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1巻

1-8

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「申し遅れました。俺はタケルって言います。旅をしています」
「あらら、これはご丁寧に! あたしはエリザ、この子がユナンでこっちがカイン。御者やってる旦那はポルンだよ」
「よろしく」
「ピュイ」

 いやいやどうもどうもと頭を下げていると、ローブの下から素っ頓狂な鳴き声。

「あら? 何か鳴いた声」
「おかあさん、何か聞こえた」

 子供らは即座に反応してしまう。精霊さんとか妖精さんの悪戯いたずらにしてくれないかな。

「ピュイ~イ」

 黙っていろとはあえて言わなかったが、そこで歌うなバカタレ。

「お兄ちゃん何か持っているの? 生きてるの?」
「そこにいるの? だいじょうぶよ、あたし怖くないわ」
「見せてよ!」
「見せて!」

 そんな気軽に見せられる犬猫ではないのだが、視線だけでエリザに助けを求めると、エリザは困ったように笑う。

「こらこら、兄さんを困らせちゃ駄目だよ」
「だあってー!」
「わがまま言わないの」

 やばい、駄々っ子になりそうだ。
 腹で暢気にしているビーをローブの上から撫でて黙らせる。が、再び歌いだす。

「あのですね、コイツを見せることに何の支障もないですし、むしろ構ってやってほしいくらいなんですが……その、たぶん凄い珍しい生き物だと思うんですよ。ですが危険はないと思います。こうやって暢気に鳴いているくらいなんで」
「随分ともったいぶるねえ。モンスターの子供でも連れているのかい? でも別に珍しいことはないよ? 冒険者がよく連れていることだし」
「そうなんですか?」
「ああ。子供の頃から調教すれば懐くらしいよ」

 俗に言う魔物使いというやつだろうか。
 それならものすごく珍しいということはないか。

「ビー、騒いだり飛んだりするなよ」
「ピュイ!」

 ローブをめくって外に出してやる。三人はビーの姿を見ると目を丸くして驚いていた。

「ええっ? こりゃあたまげた……竜種かい?」
「ブラック・ドラゴンの子供だと思います」

 黒々とした身体は屈強な鱗に守られ、触り心地はぬるんとしてよろしくないが、顔はとても愛くるしい。

「ピューイッピューイッ」

 馬車の中をきょろきょろと見渡し、ふんふんと何かを嗅ぐ。尻尾をふりふり翼をもそもそ、その姿は超巨大なボルさんとは似ても似つかない。

「うわあっ、かわいい! ドラゴンね!」
「ぼく、こんなちいさなドラゴン、はじめて見たー!」
「ねえねえ、撫でていい?」
「尻尾を引っ張ったり身体を叩いたりしなければ、噛みついたりしないから。だよな? ビー」
「ピュイ!」

 元気よく返事をすると、ビーは子供らに撫でられる。尻尾が揺れ気持ち良さそうにしているから大丈夫だろう。

「ドラゴンの子供を育てているってことは、兄さんは竜騎士ドラゴンナイトなのかい?」
「いえ、違います。たまたま拾ったんです」
「ドラゴンの子供を!?」
「卵ですね」
「卵? 卵を、孵化させたのかい!」
「あはは、そうです」
「っはー! そんなこともあるもんなのか」

 竜騎士ドラゴンナイトの言葉に目ざとく反応。やはり異世界、そういった職業もあるのか。ううむ、たぎる。
 エリザの話によれば、竜種はとても警戒心が強く、竜の子供は滅多に見ることができない。人間が入り込むことのできない険しい山や谷に住み、子供が巣立つまで人前には決して現れないという。ドラゴンは国が保護する貴重な動物に指定され、モンスターとは呼ばれない。国によっては神とあがめ、守るべき生き物であるらしい。
 ドキドキの竜騎士ドラゴンナイトだが、騎士の上位職らしく、竜に認められた者しかなれないようだ。そこらへんはよく聞く話だ――ゲームとかで。
 竜騎士ドラゴンナイトが操る竜は竜種では一番小さく、一度相棒と決めた相手には従順に従う。翼竜と言っているから翼竜種のワイバーン?

