4 / 11
時代はダイバーシティアンドインクルージェンです
しおりを挟む『大奥が出来たのは、将軍様が男色だったから~!』
ぼーっとしてると五歳児にしかられる雑学バラエティー番組を見ながら、煎餅をくわえた姉がへーっと感嘆の声をあげた。
「つまりバイだったって事?」
犀太の土産である二枚目の蜂蜜揚げに、嬉しそうに手を伸ばした姉が笑う。
屈託のないその笑顔を見るのがつらくて、犀太は曖昧に微笑んで視線を伏せた。
久しぶりの実家と久しぶりの姉だった。
法事で帰省を願い出る。日帰りのつもりでいた犀太に、顔色が良くない、体調は大丈夫か? 転職後だと頑張りすぎているのではないか、と心配したオーナーに、強引に休暇をとらされた。
仕事をしていた方が気持ちが紛れる。
無理やり、のめり込むように業務を詰めていたのに、オーナーは気づいて、気にかけていてくれたのだ。
料理人には見えない位大きな体をしたオーナーが、眉を下げて小さく背中を丸める。気遣うように覗き込まれて「焦らなくても、君は十分貢献してくれてるよ」と、宥めるようなその穏やかな瞳と声に、手負の獣のように固く閉じていた心が解けていくのがわかった。
素直に甘え、休暇を貰うと告げれば、ホッ全身から力を抜いたオーナーが、良かったと笑う。かなり心配をかけてしまっていたそうだ。その手放しの笑顔が眩し過ぎて、犀太は視線を落として「ありがとうございます」と小さく頭を下げた。
お盆ぶりの帰省に、実家の自室は相変わらず布団部屋と化している。
独立した子供の部屋なんてそんなもんよと、姉が寝る場所だけは確保してくれてあった。
自分一人の部屋というのは、こんな感じだったのであろうか。
近頃の自宅には、犀太と桐真以外の気配がそこここにあって、それがどれだけ犀太を居心地悪くさせていたのか。
子ども時代を過ごした実家の部屋の少し埃っぽいベッドに横になる。
全身の重りがとれたように、体も心も軽くなった気がして、そのまま犀太は、夕飯だと姉が起こしにくるまで、久しぶりにぐっすりと眠った。
すっかり寝過ごした犀太が昼近くになって居間に降りると、姉が一人でテレビを見ながら「おそよう」と笑った。
既に両親は買い物に出かけているけど、台所のテーブルに朝ごはんあるよ「チンして食べなさい」って。と母からの伝言を伝えてくれる。
母の心づくしを「チンして」食べる。懐かしい醤油味の卵焼きを噛みしめながら、自分の味の原点はこれだなと、ほっこりと癒された。
居間のテレビの画面では、後継ぎの為に女を抱く将軍が、お気に入りの御小姓や若衆も同時に愛でている。
煎餅の3枚目に手を伸ばし、バリバリと旨そうに齧った姉がまた「へーっと」声をあげる。
その横顔を犀太は妙にどきどきと様子を伺っている。
今ここで、弟の恋人が同性だと打ち明けたら、姉はどんな反応のするのだろうか。
昔から喜怒哀楽のはっきりした姉と、おとなしい弟と言われていた。姉は自分の感情に素直で取り繕うのが下手な人だ。もし告白して否定されたらと思うと、想像だけでも血の気が引く。
性格が違う分逆に仲の良い姉弟だった。
だから自分のせいで、姉が悲しんだり苦しんだりするのを見たくないという思いが、傷つくのが怖い以上に犀太の中にはある。
そんな犀太の様子に気づくことなく姉はテレビを見て笑っている。
ずっと大切なこの人には笑っていて欲しい。
そんな思いが犀太の口を重くしていた。
そんな時だった。
だいーばーしてぃあんどいんくるーじぇん。
ふいに姉が怪しい片言でそんな言葉を口にした。
22
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
魚上氷
楽川楽
BL
俺の旦那は、俺ではない誰かに恋を患っている……。
政略結婚で一緒になった阿須間澄人と高辻昌樹。最初は冷え切っていても、いつかは互いに思い合える日が来ることを期待していた昌樹だったが、ある日旦那が苦しげに花を吐き出す姿を目撃してしまう。
それは古い時代からある、片想いにより発症するという奇病だった。
美形×平凡

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?


ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる