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突然の運命
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「運命の番保険」
この世には男女の他に第三の性がある。
圧倒的生殖能力を誇り優良種として個体の能力も高いα種。
染色体に関係なく子宮を持ち繁殖能力に優れたΩ種。
人類全体から見れば1割にも満たない彼ら。
理性を獲得し発情期を手放した人類に逆行するように、発情期を持ち互いに惹かれあい交わる。
αはΩを「番」にすることが可能であり、それは繁殖を促し己だけの雌にする為の雄の機能である。
人と人と間に生まれる愛情とは、また別種の遺伝子的な適合率により生ずるその欲望。
その最たるものを運命の番と呼ぶ。
1万分の1にも満たない希少な遺伝子の適合により、理性では抗いがたい身体の欲求を伴うそれは、激しい情交からの番契約までに至る事が確認されている。
番ったαとΩは伴侶であるお互いのフェロモンしか受け付けなくなるという。
発情期の異常ともいえる性欲は、発散しなければ彼らの精神を破壊するレベルであるため、番契約は何よりも優先される、公に最上位の契約でもあった。
これはそんな第三の性のある世界で、人口のほとんどを占めるβと呼ばれ発情を持たない一般人が、αやΩのダイナミクス性を持つ相手に愛され、その愛を受け入れた先に起こった、ありふれた悲劇の物語である。
「あ”、ぅううん!!!い、ぐっぅぅううう!!!」
ぴたんぴたんと間抜けな音を立てて、尊の夫が見知らぬ青年と交わっていた。
「…18時31分、番契約を確認しました」
耳障りなほどに煩い情交音をBGMに、白衣の女性はクロノグラフを覗き込むと平坦な声で尊にとって残酷な事実を告げた。
ぴーという電子音が記録が完了した事を教えている。
「ネックガードは二重認証ですか?」
「はい。…指紋と暗証番号です」
「なるほど。…本人の意思による解除を確認」
問いかけは開けっ放しのドアの外から、答える声もまたしかり。硬質なバリトンと震えたテノール。
テノールの男性は、今そこで、尊が整えた夫婦のベッドで、夫の棋理とヒート特有の激しい情交の中で番になったというΩの伴侶だ。
帰宅して寝室から聞こえる湿った音と明らかな嬌声に、嫌な予感を覚えながら、扉を開けてみた尊の目に飛び込んできた、最愛の夫と見知らぬΩの情交シーン。
あまりの衝撃に、その時から尊の心は麻痺したように何も感じなくなっていた。リビングに、乱雑に脱ぎ捨てられてた二人分の衣類とトートバック。
夫以外の見慣れないものをよりわける。触れる事を何度もためらいながらも、やっとの事でトートバックの中を確認した。
それから、震える指で見つけた免許証の番号へと電話をかけた。
3回ほどのコールの後で応答があり、訝しげに問いかける男に、回らぬ舌で必死に名乗った尊が、今現在も目の前の続いている、悍ましい事実を淡々と告げれば、尊と同じく寝取られた立場と理解した男は、大きく一つ息をのんだ。
そして、それからやっと絞り出した声で尊の家の住所を尋ねてきたのだった。
男との短い通話を終えた尊が、震えが治まる様子もない指先を伸ばして、次に電話をかけた先、それは保険会社の代理店だった。
ダイナミクスのある世界。
この世界で同性婚が当たり前になって随分とたつ。
学生時代の親友である棋理に、熱烈な求婚をされて絆される形で尊は結婚した。
棋理がαという第二性である事は、出会った当初に本人から教えられて知っていた。
棋理もまた、αの例にもれず、ひどく整った容姿をしていた。
頭もよくスポーツも得意。文武両道を体現したような棋理は、しごくαらしいαだった。
そんな棋理が平凡を絵に描いたようなβの尊に愛情を寄せたのは、友人として接する内、尊の誰にも分け隔てなく接する公平さや、また穏やかな性格に、強く惹かれたからだった。
αである棋理にも屈託なく話しかける、それでも友情以上を、ましてや何の見返りも求めたりなどしない。
己のαという特性ゆえに、棋理を利用しようとしては群がってくる人々の思惑に翻弄され続けて、他人から向けられる欲望には、人一倍敏感に成長してきた棋理。
そんな棋理にとって、凡庸であるがゆえに野心のない、穏やかで優しい尊の隣は、出会った当初より不思議と居心地が良く、棋理にとっていつしか、何物にも変え難い、オアシスのような癒しの場となっていたのだった。
しかしαはΩに引かれて番になる生き物である。
身近にダイナミクの友人が棋理しかいない尊が、ささやかながらにある知識では、αとΩにとって運命の番は、何者にも代えがたい存在であるという事だった。
そんな運命の相手を持つかもしれない棋理が、平凡なβの自分を伴侶に臨むなどと、不安を告げる尊を棋理は笑い飛ばした。
「運命の番なんて都市伝説を信じているの? 俺は絶対流されたりしない。抑制剤だってあるし、尊を裏切ったりしない」
そういってくれた言葉を信じたかったのに。
運命の番保険の存在を教えてくれたのは、棋理だった。
運命の番に出会う遺伝学的確率的の50年、無事に添い遂げられたら、保険料の払い戻しがあるのだと。