竜騎士ドラゴンナイトもあまり見ない特別なもんだからね、ドラゴンは更に珍しいんだよ」
「国の中枢に行けば逢えることもあるんですか?」
「そうさね。王様の近衛騎士とも言われているから、軍事パレードなんかではお目にかかれると思うよ」

 ほっほう……
 都心部に行けば、憧れでもないけれどゲームの定番でもある竜騎士ドラゴンナイトに逢えるかもしれないのか。完全に興味がないわけではないから、そのうち逢えたらジロジロ見てやろう。
 それから竜種の生態について調べないとな。古代竜エンシェントドラゴンの細かい生態はわからないかもしれないが、習性とかやってはいけないこととか知っておかないと。調子外れの歌も、直せるものなら直してやりたいし。

「お兄ちゃん、ドラゴンて温かいのね!」
「けっこう柔らかいよ」
「あーん、あたしも抱っこしたい」
「順番にしなさい! ほら!」

 俺が悶々と考えている間も子供らはビーに夢中なようだ。噛みついたり引っかいたりしないようだし、これならトルミ村に帰っても子供らに見せられるな。




 12 魔鉱石は貴重でした


 馬車は順調に進み、道中、警戒の鈴が鳴ることもなかった。
 夜は俺の結界魔石のおかげで誰も見張りをする必要がなかったし、何かあればビーが教えてくれると言ったら安心してくれたようだ。ドラゴンの信用はんぱねぇ。
 世間一般的な野営料理というのもご馳走ちそうになった。
 焚き火で干し肉を温めて薄い塩味のスープをすするという、とても簡単なもの。それでも子供らは、明日には村に着くから今晩は豪勢なのだと喜んでいた。
 早々に空間収納袋アイテムボックスを持っていることを明かし、大きな鍋と肉の塊、スープの素を取り出した。大量に所持している野草、とキノコも取り出していつもの簡単肉スープを作ると、家族は大変喜んでくれた。それこそ旦那のポルンは久しぶりのまともな食事だ、と涙まで見せた。久しぶりにしては随分と肥えた腹してんな。


 独りきりの静かな晩餐ばんさんとは違い、旦那さんがギターのような楽器を奏でると奥さんが歌いだし、その調べに合わせて子供らが踊りだした。ビーも喜んで飛び跳ね、手拍子を打っていた俺も巻き込まれて踊らされた。
 ただ飛び跳ねるだけのよくわからないものだったが、腹の底から笑った。
 この世界に来て、はじめて心から笑うことができた気がする。
 翌朝も何もなく馬車は進む。
 御者台に乗らせてもらい、簡単に馬の操作を教えてもらった。鞭を強く叩く加減がわからず、「ゆっくり歩いてくれ」とか「急ぎ足はできるか?」と馬に問うと、馬はその通りに走ってくれるから面白かった。旦那さんは驚いていたけどな。

「だいぶ世話になったようだね。ありがとうよ、タケル」
「こちらこそ。歩きで帰る手間が省けました。ありがとう」
「とんでもない。アンタを拾って得したのはこっちさ! あたしらはジェロムの店の三軒となりで店を開くからね。アンタも良ければ顔を見せに来ておくれよ」
「もちろんです」

 一家はもともとトルミ村に住んでおり、冬場になるとウルトリアという暖かい地域で過ごすらしい。ウルトリアで大量に作った編み物を売り生計を立て、仕入れた毛糸などを編んで住民が作ってほしいものを作って売るのだとか。
 俺も靴下を一つもらった。かなりでかい足だったというのに、エリザはあっという間にサイズ調整をしてしまった。プロって凄いな。
 さて、久しぶりでもないが四日ぶりの村だ。まずはジェロムに帰還報告をしよう。


「……むううううううううう」

 かれこれ十分は唸っています。
 帰還報告をする前に子供らの洗礼を受け、かなり激しめにブン回してやった。それでもキャイキャイ喜ぶんだから子供はたくましい。俺にしがみ付いていたビーはすぐさま見つかってしまい、今では子供らの玩具……とまではいかないが、おおむね仲良くしてもらっているようだ。
 俺はジェロムに挨拶をして、例の如く採取した素材をカウンターに並べ、まず詫びた。
 ミスリル鉱石がほとんど手に入らなかったからだ。その代わりにと出したのが、ビー球サイズのミスリル魔鉱石。

「もう少し大きなカップはないかな。それからビー用の皿も欲しい」
「ぬううううううう」
「水を入れられるたるって置いてあるか? 酒樽でもいいんだが」
「うううううううううんん」

