【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

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魔法士という呪い

3.

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 栗の花臭いローブから身を起こして、またお前かよと半目で睨んでやる。

 「ここは今確認しないともう日程がギリギリなんです。大変お手数ですが、ことがお済みでないのでしたら、続きは移動してお願いします」

 そもそもお願いをする義理もない、フェンガリは仕事なのだ。好んで出歯亀の真似をする性壁は持ち合わせてはいない。

 フェンガリの強い口調に、目を丸くしたセオドアは、すぐに真顔になると「五分くれないか」と扉を閉めた。

 ここで待つのも時間の無駄と、踵をかえしたフェンガリは女神に祈る。願わくは他の部屋も使用中でありませんように。祈られても困るだろうと思いつつ、それでも優しい女神様に祈らずにおれないフェンガリなのだった。

 「終わっ、てない! あと一部屋か~」

 正確にはマッツとカルロに頼んだ分があるのだが、ひとまずは先程邪魔されたあの部屋が済めば、今夜は終われる。

 行為の跡が残ってたら生理的にやだなあ、臭そうだし、でもこれで明日の目処がつくから頑張れ自分! と憂鬱になりそうな気持ちを、無理矢理上げたフェンガリは、気合い入れて眼鏡のつるに手をかけると、念のためと認識阻害の術式を確認した。

 該当の扉の前には、まさかの見知った人影があった。いや、まだ使用中とか言わないよな、と自然に目つきが険しくなっても仕方ないだろう。眉間に刻まれた皺はもはや大渓谷並みに深い。

 本当にいい加減にしてほしい、せめて盛るさかるにして部屋でやれよ変態どもが。
 悪態がとめどもない内心を隠して、足を止めたフェンガリは、人待ち顔の金髪の美丈夫を睨む。

 無言の訴えが効いたのか、おもむろに横に一歩ずれた長身を問うように見上げた。

 「…… 入っても? 」
 「ああ。さっきは、すまなかったな」

 どうやら謝罪の為に残っていたらしい。気まずく見下ろす碧眼に肩をすくめて応えると、フェンガリは扉を開けた。

 ぱっと見情事の痕跡は無いようだ。室内の換気もしてくれたらしく、花に喩えて精神的苦痛を軽減しているが、正直精液の匂いには本気でうんざりしているので素直に有難い。

 勿論礼なんていわないけど。
 とっとと終わらせて明日に備えて寝たいのだ。新命の儀には神力体力もそれなりに必要だ。女神の加護が有ればなおよしで、今回フェンガリが派遣されて来ている。神官の不在が永く続き、この砦の地が女神との縁が薄くなっている事も大きな理由である。

 「…… 」

 さっきから視線が五月蠅い。
 なぜか去らないセオドアが、扉にもたれて作業をするフェンガリをじっと見ている。
 フェンガリから声をかけるのを待たれている気配に、面倒事の匂いを感じるので、あえて無視を決め込む事にした。これ以上の関りは御免なのだ。

 ―― 早く帰れよ! 

「なあ、もう帰るのか? 」

 いや、お前が帰れよと小さく呟いて振り返ると、なにやら酷く萎れた素振りのセオドアが、肩を落として、じっと返事を待っていた。

「……明日神殿の儀式が終われば、任務完了ですので帰還しますね」

 応える義理も無いのだが、背中を丸めた姿に六歳のテディの幻が見える。

 古い愛情は煮詰まって煮詰まって煮凝りにこごりまくって、もはや呪いのようだ、とため息をひとつついたフェンガリは、観念してセオドアに向き直った。だが譲歩はそこまでだ。言いたいことがあるのはそちらだろうと、無言で促す。

「…… 」
「…… 用事が無いなら、通して貰えるかな? 」

 見つめ合う事数分。
 未だ口を開く様子の無いセオドアに、痺れを切らしたのはフェンガリの方だったが、扉を背にしたセオドアは、それでも動く様子を見せない。

 疲れて眠いし仕事の邪魔ばかりされて苛々するしで、フェンガリの我慢もそろそろ限界が見える

「…… 俺に何か? お楽しみを邪魔した事なら謝りますけど? 」

 大袈裟に肩をすくめて見せれば、盛大な顰めっ面が返って来た。

 「…… 別に楽しんではいない……」
 「…… そうですか」

 それなら良かったですと小さく呟いてフェンガリは視線を落とした。セオドアの色味の強い瞳で、見つめられると、認識を阻害する筈の術式を透かして、本物のフェンガリを見つけられてしまいそうな気になる。

 無言でも俯く旋毛のあたりに、カロッタ越しでも視線が刺さりそうな圧を感じる。そんなセオドアの様子に、何がしたいのかさっぱり見当がつかなくてフェンガリは戸惑う。

 このままでは埒があかないと、強引に押し通ろうと足を出した時だった。
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