【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

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加護という名の呪い

3.

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 台座の上の従兄弟の碧眼にわずかに理性の色が戻ってきている。下半身露出したまま迫って来る男達の、フェンガリに伸ばされる腕を阻もうとでもするかのように、自由にならない体で起き上がろうともがいては、また引き倒されてしまっている。

 なんでそんなに必死になるのだろう。
 体裁も何もかなぐり捨てた、懸命なセオドアの姿にフェンガリの脳裏には疑問が浮かぶ。

 従兄弟は成長して、立派なヤリチンの魔法士になったのではなかったのか。

 自ら愉しんで性処理をしていると思っていたが、もしや自分は大変な思い違いをしていたのだろうか。

 確かに状況は多勢に無勢で傍から見たら絶体絶命という所だろう。

 薬で体の自由が利かないらしい従兄弟の方が、人に逃げろとか言う前に逃げろなんじゃ。とほぼ全裸で犯される寸前のセオドアを、フェンガリは複雑な気持ちで見る。

 フェンガリは自己犠牲とか大嫌いだ。

 美しく滅びるより、見苦しくても生きようと足掻く、二兎を追ったら二匹とも仕留めるべき。

 それがフェンガリが育てなおされた、ヘリオスコープの流儀でもある。

 セオドア本人の同意の無い、規定に則った性処理でもない交わりであるならば、それは即ち強姦である。

 聖なる女神の神殿に所属する聖魔術師として、特例で任命されている法務局風紀課の監査官としても、フェンガリは見逃すわけにはいかなくなった。

「ほんとうにメンドクサイ事になってきましたよ、女神さま」

―― まぁでもやるっきゃないですかね。

 にやりと笑ったフェンガリは、気を整える為に、ひとつ大きく息を吸う。

 そして、神力を込めて高らかに問いかける。豊かに高められた神聖力は、フェンガリの小柄な体躯をひと回り大きく見せ、腹の底から響く問いかけに対する返答は、そのまま誓約となる。

 彼らも仮にも魔力を扱う魔法士を生業とする者として、それに気づかない程度の輩であるなら、フェンガリは親切に説明してやるつもりも、相手にするつもりもない。

 身の程知らずは自業自得、自滅して上等と心得よ。

「聖魔術師として貴兄に問う。魔法士セオドア・アンガーミュラー、これは貴方の望まぬことか」

 無表情なフェンガリの、今は秘められた白皙の美貌の中で、その紫紺の瞳だけが圧倒的な意志をもって、暁の星の如くに輝く。

「望むわけがない! 」

 セオドアの血を吐くような叫びに一つうなずき、静かな面に強い拒絶をこめて男たちを睥睨したフェンガリは、この状況に不釣り合いなほど丁寧に魔道具であり、今も術式を発動させ続けている眼鏡を外した。

 そのとたんに現れた、美貌の麗人に、一瞬虚をつかれて固まってい男達から歓喜の叫びが上がった。

「やめろ!!! だめだ! 逃げて、にげてくれ! 」

 ―― フィーッ!!!

 セオドアの凄まじい絶叫が響く。
 いつから気づかれていたのやら。
 フェンガリは、思っていた以上にこの幼馴染の従兄弟に愛されていたようだ。

 今もままならぬ体で必死で叫び続けるセオドアが、ドサリと台座から転げ落ちた。

 身バレは諦めつつ、受け身も取れずに落ちた姿に「うわ、痛そう」と目を丸くするフェンガリにむかって「早く逃げろ! 」とセオドアが、尚も必死で手を伸ばす。

 逃げろと言っても、発情して興奮仕切った男達が、美味そうだと目をつけた獲物が、突然極上のご馳走に変化したのだから、そう簡単に見逃すわけもない。

「そこは、助けてが正解だよー」

 ―― ねぇ、テディ。

 静かに瞳をとじれば、頸に咲いた薊の権能が、場に満ちていく神力巻き上げならが、急速に発動していくのを感じる。

 愛し子に邪な想いを向ける不逞の輩には、加護という名の聖女神よりの呪いが降りかかるのだ。

 彼らにはこの先もう二度と安らかな眠りは訪れまい。自業自得なので、フェンガリの心は一欠片も痛みはしない。

 蔑むように冷たい眼差しをしたフェンガリは、興奮のまま伸ばされる幾本もの腕を身軽な足さばきで軽くいなす。

 セオドアのいる台座から、男達を引き離すように中央へ誘導しつつも、高く腕を掲げたフェンガリは、その腕の先に掴んだ黒縁の眼鏡のつるを、真ん中からぱきりと折った。

「承認請求。第一級緊急術式展開。…… 受領を確認。最優先セオドア・アンガーミュラーの貞操の保護及び対象の確保」

 室内のよどみ切った空気を切り裂くように、澄んだ玲瓏な声が高く響く。清らかな聖魔術の発動のほとばしりに、フェンガリの白銀の髪がきらきらと光をはなって靡く。

『承認要請。受領を確認。術式展開承認』

 怖いくらいに濃厚な神力の気配とともに、虚空を割いてふりそそぐように、許しを叶える声が響いた。

 ――補助魔法陣展開します。

 かつてフェンガリの眼鏡だったものは、今彼の手の上で見事に姿を変えていく。

 二枚のレンズ部分が薄く大きく広がり、また結合し、一つの大きな鏡面にとなった。それを眼鏡の蔓だったものがぐるりと縁取ると。小窓のようになった。

 男達は魔法陣の影響下ゆえ動けない。不自然に足や手を伸ばしたまま、その、浅ましい陰茎も醜く勃起させたままで、強制的に肉体の限界を無視して静止させられている。

 「セオドア・アンガーミュラー。これより行う術式での記録は正式な裁判でも有効です。あなたのプライバシーにはできる限り配慮すると我らが尊き女神に誓いましょう」

 ―― では術式を展開しますか?



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