 ビー球サイズのミスリル魔鉱石を眺め、ずっと唸っている。
 難しい顔をしてビー球を睨みつけているものだから、声をかけづらい。こんなもの持ってくるなと怒鳴られたらどうしよう。

「おい、タケルよ」
「はいっ!」

 突然話しかけられ、条件反射で直立不動になる。

「やべぇモンだぞコイツは。俺もはじめてお目にかかったが、こりゃあきっと……ミスリル鉱石じゃねぇ。色は似ているがな」

 知っています。

「俺が察するに……こいつは………………ミスリル魔鉱石だ」

 なぜか声を潜めてひそひそとささやかれたので、ウン知ってるとは言えなかった。

「どうやって見つけたんだ。こんな……国宝級の……いや、伝説級の代物をよ」
「ええー、そんな貴重なものなんですかー?」

 知っているけど、しらばっくれる。

「ああ、貴重ってだけじゃねぇぞ。こいつはな、強力な魔素の塊のようなもんだ。魔石の数十倍……もしかしたらそれ以上の魔力を込めることができるかもしれねぇ」
「へええ」

 一応驚いたふりをしておこう。

「白樹の森をぶらぶら歩いていて……足で蹴ったら出てきました」
「オイコラふざけんな」
「ふざけてませんって。たまたま見つけたんです」

 古代竜エンシェントドラゴンが住む地底湖の底にありましてねー、と答えても信じてくれないだろうし、もし真実を伝えてボルさんの住処に冒険者が詰めかけるようなことになったら大変だ。
 寝た子を起こすなって言うだろう? 余程の理由がない限り、あの住処のことは秘密にしておく。

「うううううむ……お前の持ってくるモンは何でもかんでも一流だ。薬草も野草もアリクイの糞ですら、俺が今まで鑑定してきた中で随一になる」
「それはどうも」
「だから言うがな、タケルよ。アンタの腕は良すぎる。良すぎてミスリル魔鉱石まで見つけちまった。これは正直やべぇシロモノなんだ」
「はあ」
「これ一つで国全土にある魔石の力を補えるようになる、つったら凄さがわかるかい」
「え!」
「やっとわかったのかよ……」

 いや、ランクSSのレアアイテムだということは理解していた。
 だが、国全土にある魔石に匹敵する? なんて想像できるわけがない。なんかよくわからんが凄い、としか。
 それじゃあ鞄に入っている最大サイズなんて、一体どのくらいの価値に……

「魔鉱石、しかもミスリルの魔鉱石ならそんくらい力を発揮してもおかしくねぇってことだ」
「はー……凄いですね」
「凄いんデスヨ」

 ボルさん、とんでもないものよこしたな。

「お前は腕はいいんだろうが何か危なっかしいな。常識ってぇもんを知らなすぎる」
「言ったでしょう、超ド田舎から来たって」
「そらあわかっているが、これから他も巡ってみるんだろう? だったらもっといろんなことを知らないとならねぇ」
「はい」

 ですが、この村には学校も図書館もないんです。

「そこでだ。アンタはベルカイムに行きな」
「ベルカイムですか。ちょっと離れたところにある町のことですね」
「ああ。この村の何十倍もでかい町だからよ、王都の情報も入るしギルドもある。アンタの腕だったら食うに困らねぇだろうし、常識も学べるはずだ」
「行ってみようとは思っていたんです」
「そうだな。急ぐことはねぇが、行くべきだ。アンタの腕は惜しいが、なあに、名を挙げてこの村を宣伝してくれりゃあ、この村も発展するだろうよ」

