【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

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魔法士という呪い

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 魔力切れによる激しい性衝動は理論で説明がつく。
 魔力の枯渇が魔力回路の生存本能を呼び覚まし、生き物の本能である性欲と結びつく。

 生きたい、生き延びるという本能が魔力回路と性欲を結びつけるのだ。

 そして性交を通じて魔力の交換を行う事により、互いの魔力回路を活性化させるというのは、命のやりとりを日常としていた古の魔法士にとって必然だったのだろう。

 しかし魔力操作や魔術の発達した現代においては、それはもはや因習に近く、近代的な倫理教育を受けた若い世代には受け入れられなくなって来ているのもまた事実である。

 王国の秩序と安全を、その身をかけて守護する魔法士。かつては彼らに逆らうものは実力行使で排除された。それがひっくり返ったのが「マグワイアの悲劇」以降だ。

 古くからの歴史を知る知識層の中には、マグワイアの次期当主である金獅子がヘリオスコープの妖精姫を伴侶に望んだ時に、これから起こるなんらかの変化の萌しを感じ取ったものもいたという。彼らは水と油であり、混じり合えない事で、尚更求める。大抵はマグワイアが渇望しヘリオスコープが与える。そして満たされなければ破綻する。

 それぞれの家門でも類稀な二人の婚姻の破綻は、それ相応の悲劇を産んだという事だ。それにより魔力回路への性行為以外での魔力補填が新たな常識となった。

 中央では既に、肉体による魔力補充を頑なに守ろうとする魔法士は、時代遅れの遺物であり、倫理観の欠如に加えて、新しい流れを受け入れる資質に欠けると評価されて暗に出世の道は閉ざされがちだ。

 だからこそ、左遷先としてのこの砦に、風紀の乱れた輩が多く集う事態にもなっているのだろう。

 そういったあらゆる事の結果として、今フェンガリがここにいる。大人の事情に巻き込まれて傷つけられた小さな子供が、懸命に生きて今ここにいるのだ。そんな若者をこれからも護り、そして育ててやりたいとマッツは思う。

 カルロがいたらきっと同じ事を言うだろう。彼らの父性とは、庇護するべき幼い命の未来を護り慈しみ成長を願う心だからだ。

 マッツは抱きついてくるフェンガリの華奢な肩を、一度ぎゅっと抱き返してやってから、そっと離した。不思議そうに見返してくるフェンガリに差し出すのは、彼の姉から言付かった小さな包み。巾着タイプのマジックバックだ。

 中身は大聖女である彼らの母が手づからこしらえた「おやつ」である。

 「あっ、母さまのグラッセ」

 ぷんと高く薫るのはブランデーの香気、追いかけるように砂糖の甘い香りがたつ。
 一粒摘んで差し出してやれば、嬉しそうに口を開けてくるので、笑いながら放り込んでやった。

「う、うま! これ懐かしいー」

 秋の定番おやつ、栗の果樹園あったから、と頬を膨らませて頬張るフェンガリは、その栗林が「どこの家」にあったのか、思い出したようで、急にしょんぼりと肩を落とした。

 「栗の…… 匂いきらい」

 臭いから…… と消え入りそうな声で呟くのは、頭の中に浮かんでいるのが、植物では無いからだろう。

「伝言だ。『花は実を結ぶ為に咲くのだから、実ったら美味しく食べてしまえばいいのよ』だと」
 ぽかんと見上げる夜明けの瞳が溢れそうなほど見開かれて、そして解けるように一息で破顔した。
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