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みどりのひと
しおりを挟む緑の指という植物を育てるのが大層上手な指を持った少年の物語を、子どもの頃に読んだ。
一寿の父も母も姉も弟も、霰屋の家族はきっとみんな緑の人だ。
実家は古くからの園芸店で、姉の代になってからは造園も初めてガーデニングまで手広く引き受けている。
弟も実家を手伝うとこの春、園芸学部のある都心部の大学へと進学をきめた。
家族の中で一寿だけ、緑の指を持っていない。言われた通りに水やりをしていてもなぜが弱る、枯れてしまう。
家族の中で、自分だけはずれものだとは、なかなか認められなくて、気の毒な花たちを沢山枯らしてしまった。
樹木ならと、最後に桜を枯らした時に、自分には向いてないと、やっと諦めがついたものだ。
春に花をつけていない桜はかなしい。
満開の鉢植えの中で、ひと鉢だけ何もない裸の枝を見た時に、もうやめよう。そう気持ちの落とし所を見つけられた気がした。
裸の桜樹は、とても寂しそうだった。
蕾どころか芽吹きもない、裸の樹。
その寒々しい姿と自分が重なって見える。
今まで、むきになって世話をして来た理由がわかった気がして、ごめんなと桜に謝った一寿は、それから植物は愛でるだけと決めて、手を出すのはやめたのだった。
ちょうどその頃、一寿は高校へ進んだ。
花の世話をやめたら、急に暇になった自分が実は無趣味だった事に気づいてしまい、少なからず呆然としている一寿に、家族は手入れの簡単な、アイビーやらサボテンやらを勧められたが、いや、多分枯らすと謹んで辞退した。
その反動のように、やたらと桜に関するものが目について、いつしか集め初めていた。
この頃の一寿は、趣味桜グッズの収集の人だった。面白がった友人達からも貢がれるので、一寿の部屋はみるみる桜関連のもので埋め尽くされた。
高校生にもなれば、親しい友人達も色気付きだして、仲間内のグループの交際ような流れで、一寿にも二人で帰る相手ができていた。
グループ内でカップルになる奴らが増えて、最終的に残った形だったのて、彼女と呼ぶには憚られたが、相手からの一寿への好意のようなものは、何となく感じられた。
また流れで二人で帰るようになっていたが、自分でも、流され過ぎているなと反省した一寿から、自由に帰ろうと提案したところ、泣かれてしまうと言う困った事態になった。
そこに至って初めて知ったのだが、この流れで二人になる、と言うのは彼女の友人達と申し合わせてのものだったらしい。そして一寿の友人達とまんまとカップル成立させている。
だから自分達も、と言われても一寿は困惑するばかりだった。
幼いながら媚を含んだ上目遣いで見上げられて、ぐっときた…… とかだったら良かったのだが。
一寿を男として見ていると、まだ幼さの残るまろい頬で女の顔をする友人の姿に、正直ひいてしまっている自分に気がつき、とりあえずお付き合いは断って逃げるように、帰ってきてしまった。
人を恋る。
自分はそんな気持ちを持てない人間なのかもしれない。そんな予感が一寿の腹の奥でとぐろを巻くように重く凝っていた。
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