 名を挙げるつもりはないが、トルミの村がとても住み心地がよい村だということは教えたい。風呂がないのが最大の難点。
 あと数日滞在したらベルカイムを目指そう。

「この魔鉱石は危なっかしくて持っていられねぇから返す。オメェも持っていることをバレねぇように気をつけるんだぜ」
「わかりました。ええと……それだったらですね」

 俺は村の近くにある林の奥で見つけた白骨死体のことを相談した。
 死後数ヶ月が経過していること。モンスターなどに襲われた跡があること。所持品がいくつかあったのでまず持ってきたこと。
 それから、遺体のそばに転がっていたミスリル鉱石を取り出して見せた。
 ジェロムはミスリル鉱石に目を奪われつつも、共に自警団の詰め所に行くことを勧め、同行してくれた。
 自警団では、そういった遺体の報告はさほど珍しくないらしい。
 後日、遺体の場所まで案内して、彼の所属がベルカイムにあることを伝えた。
 正直に所持品とミスリル鉱石のことを報告したら、所持品は所属元に届けてほしいと頼まれ、ベルカイムに行くついでだと言ってその依頼を受けることとした。銀貨数枚の依頼だったが、金は受け取らなかった。野暮やぼってもんだしな。
 ミスリル鉱石は遺品かどうか判断がつかなかったため、見つけた者がもらえばいいと言われ、そのままジェロムに横流ししたらジェロムは飛びはねてキャイキャイ喜んだ。まったく可愛くはないが喜んでもらえて何より。
 大量の素材も全部買ってくれたし、報酬ももらった。
 これで俺の所持金は80万レイブを突破し、しばらくは遊んで暮らせるほどになった。
 ともすれば俺の所持金は、日本円の価値で大体800万を超えているわけで……前世で必死に貯めた貯金額を数日で稼いでしまったわけだ。なんか微妙。すごい微妙。
 ビーはドラゴンながらも村の皆にアッサリと受け入れられ、子供らと泥だらけになって遊び回っている。中にはしっかりしたお姉さんタイプの子供もいて、ビーが調子に乗って悪さをしたらきちんと叱りつけてくれていた。素晴らしい。
 再び宿に泊まることになった俺は、調理人であるご主人に頼んでスープの素のアレンジを頼んだ。対価は大量の野草とキノコだ。ついでにロックファルコンの解体を頼み、その肉の半分を提供。これもまた大喜びされた。
 こちらこそ、いろいろな風味のスープの素をいただけた。米はあるかと問えば、都心部でしか流通していないらしく、しかも家畜の餌だと言われ断念。家畜の餌だろうが何だろうが、いつか米を食べてやる。
 こうして数日が過ぎ、俺が旅立つ日がやってきた。




 13 ご馳走はかにです


 わずか半月ほどの滞在だったにもかかわらず、旅のでかい男は思いのほか村の皆に受け入れられていたようだ。
 旅支度を済ませて村の門へ行くと、見知った顔や知らない顔が数十人も集まっていた。

「道中、気をつけてな」
「ビーちゃんまた来てね」
「絶対に戻ってきておくれよ!」
「お兄ちゃん、行かないでぇぇ」

 得体の知れない旅の男にここまで良くしてくれる村が他にあるのだろうか。俺が村を去ることを涙して惜しんでくれる人など、他にいるのだろうか。
 子供らは俺のローブにしがみ付いて放そうとしないし、エリザとポルンは目頭を熱くしている。宿屋の女将さん、旦那さん、エリィちゃんも涙を見せていた。ジェロムは……おっさんの号泣なんて見たくないんだけどな。

「世界を旅して、きっとこの村に帰ってきます。この国での俺の故郷はこのトルミ村です」
「ピュイピュイ」
「皆さん、本当にお世話になりました。ありがとうございます」

 深々と頭を下げると、子供らは放すものかと一斉に背中にまで飛び乗ってくる。遊んでる場合じゃないというのに、振りほどけないのも困るな。
 残っていた飴玉を瓶ごとくれてやっても、しがみ付いた手を放そうとしなかった。俺まで泣けてくる。
 いや、泣いている場合じゃない。

「マーロウさん、これをもらってください」
「うん? なんだい、これ」

 鞄から取り出したのは、小さなランプ。
 ジェロムの店で買ったものに手を加えたものだ。
 俺は手先は器用ではないが、魔法なら得意。加工ビアス魔法でちょちょいっとイメージ通りに作り上げたのは、とある魔道具マジックアイテムである。アラジンのランプに似てしまったのは秘密。

「自作なんですけど、魔道具マジックアイテムです」
「ほほう! お前さん、こんなものまで作れるのか。これは一体どんな魔道具マジックアイテムなんだ?」

 宿で夜なべ……はしていないけど、数日試行錯誤して作り上げた。作り方なんてわからなかったが、要は魔石に魔法を込めてどういう効果ができるか考えて作ればいいんだろう? そんな感じで実際にやってみたらできた。
 実は、ミスリル魔鉱石を利用して、強固な結界バリア効果のある魔道具マジックアイテムを作ったのだ。
 いくらこの村が平穏だといっても、いつモンスターや山賊やらが襲ってくるかわからない。俺にとっては故郷のような村が壊滅するようなことになったら、俺は生涯己を責め続けるだろう。
 そういう危機を回避するためにも、この魔道具マジックアイテムなのです。

