14 / 24
おめがのけい 5
しおりを挟む
そして脱兎する予定が、連れ込まれた体育倉庫の中ですなう。
更に更に目の前にリアル悪役令息(暫定)がいます。
すごいよ、実在したんだ悪役令息。
この前陰キャでオタクの里中くんが「山中氏これは中々良い「ざまぁ」ですので、大変おススメです」と貸してくれたラノベの登場人物のようだ。
悪役令息(暫定)は実在した。
桂はオタクにも偏見はない。彼らにも特に気にせず普通に話しかけるため、本来なら避けられがちなリア充な勝ち組Ωなのだが、陰キャの皆さまからは「彼は陰キャに優しいリア充だから近寄っても安全」認定を公式にされていた。
そして陰キャから見ても、桂のは羨ましく無い感じのリア充っぷりなので、密かに同情もされている。
もともと自分がΩなどという特殊な性別な上、その中でもさらに特殊な先天的にフェロモンを受け付けない体質だったりした関係で、世の中には色んな人がいて、みんな違ってみんないい、と達観しなければ生きて来れなかったというのもある。
里中君に見せたら喜ぶとだろうなぁと脳内で逃避する桂は、逃避したくなる程度には絶賛ピンチ中であった。
意外に手回しのよかった悪役令息(暫定)の手下が倉庫の外で見張っていたようで、瞬足を活かせぬまま捕獲されてしまったのだ。
体育倉庫の中は、気絶するレベルで臭かった。発情したΩとそれに引きずられたαがラットを起こして、そこかしこで乱交が始まろうとしていた。
これは気を失うわけにはいかないと、桂は気合を入れると、マスクのノーズに仕込んだ薬を潰す。緊急避難用の揮発性の緩和剤は即効性で、脳を刺すような激臭がみるみるひいていく。
正気を失った表情で交わる人の中に、クラスメイトを見つけた桂は、彼が先週嬉しそうに、卒業したら番になっくれる人が出来たとはにかんでいた笑顔を思い出し、たまらなく悲しくなった。彼は悪役令息(暫定)の一族の会社に親が勤めていると言っていた。
そのせいで今日ここにいるのだとしたら、何て気の毒な事だろう。
フェロモンに当てられて理性を失ったαとΩが哀れだった。心を持った人間なのに、まるで獣のように、今はただ交わる事しか頭に無くなっている。彼らはやがて正気に戻る。その時の事を思うと桂は哀しい。
「なにが恵のΩだ。ちやほやされていい気になってられるのも今日までだよ。これからは彼らの性奴隷として生きてくんだから、分不相応にあの人を誑かした罰だ。たっぷり可愛がってもらうといいよ」
しんみりと項垂れる桂の姿を、怯えていると誤解した悪役令息(暫定)が吠える。いや、とんでもない事言い出してるよこの子とドン引きする桂は、悪役令息は暫定でなく確定だったなと認識を改めた。
緊急の緩和剤を使った桂の鼻は、何も嗅ぎ取らなくなっているが、今この狭い体育倉庫の中はΩのヒート臭とαのラット臭でフェロモンが大変な匂いになっているはずである。
それであるので、桂に向かって「たっぷりと可愛がって貰え」と言っていた悪役令息(確定)本人の腰が、かなり濃い目のフェロモンに当てられて今にも砕けそうである。
いや、この中に君までいたらダメなんじゃ…… と他人事ながら心配になるレベルで残念な悪役令息(確定)様である。
普通の中学生からしてみたら割と衝撃的なαとΩの乱交なのだろうが、山中の家では中等部に上がる際、きっちりと性教育もされる。その中でこれは「駄目なαとΩの交わり」に該当するなと桂は眉を顰める。
この人達のお里が知れるわねと、桂の脳内ではお婆さまが、残念な奴等だと首を振って駄目だししていた。
結局、匂いテロにやられていない桂だけが無事に逃げ切り、悪役令息はじめ手下の皆さんは、桂の警戒警報を受けて救助に来てくれた、上位のαの皆さんと警備員さんに連行されて行った。後日聞いたところによると、漏れなく全員放校になったそうだ。
少しヤバいお薬も使ってしまっていたらしい。そんなもの真っ当に生きてたら、どこで手に入れるのかとんと分からない。
つまり真っ当に生きてなかったらしい彼らの実家も、必然的に芋づる式でピンチになっているそうだ。ちょっと良いとこのお家だと思ってたけど、危機管理が甘過ぎる。山中の家だったら有り得ないねと桂は肩をすくめた。
乳母日傘で何もできない令嬢令息は、大体新しい時代の成金である。西洋で言うところのノブリスオブリージュを継承する支配階級から続く家なら、子供には身の回りの一切を自分で熟るように仕込むからだ。
古の昔、家の為に人質として他家に預けられていた名残りだという。
現在そこまでする家は少ないとは思うが、山中の家は夏休みには子供達が集められて、系列のホテルで研修をして、きっちりベッドメイクからトイレ掃除まで仕込まれるのだ。
従兄弟従姉妹が一堂に会する合宿のような研修は、厳しいけれど山中の子供達の、楽しみな夏の風物詩でもあるのだった。
フェロモンから解放されて、人生最大に体が軽い。嗅覚と引き替えに手に入れた自由な体で、なんかの汁まみれの手から身軽に逃げ回る桂が、横目に確認できた範囲でも悪役令息は手下のαに「食われちゃって」いた。後で聞いたら頸まで噛まれて番にされていたらしい。本当に何やってんだ。
更に更に目の前にリアル悪役令息(暫定)がいます。
すごいよ、実在したんだ悪役令息。
この前陰キャでオタクの里中くんが「山中氏これは中々良い「ざまぁ」ですので、大変おススメです」と貸してくれたラノベの登場人物のようだ。
