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薊という名の加護で呪い

3.

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 一度だけ、手紙が来た。
 王立の魔法学園への進学をやめたフェンガリが、神殿で学び始めた頃だ。

 そもそも魔法士の卵の育成を主軸に構えた学園に、進学する選択肢は姉にもフェンガリにも無かったのだが、あの従兄弟は、それでも待っていたくれたらしい。

 辛かった。
 同じくらい嬉しいと思った。

 結局心と体の正反対の反応にばらばらに引き裂かれそうになったフェンガリは、高熱を出して寝込んでしまったのだが。

 彼の記憶は、そのほとんどが消えてしまった。

 そうしなければ生きていけない自分が、とても情け無くて、苦しくて、悲しかった。

 会えばまた、傷つけるだけなのに、朧げな記憶の幼馴染は、淡い光をまとって、笑いかけては、フェンガリの胸を甘く締め付ける。同時に喉を焼く胃酸に、二度と会う事は叶わないのだという、現実も突きつけられる。

 弱さは罪ではない。
 愛しさは罰ではない。
 それでも。


 苦しく愛しくて感情が暴れる。
 だから手紙を書いた。
 送れるはずも無いけれど、書かずにはいられなかった。


 親愛なるセオドアへ。

  手紙をありがとう。でも会えない。
 ごめんなさい。
 俺は、何より、また君を傷つけるのがいやなのです。

 俺はもう痛みに理由を探したりしないんだ。傷があるなら治療すればいいって立ち上がって手当てをしようと思うんだ
 
 もし治療方法がないなら、見つければいい
俯いて痛みの理由を誰かに探したりとか出来ないししたくないし意味が分からない

 だから俺は、君のそばにいない方がいい。

 君の隣にいたあの頃の幼い俺は、マグワイアの血に心も魂も砕かれて、消えてしまいたいって一度は思ったけど、ヘリオスコープの家族が俺たちを、もう一度人間に育て直してくれたから。

 君の知る従兄弟の俺は、あの時に死んでしまった。

 ここにいるのはヘリオスコープの息子の俺だ。

 そしてそんな俺は君を理解できないから、きっとひどく傷つける。

 ヘリオスコープの魂は女神様のお墨付きなんだ。真っ直ぐで強かで強いから優しくて。

 そんなヘリオスコープの一族にマグワイアは代々惹かれてきた。うまく行った時もあるけど、だめな時は致命的に拗れてる。

 もう俺は、傷の痛みにただ怯えて震える人の気持ちがわからない。
 俺の傷は俺が抱えて歩いていく俺の大切な一部だ。

 ごめんな。

 きっと俺がわからない事で、君は苦しむだろう。
 俺の両親のように、そこに愛があるならばなおさら君に耐え難い痛みをもたらすだろう。

 きっとそれは、永遠に治らない血を流し続ける傷になる。

 絶望に染まった君の瞳を覚えてる。
 俺は君の致命傷になんてなりたくないんだ。

 だから、もう会わない。
 でもいつだって幸福を祈ってる。

 君は俺の大切な幼馴染の従兄弟のセオドアだから。

 それだけ覚えてて。
 さよなら元気で、俺の大好きなテディ。
 元気でね


 送れなかった手紙は、まだフェンガリのクローゼットの奥に仕舞われたままである。
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