「これは結界バリア効果がある魔道具マジックアイテムです。村に悪意あるもの、害を成そうとするものを警戒、完全に侵入させない効果があります」
「へえええ!」
「そりゃすごいね」

 少しだけドヤッとすると、村人たちは素直に感心してくれた。

「おまけに警戒アラートの効果もありますので、結界バリアが展開される前に大きな音で鳴り響きます。ポルンさんが持っている警戒の鈴みたいなものです」

 あれを参考にして警戒警報発令後に結界を張るようにしてみた。いきなり結界が張られたら何事かと驚くだろうし。

「そんな大層なものをいいのかい? アタシらは何もあげられないよ?」
「皆さんに良くしていただいた気持ちです。俺が帰ってくるまで無事でいてください、というお願いもありますからね」

 恥ずかしいことを言ってしまったと、頬をぽりぽりとかくと皆笑ってくれた。
 そうだ、別れるときは涙より笑顔がいい。なんつってな。
 魔道具マジックアイテムを手にしてジロジロと吟味していたジェロムの目が見開き、何かに気づいたらしくアッと口を開けるのと同時に回れ右をする俺。
 今更いらないとかなんてことしたとか説教されたくないし、返されても困る。
 ミスリル魔鉱石がどれだけ貴重なものでも、実際に使えるのなら利用しないのは損だ。それが何億もする価値があるとしても、惜しくない。

「それじゃあ、皆元気で」
「ピュイッピュー」

 また逢いましょうと別れた。


 + + + + +


 タケルも村人も、さらりと流した魔道具マジックアイテム
 これは、ジェロムが説教したくなるのも仕方がない代物だった。
 貴重なレアアイテムであるミスリル魔鉱石を利用した結界。普通それは大国で用いられるような品であり、作るには数年も数十年も年月を費やさねばならない。おまけに一流以上の熟練した魔技師や魔導士らが数十人は必要とされる。
 それをタケルは、村の宿屋でたった数日でホホイと作り出してしまった。更に知らないとはいえ無償で差し出した。
 そのことの異常さに薄々気づいているジェロムはタケルをとがめようとした。だが、これも世間知らずのタケルの厚意だと受け止めて、村の利益を優先することとしたのだった。


 + + + + +


 トルミの村からのんびりと歩いて三日目。野を越え山越えスキップ無双を繰り返し、森を抜けて今は、田園風景が広がっている。
 どこかに集落があるかもしれないと、街道を歩いている最中。トルミ村から俺の移動速度で一日半の距離になった頃。


 モンスターが あらわれた!


「きょだいな蟹が あらわれた! ってか、川も海もないってのに」
「ピュイッ!」

 ビーの警戒は日々研ぎ澄まされている。俺も探査サーチ応用で警戒することはできるのだが、ビーほど高性能ではない。今では警戒は全てビー任せにしている。
 どこに潜んでいたかわからない大型の蟹を蹴飛ばし、仰向けになったところをユグドラシルの杖で突き刺す。この杖、見かけはただの木の棒なのにめちゃくちゃ硬くて軽いのです。今では俺の大切な武器。

「ピュイイイイィィ!!」

 ビーの特技の一つ、超音波振動。
 甲高いビーの鳴き声は向かってくるモンスターを瞬間的に行動不能に陥らせ、その隙に俺が殴って蹴って引っぱたいてしっぺして応戦。そしてユグドラシルの杖でぶっ叩いて突き刺してゴルフクラブの代わりにしてホームラン。たまにものすごいファールも飛び出すのはご愛嬌。
 決して見られた戦闘ではないと思うが、自衛にかっこつけとか必要ない。今夜は蟹鍋にしてやんぞこの野郎!

「気をつけろビー!」
「ピュイ!」
「アイツの表皮は岩でできているな。どれだけ頑丈かはわからないが……」

 杖を両手に持って標的確認。

シールド展開、調査スキャンで捕捉、対象物に防御力低下ガードダウン雷撃サンダーボルト展開・待機」

 杖のおかげか俺が慣れたのか、呪文の詠唱とひらめきが早くなった。前世では絶対にこんな素早い対応はできなかった。臨機応変りんきおうへんというレベルじゃない。
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