悪役令息(暫定)は実在した。
桂はオタクにも偏見はない。彼らにも特に気にせず普通に話しかけるため、本来なら避けられがちなリア充な勝ち組Ωなのだが、陰キャの皆さまからは「彼は陰キャに優しいリア充だから近寄っても安全」認定を公式にされていた。
そして陰キャから見ても、桂のは羨ましく無い感じのリア充っぷりなので、密かに同情もされている。
もともと自分がΩなどという特殊な性別な上、その中でもさらに特殊な先天的にフェロモンを受け付けない体質だったりした関係で、世の中には色んな人がいて、みんな違ってみんないい、と達観しなければ生きて来れなかったというのもある。
里中君に見せたら喜ぶとだろうなぁと脳内で逃避する桂は、逃避したくなる程度には絶賛ピンチ中であった。
意外に手回しのよかった悪役令息(暫定)の手下が倉庫の外で見張っていたようで、瞬足を活かせぬまま捕獲されてしまったのだ。
体育倉庫の中は、気絶するレベルで臭かった。発情したΩとそれに引きずられたαがラットを起こして、そこかしこで乱交が始まろうとしていた。
これは気を失うわけにはいかないと、桂は気合を入れると、マスクのノーズに仕込んだ薬を潰す。緊急避難用の揮発性の緩和剤は即効性で、脳を刺すような激臭がみるみるひいていく。
正気を失った表情で交わる人の中に、クラスメイトを見つけた桂は、彼が先週嬉しそうに、卒業したら番になっくれる人が出来たとはにかんでいた笑顔を思い出し、たまらなく悲しくなった。彼は悪役令息(暫定)の一族の会社に親が勤めていると言っていた。
そのせいで今日ここにいるのだとしたら、何て気の毒な事だろう。
フェロモンに当てられて理性を失ったαとΩが哀れだった。心を持った人間なのに、まるで獣のように、今はただ交わる事しか頭に無くなっている。彼らはやがて正気に戻る。その時の事を思うと桂は哀しい。
「なにが恵のΩだ。ちやほやされていい気になってられるのも今日までだよ。これからは彼らの性奴隷として生きてくんだから、分不相応にあの人を誑かした罰だ。たっぷり可愛がってもらうといいよ」
しんみりと項垂れる桂の姿を、怯えていると誤解した悪役令息(暫定)が吠える。いや、とんでもない事言い出してるよこの子とドン引きする桂は、悪役令息は暫定でなく確定だったなと認識を改めた。
緊急の緩和剤を使った桂の鼻は、何も嗅ぎ取らなくなっているが、今この狭い体育倉庫の中はΩのヒート臭とαのラット臭でフェロモンが大変な匂いになっているはずである。
それであるので、桂に向かって「たっぷりと可愛がって貰え」と言っていた悪役令息(確定)本人の腰が、かなり濃い目のフェロモンに当てられて今にも砕けそうである。
いや、この中に君までいたらダメなんじゃ…… と他人事ながら心配になるレベルで残念な悪役令息(確定)様である。
普通の中学生からしてみたら割と衝撃的なαとΩの乱交なのだろうが、山中の家では中等部に上がる際、きっちりと性教育もされる。その中でこれは「駄目なαとΩの交わり」に該当するなと桂は眉を顰める。
この人達のお里が知れるわねと、桂の脳内ではお婆さまが、残念な奴等だと首を振って駄目だししていた。
結局、匂いテロにやられていない桂だけが無事に逃げ切り、悪役令息はじめ手下の皆さんは、桂の警戒警報を受けて救助に来てくれた、上位のαの皆さんと警備員さんに連行されて行った。後日聞いたところによると、漏れなく全員放校になったそうだ。
少しヤバいお薬も使ってしまっていたらしい。そんなもの真っ当に生きてたら、どこで手に入れるのかとんと分からない。
つまり真っ当に生きてなかったらしい彼らの実家も、必然的に芋づる式でピンチになっているそうだ。ちょっと良いとこのお家だと思ってたけど、危機管理が甘過ぎる。山中の家だったら有り得ないねと桂は肩をすくめた。
乳母日傘で何もできない令嬢令息は、大体新しい時代の成金である。西洋で言うところのノブリスオブリージュを継承する支配階級から続く家なら、子供には身の回りの一切を自分で熟るように仕込むからだ。
古の昔、家の為に人質として他家に預けられていた名残りだという。
現在そこまでする家は少ないとは思うが、山中の家は夏休みには子供達が集められて、系列のホテルで研修をして、きっちりベッドメイクからトイレ掃除まで仕込まれるのだ。
従兄弟従姉妹が一堂に会する合宿のような研修は、厳しいけれど山中の子供達の、楽しみな夏の風物詩でもあるのだった。
フェロモンから解放されて、人生最大に体が軽い。嗅覚と引き替えに手に入れた自由な体で、なんかの汁まみれの手から身軽に逃げ回る桂が、横目に確認できた範囲でも悪役令息は手下のαに「食われちゃって」いた。後で聞いたら頸まで噛まれて番にされていたらしい。本当に何やってんだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

華とケモノ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
番に捨てられたオメガ『樹』、ベータの生を受けながらアルファになった『大和』、意図せず番を捨てたアルファ『勇樹』、ベータであることに劣等感を抱き続ける『斎』。そんな四人の物語。※2017年11月頃執筆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる