桜清明

東雲夕

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やまなかけい

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 人を呪わば、穴二つってことさ。と見舞いのプリンを差し出しながら、桂の警戒警報の発令先である従兄弟が苦笑した。

 この頼りになる従兄弟は、高等部へ上がる前に、桂の求愛者の筆頭と言える上位のαに繋ぎをとり、中等部における万が一の警報ラインを確立してくれていた。山中のα、中でも特に桂の世代の子供達に飛び抜けて優秀な人材が揃っている。それゆえに恵のΩである桂を欲しがる家も後を立たないのではあるが。

 今回緊急事態の為、最終手段とも言えた強い薬を使ってしまった桂も、無傷とは言えなくて、副反応の検査も兼ねて暫く入院になってしまった。

 フェロモンの反応を抑えると共に嗅覚も麻痺して未だに戻らない為である。
 それもまた身の安全には代えられないので仕方ない事だと諦め、ベッドで大人しく静養する事にした桂であった。

 それから鼻が効かない今しかないと、長らく求愛しづつけてくれたα達にも、病室で申し訳ないが対面で正式に「お断り」を入れさせて貰った。顔を見て伝える事が、桂のせめてもの誠意であった。

 皆あの騒動は、桂のせいでは無いといってはくれたが、結局のところΩとして番を選べない桂の体質が、根本的に問題なのだ。


 初めて落ち着いてαの彼らと話せた事で、桂は長く背負っていた重荷をやっと下ろせたような解放感を感じていた。

 また、話してみれば、桂を番にと望んでくれたα達は、皆人間的にも尊敬できる魅力的な人達ばかりで、友人としてさえも付き合えない、自分の特殊Ωの体質が心底惜しいと桂は、心の底からがっかりした。


 また里中君は、おススメのラノベを抱えて、オタク友達とお見舞いに来てくれた。「リアル悪役令息は実在した」「リアルざまあ半端ないね」「2.5次元は非日常でこそ輝く」と、やらかした悪役令息にアレは無いと大変憤って帰っていった。


 帰り間際に閉まりかけた扉の隙間から、陰キャの性を取っ払って、真っ直ぐに桂と目を合わせた里中君が「山中氏とはずっ友だと思ってるから! 」と真っ赤な顔で叫ぶように言い逃げして行った。


 勢いよく締められた扉が反動で少し開いている。暫く呆気に取られて固まっていた桂は、急におかしくて笑いが込み上げてきた。と同時にとてつもなく嬉しくなる。

 気がつくと桂は、一人きりになった病室のベッドの上で、久しぶりに腹を抱えて笑っていた。笑いながら、何故か涙が止まらなかった。

 やっぱり自分はβの彼らが大好きだと、笑いすぎて引き攣る腹筋に悶えながらも再確認する。

 正直今回の事で、普通に通学する事への躊躇いが、桂の中で大きくなっていた。
 
 けれども悪いことばかりじゃ無い。
 何より桂は人に恵まれている。
 それも含めて、そろそろこれからの自分の身の振り方について、真剣に考え出す時期が来たのかもしれない。

 特殊な体質に嘆くばかりでなく、自分はこれから何をして、どう生きていきたいのか。  

 桂は改めて、これからの人生について、真剣に思いを巡らし始めるのだった。
 
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