それで金婚式のお祝いでもしよう。そう笑っていた棋理を尊は信じたのに。
全て運命の前では意味の無い事だったのか。
この世には男女の他に第三の性がある。
圧倒的生殖能力を誇り優良種として個体の能力も高いα種。
染色体に関係なく子宮を持ち繁殖能力に優れたΩ種。
人類全体から見れば1割にも満たない彼ら。
理性を獲得し発情期を手放した人類に逆行するように、発情期を持ち互いに惹かれあい交わる。
αはΩを「番」にすることが可能であり、それは繁殖を促し己だけの雌にする為の雄の機能である。
人と人と間に生まれる愛情とは、また別種の遺伝子的な適合率により生ずるその欲望。
その最たるものを運命の番と呼ぶ。
1万分の1にも満たない希少な遺伝子の適合により、理性では抗いがたい身体の欲求を伴うそれは、激しい情交からの番契約までに至る事が確認されている。
番ったαとΩは伴侶であるお互いのフェロモンしか受け付けなくなるという。
発情期の異常ともいえる性欲は、発散しなければ彼らの精神を破壊するレベルであるため、番契約は何よりも優先される、公に最上位の契約でもあった。
これはそんな第三の性のある世界で、人口のほとんどを占めるβと呼ばれ発情を持たない一般人が、αやΩのダイナミクス性を持つ相手に愛され、その愛を受け入れた先に起こった、ありふれた悲劇の物語である。
「あ”、ぅううん!!!い、ぐっぅぅううう!!!」
ぴたんぴたんと間抜けな音を立てて、尊の夫が見知らぬ青年と交わっていた。
「…18時31分、番契約を確認しました」
耳障りなほどに煩い情交音をBGMに、白衣の女性はクロノグラフを覗き込むと平坦な声で尊にとって残酷な事実を告げた。
ぴーという電子音が記録が完了した事を教えている。
「ネックガードは二重認証ですか?」
「はい。…指紋と暗証番号です」
「なるほど。…本人の意思による解除を確認」
問いかけは開けっ放しのドアの外から、答える声もまたしかり。硬質なバリトンと震えたテノール。
テノールの男性は、今そこで、尊が整えた夫婦のベッドで、夫の棋理とヒート特有の激しい情交の中で番になったというΩの伴侶だ。
帰宅して寝室から聞こえる湿った音と明らかな嬌声に、嫌な予感を覚えながら、扉を開けてみた尊の目に飛び込んできた、最愛の夫と見知らぬΩの情交シーン。
あまりの衝撃に、その時から尊の心は麻痺したように何も感じなくなっていた。リビングに、乱雑に脱ぎ捨てられてた二人分の衣類とトートバック。
夫以外の見慣れないものをよりわける。触れる事を何度もためらいながらも、やっとの事でトートバックの中を確認した。
それから、震える指で見つけた免許証の番号へと電話をかけた。
3回ほどのコールの後で応答があり、訝しげに問いかける男に、回らぬ舌で必死に名乗った尊が、今現在も目の前の続いている、悍ましい事実を淡々と告げれば、尊と同じく寝取られた立場と理解した男は、大きく一つ息をのんだ。
そして、それからやっと絞り出した声で尊の家の住所を尋ねてきたのだった。
男との短い通話を終えた尊が、震えが治まる様子もない指先を伸ばして、次に電話をかけた先、それは保険会社の代理店だった。
ダイナミクスのある世界。
この世界で同性婚が当たり前になって随分とたつ。
学生時代の親友である棋理に、熱烈な求婚をされて絆される形で尊は結婚した。
棋理がαという第二性である事は、出会った当初に本人から教えられて知っていた。
棋理もまた、αの例にもれず、ひどく整った容姿をしていた。
頭もよくスポーツも得意。文武両道を体現したような棋理は、しごくαらしいαだった。
そんな棋理が平凡を絵に描いたようなβの尊に愛情を寄せたのは、友人として接する内、尊の誰にも分け隔てなく接する公平さや、また穏やかな性格に、強く惹かれたからだった。
αである棋理にも屈託なく話しかける、それでも友情以上を、ましてや何の見返りも求めたりなどしない。
己のαという特性ゆえに、棋理を利用しようとしては群がってくる人々の思惑に翻弄され続けて、他人から向けられる欲望には、人一倍敏感に成長してきた棋理。
そんな棋理にとって、凡庸であるがゆえに野心のない、穏やかで優しい尊の隣は、出会った当初より不思議と居心地が良く、棋理にとっていつしか、何物にも変え難い、オアシスのような癒しの場となっていたのだった。
しかしαはΩに引かれて番になる生き物である。
身近にダイナミクの友人が棋理しかいない尊が、ささやかながらにある知識では、αとΩにとって運命の番は、何者にも代えがたい存在であるという事だった。
そんな運命の相手を持つかもしれない棋理が、平凡なβの自分を伴侶に臨むなどと、不安を告げる尊を棋理は笑い飛ばした。
「運命の番なんて都市伝説を信じているの? 俺は絶対流されたりしない。抑制剤だってあるし、尊を裏切ったりしない」
そういってくれた言葉を信じたかったのに。
運命の番保険の存在を教えてくれたのは、棋理だった。
運命の番に出会う遺伝学的確率的の50年、無事に添い遂げられたら、保険料の払い戻しがあるのだと。
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