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あなたのかおり
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行儀悪く寝そべったまま一寿のお腹から顔だけ上げた桂が「へっ? 」と言った後、一瞬で首まで真っ赤になって絶句している。
べったりと抱き合ったままの身体からは、もとから高かった体温がまた更に上がったのが分かって一寿もドキドキする。
「セ、セ、セックス、とかカズさんの口から出ると、う、心臓が痛い!!! 」
ぱくぱくと金魚のように口を忙しなく開け閉めした後、縁側になぜか正座した桂は、胸を押さえて呻いている。
これは、ありとなしならどっちの反応だろうか。ふむと顎に手をやり考え込む一寿に、ようやく動揺をおさめた桂が、おずおずと尋ねてきた。
「あのさ、逆にきくけどカズさんは、そゆこと平気で聞けちゃう感じで、経験豊富だったり、するの? 」
上目遣いの桂は神妙な顔をしていた。
年上の一寿なら経験があって然るべしと思いつつも、想像するとものすごく胸の奥がイガイガするからだ。
「いや、多分このままなら、おそらく俺は童貞処女のまま魔法使いになると思うが」
ーー いや、それもどうなのーっ?!
赤裸々過ぎる告白に赤面のあまり突っ伏した桂は声もなく悶えている。
「桂には正直に伝えるのが俺の誠意のつもりなのだが…… 」
珍しく言い淀む一寿に、あ、これはちゃんと聞こうと縁側に座り直した桂は、膝を揃えて改めて向き合う。
そうやって目を合わせた一寿は真剣な顔をしていた。
「きちんと検査したわけじゃないんだが」
「うん」
「俺は多分、アセクシャルという奴だと思っている」
初恋もまだだし、なにより生身の人間に性的に興奮を感じないようだ。
どこか頼りない様子で、桂から目を逸らした一寿が申しわけなさそうに告げる。
「だから、桂がそういう意味を望んでいるとしたら、俺は答えられないと思う」
ーー βだし。
その一言を伝えたとたん、熱い体に力一杯抱きしめられた。合わせた胸からは桂の早い鼓動が直接伝わってくる。百合の香りが包み込まれるように強くなった。
「ごめん、ごめんねカズさんにそんな事言わせて」
ーー βだから駄目だなんて
「言ったら嫌だよお」
肩が温かく湿っている。
泣かせてしまったとい後悔が腹の奥に鈍い痛みを呼び、一寿の瞳からも、ぽろりと一粒涙が落ちていた。
「どうなりたいかって聞かれると、俺もよくわかんない」
抱きしめる腕を少しも緩めず、一寿の肩に顔を埋めたまま桂が告げる。
「カズさんの匂いが好き。桜の花みたいに優しい匂い、ずっと嗅いでいたい。俺にとって、初めて心地いい他人の匂いがカズさんだったんだ。初めてなんだよ、こんな気持ち」
カズさんカズさんと呼びながら、首筋に鼻を擦り付けてくる桂の熱い背中に腕を回す。
「俺もフェロモンがわからないΩだから、他人に発情した事ないんだよ。だから、セッ、セックスしたいかどうかなんて、よくわかんないよ」
そうか、分かんないのか。
分からないなら出来なくても桂は一寿といてくれるだろうか。
熱い体に一寿から頬を寄せてみる。びくりと桂が反応した後、また抱き寄せる力が強くなった。必死ですがり付いてくる、今はその腕をとても嬉しいと思う。
「わかんない、なら、一緒に考えるか」
うん、と返ってきた答えに腹の底から安堵している。
自分にとっての桂が、手放したくないと泣きたくなる位に、大切になっている事を、一寿はこの時改めて思い知らされたのだった。
べったりと抱き合ったままの身体からは、もとから高かった体温がまた更に上がったのが分かって一寿もドキドキする。
「セ、セ、セックス、とかカズさんの口から出ると、う、心臓が痛い!!! 」
ぱくぱくと金魚のように口を忙しなく開け閉めした後、縁側になぜか正座した桂は、胸を押さえて呻いている。
これは、ありとなしならどっちの反応だろうか。ふむと顎に手をやり考え込む一寿に、ようやく動揺をおさめた桂が、おずおずと尋ねてきた。
「あのさ、逆にきくけどカズさんは、そゆこと平気で聞けちゃう感じで、経験豊富だったり、するの? 」
上目遣いの桂は神妙な顔をしていた。
年上の一寿なら経験があって然るべしと思いつつも、想像するとものすごく胸の奥がイガイガするからだ。
「いや、多分このままなら、おそらく俺は童貞処女のまま魔法使いになると思うが」
ーー いや、それもどうなのーっ?!
赤裸々過ぎる告白に赤面のあまり突っ伏した桂は声もなく悶えている。
「桂には正直に伝えるのが俺の誠意のつもりなのだが…… 」
珍しく言い淀む一寿に、あ、これはちゃんと聞こうと縁側に座り直した桂は、膝を揃えて改めて向き合う。
そうやって目を合わせた一寿は真剣な顔をしていた。
「きちんと検査したわけじゃないんだが」
「うん」
「俺は多分、アセクシャルという奴だと思っている」
初恋もまだだし、なにより生身の人間に性的に興奮を感じないようだ。
どこか頼りない様子で、桂から目を逸らした一寿が申しわけなさそうに告げる。
「だから、桂がそういう意味を望んでいるとしたら、俺は答えられないと思う」
ーー βだし。
その一言を伝えたとたん、熱い体に力一杯抱きしめられた。合わせた胸からは桂の早い鼓動が直接伝わってくる。百合の香りが包み込まれるように強くなった。
「ごめん、ごめんねカズさんにそんな事言わせて」
ーー βだから駄目だなんて
「言ったら嫌だよお」
肩が温かく湿っている。
泣かせてしまったとい後悔が腹の奥に鈍い痛みを呼び、一寿の瞳からも、ぽろりと一粒涙が落ちていた。
「どうなりたいかって聞かれると、俺もよくわかんない」
抱きしめる腕を少しも緩めず、一寿の肩に顔を埋めたまま桂が告げる。
「カズさんの匂いが好き。桜の花みたいに優しい匂い、ずっと嗅いでいたい。俺にとって、初めて心地いい他人の匂いがカズさんだったんだ。初めてなんだよ、こんな気持ち」
カズさんカズさんと呼びながら、首筋に鼻を擦り付けてくる桂の熱い背中に腕を回す。
「俺もフェロモンがわからないΩだから、他人に発情した事ないんだよ。だから、セッ、セックスしたいかどうかなんて、よくわかんないよ」
そうか、分かんないのか。
分からないなら出来なくても桂は一寿といてくれるだろうか。
熱い体に一寿から頬を寄せてみる。びくりと桂が反応した後、また抱き寄せる力が強くなった。必死ですがり付いてくる、今はその腕をとても嬉しいと思う。
「わかんない、なら、一緒に考えるか」
うん、と返ってきた答えに腹の底から安堵している。
自分にとっての桂が、手放したくないと泣きたくなる位に、大切になっている事を、一寿はこの時改めて思い知らされたのだった。
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