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1巻

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 日が暮れる前に野営の準備だ。
 街道から死角になっている場所を見つけ、その場を踏みしめる。鞄の中から敷布と鍋を取り出す。スープの素になる調味料を鍋の湯で溶かし、切った肉を入れれば簡単肉スープのでき上がりだ。道すがら引っこ抜いた野草も入れれば色鮮やかになった。
 ちなみに鍋の水は、魔素を凝縮して作り出した魔石で温めた。ものを温める効果の出る石を意識したらできた。意外と簡単だったが、魔石は貴重だとマニュアルブックに記載されていたのが気になる。簡単に作れるのに。
 結界の効果が出る魔石を四つ、四隅に置く。

「発動」

 そう唱えると、ドーム状にうっすらとガラスの膜のようなものが作られた。よしよし、イメージ通りに作れたな。
 温める効果の魔石は、温度を一定に保つように作ったので、鍋が噴き出すことはない。くつくつと美味そうに煮込まれたスープが食欲を誘う。
 ずっと一人暮らしをしてきたから料理は得意。今回は簡単な肉スープだったが、次はもっと手を加えてもいいな。探査サーチ先生は調味料になるものも教えてくれるだろう。

「いただきます」

 手を合わせて今日の糧に感謝する。
 肉スープは簡単に作れてそこそこ美味い。肉のダシにコンソメのような味がたまらなく合う。スープの素が美味いんだな。そこらで引っこ抜いた野草もシャキシャキとした歯ごたえがたまらない。
 ついでに宿屋の特製弁当も一つ食ってしまうと空腹は落ち着いた。まだまだ食えるが、自重じちょうしておこう。
 暑さ寒さは感じなかったが、毛布をかぶる。
 満天の星空を眺めながら全身に清潔クリーンを唱え、歯すらつるつるになっていることに苦く笑った。
 こりゃ、科学が発展しないわけだ。魔法が便利すぎる。
 全てを頼りきらないようにしないと、究極のぐうたら人間のでき上がりだな。面倒だから眠ったまま移動とかしそうな気がする。
 朝はきちんと起きて、支度をして、足で歩こう。メタボにもなりたくないから、自分でできることはなるべくやらないと。


 翌日、土星な太陽がすっかりと昇ってから目覚めた。
 目の前に広がる白樹の森は、白樺しらかばの森だった。
 幹の白い巨木が鬱蒼うっそうと生い茂り天高くそびえ立っている。おかげで青緑の葉が空を隠し、朝だというのにめちゃくちゃ薄暗い。ぶっちゃけ、こんな森に入りたくありません。富士の樹海の比じゃないぞこれ。
 ミスリル鉱石の採掘できる場所と言っていたが、森というよりは山。全体的に白い木がどこまでも生えていて、どれくらいの規模なのかわからなかった。
 地図ではここから真っすぐ東に進み、峡谷に出る。その近くで、ミスリル鉱石が採れるらしい。
 そういう金になりそうな鉱石が採取できる場所は国とか領とかが管理しているものだが、ここは別名『古代竜エンシェントドラゴンの森』とも呼ばれ、モンスターが跋扈ばっこする危険地帯なのだとか。
 ……そんな場所によく行かせたな、あのおっさん。
 でもドラゴンとか……ちょっとたぎるじゃねぇか……
 ランクA冒険者とかならばモンスターにおくれを取ることはないだろうが、それだけの腕を持った採取専門家はまずいない。採取家ってのは採取が専門で、戦うことは専門じゃないんだよ。
 ミスリル鉱石は貴重な素材。見つけられるのは知識と経験がある者のみ。よって冒険者にも採取家にも避けられがちなこの森は、命を懸ければ一攫千金いっかくせんきんも夢じゃないんじゃない? 死んでも知らないけどね、程度で放置されている。
 それだけミスリル鉱石が貴重だということだ。ゲームではけっこう序盤で手に入る武器だったりすることもあるが、ここでは違うのだろう。
 さて、採取に向かいますか。




 7 地底湖発見


灯光ライト

 ぼんやりとほのかに光る玉が辺りを照らし出す。
 たどり着いた森の中は真っ暗だった。漆黒の闇というわけではないが、足元が影で見えにくいうえ地面は泥土と化し歩きにくい。湿気もものすごくてジメジメしている。
 よし、ランクCからの素材探査開始。
 鉱石の反応は多くない。
 が、採取したことのない薬草や野草だらけだったので、ある程度は採取。ランクFからの状態のいい食用のキノコや山菜を優先的に採りつつ、ここにもあるアリクイのうんこを忘れず。
 何か飛び出してきそうな雰囲気はあるが、鳥の鳴き声すらしない。台所用包丁を片手に慎重に歩き続けながら警戒しているけども、何かが動く影もなければ物音も聞こえない。すると人間はみるみる緊張感を失い鼻歌なんか歌っちゃう。
 獰猛なモンスターがいると噂を流し、実は誰かが利益を独占していたりするっていうオチじゃないだろうな。
 ……と、思ったらまた白骨死体発見。こんなの発見したくねぇわ。
 これもまた頭がもげたり足がちぎれていたりする死体。
 モンスターがいるんだろうけど、見かけないというのが気になる。いなければいないでいいんだけど、それはそれで気になる。
 しかし、気にしたところで既に危険地帯に突入しているわけで。

「んーーーーと、探査サーチの応用でモンスター感知が……できたりすると……いいんだけどな~」

 ピコン。

 はい、キタコレ探査サーチ先生! あなたを尊敬します!
 モンスターらしき動く黒い点滅が!!
 ……ものっすごく遠巻きに、円状に囲んでます?
 動いているからきっとモンスターとか動物なんだろうけど、なんで遠巻きなんだ。おまけに少し歩くと更に点々が遠ざかる。
 俺が怖いのか? そんなわけないよな。
 ……俺、ものすごく臭いとか? 最兵器なのか? いやまさか!
 まあいっか。今すぐ襲われないというならそれでいい。先を急ごう。
 足元のぬかるみにはまらないよう、ランニングしながら丘を登る。傾斜角度はけっこうあるが、強靭きょうじんすぎる俺の足腰は全くこたえない。調子に乗ってまたもやスキップ無双をすると、深い渓谷に着いた。オイオイ一日かからず着いちゃったよ……

「これが黒竜渓谷か。うん、谷底真っ暗でなんも見えねぇ」

 その昔、世界最強の竜が住処すみかにしていたという神聖な場所。らしい。
 この世界で竜種は多種存在しているらしいが、『古代竜エンシェントドラゴン』と呼ばれる種は世界に四匹しか存在しないと言われている。その姿を見た者がはっきりしないため、伝説上の生き物として神聖視され、古代竜をたてまつる種族や国も存在。
 竜とか……ものすごくたぎるな。
 どんな姿かたちをしているのだろう。どんなもんなのか見てみたいが、命のほうが大切。触らぬ神にナントヤラだ。
 がけづたいに下へと降りるわずかな階段らしきものを発見した。階段と呼べるほどしっかりした造りではないが、大昔に階段として利用していたのではないか、という配置。これが自然にできたものとは考えにくい。
 探査サーチを展開すると、岩の壁一面に白点滅。
 鞄の中から雑貨屋で購入した小型ツルハシを出し、適当にカンカンと叩いていく。あまり力を込めなくてもぼろぼろと岩壁が崩れるから掘りやすい。

「これは銀鉱石か」

 ミスリルほど価値はないが、鉄鉱石よりは高価。主に装飾目的で使われるらしい。武器の飾りとか、アクセサリーとか。
 足元に気をつけつつ下に降り、降りながらも岩壁をカンカンと叩いて採取。
 ミスリル鉱石はなかなか見つからない。それでも銀鉱石の塊が六つと鉄鉱石が十個も採取できた。


 ゴオオオオォォ。


 急に地響きのような低い低い音が聞こえた。
 わずかに揺れる壁。震度2くらいかな、と思いつつ採取を続ける。地震くらいでうろたえていたら日本人はやっていられない。
 更に下へ下へと降りていくと、すとんとした岩壁に少しだけでっぱりがあった。そこで小休憩する。弁当を食べつつ、崖の下をのぞく。相変わらず底が見えない。どれだけ深い渓谷であろうと、いつかはマグマにぶち当たると思うのだが、それもあるようには思えない。こんな光景、地球じゃ見られないかもしれない。見られたとしても観光客でいっぱいだろう。

「高所恐怖症じゃなくて良かった」

 これもある意味で恐怖耐性、というものの恩恵なのだろう。
 独りで考え独りで納得し、探査開始。
 手元が暗くなってきたので、灯光ライトを三つに増やして降りていく。ミスリル鉱石を強く思って探査サーチをかけたら、ぼんやりとした光が岩壁の向こうから反応。これ、深く掘らないと出てこないんじゃないか。


 グオオオォォ。


 また地震だ。このへんに活火山があるとも思えないし、大陸プレート的なアレが元気に動いているのだろう。星が生きている証拠。
 命の危険を全く感じなかったので岩壁に向かって剛炎フランを展開。
 壁にぶつかるのと同時に爆発するよう意識を込めると、その通りに爆発して岩壁をえぐり取った。自身には結界バリアを展開していたので無傷。鉱石採取ということで多少は爆破系も使うかもしれないと練習しておいて良かった。道すがら爆破した岩の数々ありがとう。
 順調に岩壁を爆破していくと、急にぼかんと空間ができた。その空間は洞窟のように奥へ奥へと続いている。
 ダンジョン的なにおいがする! と、内心興奮しながら灯光ライトの光を強くして中を照らした。どうして何もない岩壁からこんな空間ができるんだ? と思いつつ、大昔の鉱山なのかもしれないと洞窟らしきものに入ることにした。
 探査サーチの応用で来た道はわかるし、道に迷うことはない。危険なモンスターにいつでも対処できるよう、片手にツルハシ片手に短剣の珍妙な格好で進んだ。
 でかい俺の身長より更に頭一つ分高い天井。
 人工的なのか自然発生なのかはわからないが、空気は濁っていないし湿気も酷くない。妙にカラッとした空気で呼吸がしやすかった。


 グオオオオオォ。


 音が近くなった。
 地響きも強くなっている。
 地震発生装置でもあるのか? ……誰が作ったんだそんなもの。風の音なのかもしれないな。この音にビビッてたたりだ化け物だと慌てて道に迷って死んでしまう、ってのがお決まりだったりするんだろう。雨が降るのすらカミサマのおかげと思っていた時代に生きていたら、きっと俺もこんなところに入ろうなどと思いもしなかったはずだ。
 探査サーチをかけると、わずかにミスリル鉱石を発見。ようやく少しだけ採掘できた。小指の先ほどの小さな塊が数個のみ。これだけでも価値はあるはずだが、どうせならジェロムにドヤ顔したい。
 奥に進んでいくと道幅が広くなり、天井もどんどん高くなっていった。時々見つける白骨死体に嫌気が差しながらも進み、ひらけた場所に出る。
 開けた場所、なんてもんじゃない。これは巨大な空間だ。
 光をもっと強くして遠くに飛ばすと、ドーム上の天井に深い底。
 底は地底湖。
 澄んだ青い水が広がっていた。

「すっげぇ……」

 小さく呟いたのに、声がどこまでも響いた。
 あの白樹の森の下にこんな地底湖があるだなんて。
 下に降りてあの水を触ってみたい。飲めるなら水筒に入れて持って帰りたい。だが、ここは底まで数十メートルもある高さ。
 持ってきたロープじゃ足りないだろうし、降りられたとしても帰りはどうしようとウンウン考え――

「困ったときの魔法か。ええと、身体を軽くすればいいのか? 落ちても死なないように……うーんうーん……飛ぶ? 飛べるのか? …………ううううむ、飛翔フライか!!」

 考えた末に思いついた空をかける魔法。
 己の身体を軽量化し、風を操って下に降りればいいんだろうと呪文を唱えた瞬間、身体が軽くなった気がした。そのまま恐る恐る飛ぼうとすると、身体がふわりと浮き上がる。これは凄いと興奮しつつ、ゆっくりゆっくりと下を目指す。
 そのうち自由に空を飛べるよう研究しよう。しかし集中力はんぱないな、これ。少しでも気を抜くとガクンと一気に落ちそうになる。
 灯光ライトとともに下に降りると、この空間の広さが更にとてつもないとわかった。
 写真があったら数百枚もデータに残すんだろうなと思いつつ、湖のそばまで来る。光で照らすととんでもない透明度だった。
 どこまでも透明で深い深い底。一切濁っていない水。
 このまま汚れた手を入れたら生態系が狂うかもしれない。この綺麗な水が汚れてしまうのが嫌で両手に清潔クリーンをかけた。
 実は強酸だったら怖いので、調査スキャン先生に聞いてみる。


【地底の魔素水 ランクSS】
 古代竜の住処である地底湖の水。長年古代竜から溢れ出す魔素が溶け込み、高濃度・高純度の魔素水と化している。飲むことも可能であるが、魔素が濃すぎるため魔素中毒症を起こしやすいので注意。
[備考]タケル・カミシロは飲料可能。疲労回復にもなる。


 ランクSS!?
 今まで調査した中で一番の大物じゃないか!
 SSってあれだよな。伝説級とか幻とか言われているやつだよな。
 ただの水じゃないのかよこれ! 道理で綺麗すぎると思った……魔素水? 魔素が溶け込んだ、ってことは魔石みたいなもんか。魔力の塊じゃなくて液体。
 古代竜の魔素が溶け込んだということは、大昔はこの地底湖に古代竜が住んでいたってことなのか。


 ――我を眠りから覚ますものは たれぞ。


 竜って両生類? 哺乳類ほにゅうるい? 卵から孵化ふかするイメージがあるんだが、水の中でどれだけ息が持つんだ。
 いや、それはどうでもいい。それよりこの水、持って帰りたいな。何に使えるのかはわからないが、少なくとも俺の疲労回復には役立つ。


 ――ううむ ヒトではないな ぬしは なにものだ。


「水袋×10」の水を全部捨てるのは惜しい……この水は宿屋のエリィちゃんが必死こいて井戸から汲んでくれた貴重な水だ。一袋はほぼ空だからそれに入れるとしても、もっと持って帰りたい。なんせSSだ。


 ――ぬしに 聞いておるのだ ぬしは なにものだ。


 水袋の水をここで飲めばいいのか! ……一袋に大体二リットルくらい入っているとして、合計で……駄目だ、いくら俺が大食漢でも水でお腹たぷたぷになっちゃう。


 ――聞いておるのだ 答えろ。


 まさかこんな貴重な水を発見するとはなあ。まず味見してもいいかな。どんな味をしているのか……


 ぶちっ。


 ――我の話を 聞け!!


 グガアアアアァァァッ!! と、突如地底湖から現れた巨大な黒い何か。
 爆風に俺の身体は吹き飛ばされ、ごろごろと転がる。
 岩に頭を強く打ちつけ、これは痛いと静かに悶絶していると。


 きょだいな ドラゴンが あらわれた!




 8 ボルさん


 漆黒の身体に黄金色の瞳がぎらぎらと光り、白い牙がぐわりと剥く。
 ごつごつとした肌はうろこには見えず、鉄鉱石のように思えた。
 恐竜博物館で見たレプリカのティラノサウルスの数倍、数十倍も大きく見える。その威圧感たるや、身体全体がビリビリと痺れ、全身の毛が逆立った。うなじがゾワゾワする。

 ――ふううううぅむ 我の威圧に 耐えたか。

 低く低く響く声。
 口がぱくぱく開いているわけではないので、念話テレパシーなのだろう。脳内に直接語りかけてくるようで気持ちが悪い。

「ご自宅だとは思わず、不法侵入をしてしまい申し訳ありません」

 痛む頭をさすりつつ、居住まいを正して深く頭を下げた。
 こういう場合は素直に謝る。
 この世界に来てから感じたことのなかった恐怖を覚えた。腰が抜けるとか漏らすとか、そこまで訳わかんなくなる恐怖ではないけど。

 ――ふ ふふ 肝の据わった 者よのう。

 おおお、笑った笑った。
 その笑い声も響くからちょっと加減してほしい。

 ――この地が 古代竜の住処と 知ってのことか。

「いえ全然これっぽっちも知りませんでした。確かに古代竜エンシェントドラゴンの森、と呼ばれているときもあったそうですが、ずっとずっと大昔のことだと伺っております」

 力のある者にはぺこぺことへりくだってしまうのが、社会人の悲しい性質さが
 ――ぬしは なんだ。

「ぬし? ぬし? ……ああ、お主、貴方ってことですね! はいはいはい! 俺、いや自分の名前は神城タケルと申します。タケル・カミシロですかね! 一応、人間です!」

 黒い巨大な何かは黄金の瞳でぎらぎらと睨みつけてくる。こわい。

 ――うぅむ ヒトか。

「たぶん人間です」

 規格外かもしれないけど、種族的には人間かと。

 ――溢れんばかりの 強大な魔力を感じた ゆえに われは目覚めてしまった。

「強大な魔力ですか? はぁー……何でしょうね?」

 ――うつけか ぬしは。

「うつけ? ……うつけって、バカってことですか? えええー」

 初対面の相手にバカって。

「知らないことをわからないと答えるのは、愚かなことではないんですよ」

 ――ぬう?

「……はいすみません生意気なこと言いました」

 しかし、わからないものはわからない。
 強大な魔力って何のことだ。

 ――ふ ふふふ ははっ ははは!

 いやいや笑わないでください怖い怖い!
 振動が! 震度3! いや震度4かこれ!

 ――いやいや すまぬな タケルよ わからぬことは愚かなことではない そのとおりだな。

「申し訳ありません」

 ――構わぬ 我が見るに ぬしは 常世とこよのものでも うつせのものでもない。

「ちょっと特殊な生まれ方をしました」

 管理者にアッチの宇宙からコッチの宇宙に飛ばされました。
 と、言ってもわからないだろうな。

 ――ううむ ぬしが何者なのか わからぬが 我を目覚めさせるほどの ちからがある。

「この光、まぶしかったんですか? それは失礼しました」

 灯光ライトの威力を少し落とし、眩しくないようオレンジ発光に変える。
 目に優しいダイニング仕様だ。

 ――ふううううむ ぬしの魔力が 我に匹敵すると 言うておるのだ。

「魔力? ええーと……なんかよくわからないんですけど、疲れにくいです」

 ――それだけではあるまいて。

「魔法が使えます」

 ――ぬしは ヒトなのか。

「一応……?」

 この世界の誰かと何かを比べることはできないし、魔力があると言われても実感はない。それこそ疲れにくいだけだ。
 飯は食うし出すもんは出す。背はでかいが、人間だよな?

 ――ふふ ふふふ ぬしが何者でも構わぬ 数千と生きてきたが ぬしのようなものと はじめてうたわ。

 この黒いでっかいのは、つまり古代竜エンシェントドラゴンさん、ってことでいいのか。
 ゲームに出てきそうないかにもな姿かたちで、いいえ馬です、と言われても信じないからな。

「起こしてしまって申し訳ありませんでした」

 ――構わぬ むしろ ぬしと出逢えたことに 喜びを覚える。

「えーーと、失礼ですが、貴方様のお名前をお伺いしても……というか、もしかして古代竜エンシェントドラゴンさんですか?」

 ――いかにも。

 おおおおお!! やっぱりドラゴンだった!
 これが伝説上の生き物! 雄々おおしいというか、神々しささえ感じられるな!

 ――むふ。

 俺が満面の笑みで興奮していると、古代竜エンシェントドラゴンは満更でもなさそうに胸を張った。

「ドラゴンというか竜種というか、モンスター? いえ失礼しました、人間以外の種族を見たのははじめてなんです! 中でもドラゴンは凄い憧れていまして!」

 ――むふんむふん 当然であろう ぬしの魔力が膨大すぎて 下等な生き物は 近寄ることすらできまい。
 んっ?

「え? 下等な生き物って?」

 ――知能を 持たぬ 生き物である。

「………………それって、俗に言うモンスターとか動物、とか言います?」

 ――左様さよう

 興奮が一気に冷める。
 俺の魔力が膨大、つまり強くてモンスターが近寄って来ない、と?

 ――魔力は 強すぎても 毒となるのだ ぬしは気づかぬかもしれぬが この場所は 長年我の魔素を 溜め込み 高密度の魔素が 流れておる。

「高密度の魔素のおかげで、魔素水……この地底湖もできたんですか」

 ――左様 強すぎる魔素は 毒となり 死に至る。

 え゛っ。

 ――ぬしは 死なぬ 安心せい。

「ああよかった!」

 ――ぬし自体が 高密度の魔力の塊である。

 え゛っ。

「……古代竜エンシェントドラゴンさんちょっと質問よろしいでしょうか」

 ――我は ヴォルディアス。

「ぼ、ぼ、ぼるで、ぼるであ…………ボルさんでよろしいですか」

 ――構わぬ。

 古代竜エンシェントドラゴンのヴォルディアスは呆れたように俺をじっとり睨む。もう免疫ができてしまったのか、怖く感じることはなくなった。全身の鳥肌も収まった。

「俺の魔力が強くてモンスターとか動物が寄ってこないんですよね」

 ――左様。

「……俺はいろいろな素材を集めて売る、素材採取っていうのを仕事にしたいと思っているんですよ。なので、モンスターの素材や肉を採取することもあると思うんです」

 ――うむ。

「ですから、これから先もモンスターやらに逃げられてしまっては困るんですね」

 危険なことがないのは良いことだが、肉が食いたいときに動物を狩れなかったら大変だ。

「どうしましょう」

 ――我は ぬしの願いを 叶えることは できぬ。

「そうですか……」

 ダダ漏れしている魔力を抑える方法とかないかな。かといって魔力を少なくされたら困ることが多いだろうし。そもそも意識していないものを抑えろと言われてもなあ。

 ――タケルよ。

「はい」

 ――ぬしの力を 貸してもらいたい。

「はい?」

 ――ぬしの純粋な力で 我のを よみがえらせることが できるかも しれぬのだ。
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