【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

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女神の愛し子と薊の祝福

3.

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 セオドアの大きな手のひらが、フェンガリの頬を包み込んでくる。親指のひらで、目尻を擦ってくるのがくすぐったい。

 穏やかに見下ろしてくる碧眼には、六歳の頃から変わらない、フェンガリに対する溢れんばかりの愛情が込められていて、かえって今のフェンガリには、居心地がとても悪い。

 誤解で心の中とは言え酷いことを思ってしまった。セオドアを責めてしまった。その事が本当に申し訳ないと思うので、フェンガリは素直にその気持ちを、セオドアに打ち明ける事にした。

 「その、ごめん。俺はテディも糞親父と同じヤリチンの糞ビッチな魔法士になったと思ってた」

 綺麗な顔で口が悪いところも好きだったななと、セオドアは込み上げる愛しさと懐かしさ、そして何より目の前に大切な幼馴染が戻ってきた喜びに眦を緩めた。

 「聖魔術師として魔法士の存在意義は認めてるけど、俺個人としては関わりたくなかった。お前の事情何も知らないのにさ、態度悪かったな。反省してる。だから、ごめんなさい」

 立ち上がってカロッタを外すと、フェンガリはセオドアに深く腰を折って頭を下げた。



 「あの時、性処理してる場面ばっかり居合わせたのも、同僚助けに行ってたんだって聞いたよ」

 着替える間も惜しんで走り回っていたから、セオドアの服からは被害者を助けた時についた精液の匂いがずっとしていて、それをフェンガリが「お楽しみ」の残り香だと誤解してしまったのだ。任務の後で毎回浄化をかけるのは、魔石の配給がなされない状況下では、魔力が惜しかったのもある。

 「あれは、そもそもここが異常だったんだから、仕方ないよ」

 でも、良かったフィーの誤解がとけてと、下げた頭をそっと撫でられたフェンガリは、その手を外すのが惜しくて、そのまま椅子に腰を下ろすと、セオドアのベッドへと顔を伏せる。

 「それに俺はしないよ。決めてるんだ。あれは俺にとって処理じゃないから、俺は俺の大切な人としか、ああいった行為は絶対しない」

 「テディ……」

 ベッドに伏せたまま見上げたセオドアの表情は酷く穏やかで、フェンガリに聖女神像を思い出させるような、そんな清浄な気配を纏っていた。

 「フィーたちがどれだけ辛かったか。俺は忘れてないから」

―― 俺にさわるな!

 セオドアを牽制しながら苦しそうに、自らの吐瀉物の中に倒れていくフェンガリの姿を忘れない。触れるなという自分の言葉に誰よりも傷ついていたあの日のフェンガリは、会えない間もずっとセオドアの心の中にあった。

 それは大切な子が苦しんでいるのに、抱き寄せる事さえできない不甲斐ない自分への絶望だった。

「俺ができる最善は、性処理なんか必要としない、そんな魔法士になる事だって、あの時決めたんだ」

 思いがけないセオドアの告白を、フェンガリはただ茫然と見上げていた。

「俺の家は一門の中でも革新派だったから、もうあの頃父上は側近を外されて王都にいなかった。
 父上は学生の頃から、魔法士も時代の流れに取り残されるべきではない、性処理についても見直すべき時が来ているって進言を続けて、一族の長老からの不興を買ったせいで一家で領地へ戻ってたからね」

 だからフィー達の一番辛い時、傍に居られなかった。

「父上も悔やんでいらしたよ。自分がもう少し上手く立ち回れて、マクシミリアン様をお助け出来ていたらって」

 セオドアの父親はフェンガリの父である金獅子と呼ばれたマクシミリアンと同い年で、幼い頃から側近として支えていた腹心であり、親友とも呼べる関係だった。

「父上は今でも酔うと愚痴が出るんだ、俺もだけどきっと一生忘れるとか無理な事なんだよ。世界で一番大切な人の事なんだから」

 セオドアの瞳を覗き込んだフェンガリは、美しい新緑の奥に沈む、深い森のような幾十もの陰りに気づいた。何千何万回繰り返した後悔で、どれだけあの頃のフェンガリ達を悼んでくれたのだろう。

 朝露をたたえた若葉のような瞳に確かな決意が浮かび、俯くセオドアの輪郭を豪奢が金の髪が彩る。美しく静謐なその表情は、フェンガリに神殿回廊に飾られた殉教者の肖像を想起させ、そしてそれは同時にフェンガリを酷く不安にさせたのだった。

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次回最終回 
明日07時更新予定です。
よろしくお願いします( ˘ω˘ )
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