桜清明

東雲夕

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おめがのけい 3

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 桂が本当のフェロモンテロを仕掛けられたのは、中等部最終学年の事だった。

 三年に上がった桂への呼び出しは相変わらず続いていた。従兄弟はこの春に高等部に上がっているので、疾走して向かう先が保健室に変わっただけである。

 薬を服用していてもフェロモンは激臭で息もできないので、未だに「ごめんなさい」と言うのが精一杯な桂の窮状は、相も変わらず求愛してくるα達には正しく伝わってはいない。

 しかしこの頃になると、求愛者のαの中でも序列が出来て下位のαは山中のΩを呼び出す資格なしとされたらしい。

 全て又聞きだが、それが有難いかというと別問題である。それだけ上位のαに限り呼び出されるということで、つまりフェロモンの強さもとんでもないクラスの相手という事でもある。

 もういっそ気絶している間に全て終わるなら、それでもいいかと思う位の毎日の匂いテロにくたびれた桂は、保健室の隅で実家から持ってきて吸入器にセットしたタオルをすーはーしていた。

 昨日一晩姉が身につけていてくれたタオルからは、姉の包み込むような優しいフェロモンがして、桂のささくれだった心を癒やしてくれる。

 この実の姉のタオルをすーはーしている、我ながらかなりやばい姿を見せれば、百年の恋も覚めるだろうと、保健医の立ち会いの元求愛をやめないα達に見てもらったが、逆になぜか興奮されてしまい、執着度が増すという哀しい結果に終わってしまった。

 恥ずかしい姿を見られた上に、興奮したαの五割増しの激臭に気絶寝しかけた桂を、βの保健師さんが気の毒そうに慰めて、おやつのどら焼きを奢ってくれた。

 いつでも避難して来てねと優しく微笑む保健師さんの姿に、やっぱり自分はβといるのが一番居心地がいいなあと、改めて思った桂は、ままならない自分のΩ生にため息を落とした。

 夏休みが終わる頃になると、山中のΩの求愛者は五人に絞られたらしい。
 相変わらずそこに桂の意志は無いので又聞きである。

 この頃中等部で正統派Ωの筆頭と言われている男子生徒が、長らく自分の番にしたいと狙っていた上位のαが、桂の求愛者に参戦して権利を勝ち取ったとかで、やたらとΩの生徒から嫌がらせをされる様になった。

 とはいえ、山中のΩである桂を表立っていぢめる勇気は無いらしい。机に塵を入れられたり、靴を隠されたりと地味な感じで嫌がらせをされたが、机には何も入れないようにして、入れられた塵は捨てればいいし、靴箱には自前で鍵をつけて、ついでにロッカーも施錠してしまえば手出しはされなくなった。

 正直同性であるΩのフェロモンも十分臭い桂は、相変わらずβの友達と仲良くしていた為、Ωの生徒達から無視されようと実害がないどころか、寄って来られない方が匂いに耐えなくて良いため、桂的には快適になったなと感じでいたし、表面上はいじめ被害は無くなったかのように見えた。

 そんなある日の事だった。
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