる石だよ。ミスリルほど稀少でもないから値段もそれほど高くない。貴族連中はあくまでもミスリルにこだわるが、冒険者なんかはイルドラ石の入った鉄剣を好む」

 天然ダイヤとジルコンみたいなもんか? つまりが、庶民の味方である鉱石が手に入りにくくなっていると。

「二ヶ月後までに剣を造らなきゃならないんだよ。王都で職人の技を競う品評会があるんだ。親方は毎年その大会に出品している。いっつも上位入選で、二年前の大会では優秀賞を取ったんだ!」
「へえ」

 その大会がどれほど凄いのかはわからないが、曲がりなりにも国王の膝元で開催される大会となれば、権威があるのだろう。
 ベルカイムやトルミのあるグラン・リオ大陸の半分以上を占めるアルツェリオ王国には他にも賑やかな町はたくさんある。無論腕自慢の鍛冶職人など星の数ほどいる。そんな中で優秀賞といえば、それなりに名のある職人だということだ。

「リュハイ鉱山に行ってイルドラ石を手に入れてほしい! アタシが行きたいんだが、アタシには採取の知識もなければ腕もない。おまけに冒険者じゃなけりゃ鉱山に入ることもできない」
「ドワーフ族が管理している鉱山なんだろ? 勝手なことをしたら怒られるんじゃないか?」
「そこは親方が紹介状でも書くさ!」

 だろ? と爺さんに嬉々として伺うが、爺さんは顔をしかめたままだった。だがそば茶は飲み干している。カップを持ったまま……まさかお代わり強請ねだってるのか。

「親方サンは納得していないようだな」
「親方!!」

 爺さんが手にしたままのカップにそば茶を注ぐ。
 温かなままの茶が出る水筒をしげしげと見つめる爺さんに、無言で水筒を手渡した。爺さんはそれを手にしながら茶を飲み、俺を睨む。なんで睨むんだよ。
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