【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

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蜘蛛はのろくないけど呪い

2.

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 早急に対策するべき事態と中央では当に認識されて、愚か者に任せて良い時代は終わったと、視察が終われば綱紀粛正で人事が刷新される事は今や明白なのであった。
 

 賢王の時代の出城をそのまま砦として使っているから、土台はまだまだしっかりしてる。

 こまめに手を入れてやれば、一世紀は余裕で使える頑丈さだ。

 それなのに定期修繕の要望も上がってないと、騎士のカルロが眉をひそめた。

 到着の挨拶に訪れた大隊長以下の執務室は、整理されてない書類が高く埃をかぶっていた。

―― 申請書とか稟議とかめんどくさくて放置してんだろうなー。

 新兵に実戦経験つませたいと本気で思ってるなら、上層部はじめベテランはそれなりの人材を配置するべきである。左遷された閑職が熟せる業務ではないはずだ。

 すすけた石壁の隅にかかってる蜘蛛の巣を見上げて、フェンガリはため息をつく。
 先ぶれ程度のお気楽な任務ですと言われてやって来たのに話が違いすぎる。

―― ついでにあれ、蜘蛛じゃないじゃん、蜘蛛型の魔獣の幼生じゃん。砦に入り込まれてるじゃん!!! お外から帰ったら、入口できちんと浄化の魔法陣回してこいじゃん!!

「じゃんじゃんうるせー!!! 」

 心の声のつもりが口に出ていたらしい。
 マッツが青筋をたてながら焼き払っていく。魔獣の巣だけをピンポイントで燃やしてる辺り流石である。

「しかし、想定外に酷いなここ」
「問題なしで報告上げてた前回までの監査自体に問題ありだな」
「……」

―― まったく同感である。

 さきほど無意識で漏らしてしまっていた声に、表情筋と口を引き締めているので、フェンガリは二人の言葉には激しくうなづき同意を示しておく。

「とりあえず、手分けしてチェックしてくか」
「あーあ、重労働だぞこれ。ちょっと隊長に言って人員融通してもらおうぜ」
「……(こくこく)」

 うなずきながらも浄化をかけていく。
 二人ともフェンガリの事情については、任務を受けた時に説明されていた。それなので人前では、出来るだけ喋るなと厳しく言われているのも知っている。

 時々生ぬるい目で見られている気がするが、気のせいであると信じている。

 そういう二人なので神殿上層部からの信頼も厚く、フェンガリシフト正レギュラーは確定なのだった。

 この才気あふれる、少しどころでなくかなり危なっかしい、美しい若者の成長を見守りたいと思っている人間は、神殿の中以外にも一定数いるのであった。

 高く取られた石造りの天井に、魔道灯の影がゆらゆらと揺れている。
 その影の中を、ちらちらと動く小さな影が見えるんだけど、どんだけ入り込まれてんだこれ?

 こうしてフェンガリの遠征任務の初日は浄化魔法をかけまくって終わったのだった。



「疲れた」

 割り当てられた宿舎のベッドに倒れこむと、よろよろしながらも、頭上のカロッタをサイドボードへ丁寧に乗せる。

「ねえ様、俺にやらせたいことって、蜘蛛の巣払いと海狗 オットセイの調教なの―? 」


 薄紫のカロッタは姉のものだ。
 風紀課長としての調査依頼とフェンガリの道中の無事を祈ると、手ずから被らせてくれたものだ。

 姉と弟は頭の形も似ていたらしい。
 姉のオーダーメイドのカロッタは、フェンガリの頭にもぴったりと合った。ばふんと枕に顔から突っ伏す。

 ふぃーっと満足そうに、体から力を抜くと、極楽はここにあったのかと真理にたどり着いた気分のフェンガリである。

 与えられた部屋は、砦の魔法士用の宿舎だった。一応の掃除はされている感じだったが、鼻につく独特な匂いが気になって、入るなり極大で浄化済だ。

「やるけども、前途多難っぽいよ、姉さまー……」

 カロッタに頬を寄せる。多忙な姉の露払いなら喜んで。
 むしろシスコンの面目躍如的などんとこい感で覚悟を決めたので、明日から馬車馬のように働く所属です、シスコンだから。

 引き寄せたカロッタからは、かすかに姉の髪の香りがする気がする。風呂に入りたいが魔力を消費しててだるいし、長旅で疲れてるのに海狗オットセイの群れと遭遇するし。

 魔力消耗してるんじゃないのか、と夢の中で姉があきれている。

「これくらならへいきー」 

 へらっと笑って、自分自身にも浄化の魔法をかけたフェンガリは、夢の中でも美しい姉におやすを告げると、そのままスコンと気持ちよく意識を手放した。
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