桜清明

東雲夕

文字の大きさ
上 下
19 / 24

あなたのかおり

しおりを挟む
 行儀悪く寝そべったまま一寿のお腹から顔だけ上げた桂が「へっ? 」と言った後、一瞬で首まで真っ赤になって絶句している。
 べったりと抱き合ったままの身体からは、もとから高かった体温がまた更に上がったのが分かって一寿もドキドキする。

「セ、セ、セックス、とかカズさんの口から出ると、う、心臓が痛い!!! 」

 ぱくぱくと金魚のように口を忙しなく開け閉めした後、縁側になぜか正座した桂は、胸を押さえて呻いている。

 これは、ありとなしならどっちの反応だろうか。ふむと顎に手をやり考え込む一寿に、ようやく動揺をおさめた桂が、おずおずと尋ねてきた。

 「あのさ、逆にきくけどカズさんは、そゆこと平気で聞けちゃう感じで、経験豊富だったり、するの? 」

 上目遣いの桂は神妙な顔をしていた。
 年上の一寿なら経験があって然るべしと思いつつも、想像するとものすごく胸の奥がイガイガするからだ。

「いや、多分このままなら、おそらく俺は童貞処女のまま魔法使いになると思うが」

 ーー いや、それもどうなのーっ?!

 赤裸々過ぎる告白に赤面のあまり突っ伏した桂は声もなく悶えている。

「桂には正直に伝えるのが俺の誠意のつもりなのだが…… 」

 珍しく言い淀む一寿に、あ、これはちゃんと聞こうと縁側に座り直した桂は、膝を揃えて改めて向き合う。

 そうやって目を合わせた一寿は真剣な顔をしていた。

「きちんと検査したわけじゃないんだが」
「うん」
「俺は多分、アセクシャルという奴だと思っている」

 初恋もまだだし、なにより生身の人間に性的に興奮を感じないようだ。

 どこか頼りない様子で、桂から目を逸らした一寿が申しわけなさそうに告げる。

「だから、桂がそういう意味を望んでいるとしたら、俺は答えられないと思う」

 ーー βだし。

 その一言を伝えたとたん、熱い体に力一杯抱きしめられた。合わせた胸からは桂の早い鼓動が直接伝わってくる。百合の香りが包み込まれるように強くなった。

 「ごめん、ごめんねカズさんにそんな事言わせて」

 ーー βだから駄目だなんて

「言ったら嫌だよお」

 肩が温かく湿っている。
 泣かせてしまったとい後悔が腹の奥に鈍い痛みを呼び、一寿の瞳からも、ぽろりと一粒涙が落ちていた。

「どうなりたいかって聞かれると、俺もよくわかんない」

 抱きしめる腕を少しも緩めず、一寿の肩に顔を埋めたまま桂が告げる。

「カズさんの匂いが好き。桜の花みたいに優しい匂い、ずっと嗅いでいたい。俺にとって、初めて心地いい他人の匂いがカズさんだったんだ。初めてなんだよ、こんな気持ち」

 カズさんカズさんと呼びながら、首筋に鼻を擦り付けてくる桂の熱い背中に腕を回す。

「俺もフェロモンがわからないΩだから、他人に発情した事ないんだよ。だから、セッ、セックスしたいかどうかなんて、よくわかんないよ」

 そうか、分かんないのか。
 分からないなら出来なくても桂は一寿といてくれるだろうか。

 熱い体に一寿から頬を寄せてみる。びくりと桂が反応した後、また抱き寄せる力が強くなった。必死ですがり付いてくる、今はその腕をとても嬉しいと思う。

「わかんない、なら、一緒に考えるか」

 うん、と返ってきた答えに腹の底から安堵している。

 自分にとっての桂が、手放したくないと泣きたくなる位に、大切になっている事を、一寿はこの時改めて思い知らされたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

僕に優しくしてくれたアルファ先輩は、僕を孕ますのが目的でした

天災
BL
 僕に優しくしてくれたアルファ先輩の本当の顔。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ロスト オメガ

三日月
BL
進化の過程で失われていくαとΩ『ロストセックス』の研究者βの岩田には、希少なΩの幼馴染がいた。 Ωの特性に戸惑いながら明るく振る舞う彼に、唯一無二の番を作ってあげたい岩田は⋯⋯  BLove様第三回短編小説コンテストテーマ『世紀末オメガバース』応募作品第一弾

処理中です...