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蜘蛛はのろくないけど呪い
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以前、最後の神官長が離任するおりに、砦併設の神殿も祭祀場も術的に閉めたはずだから、この砦に女神様の濃い加護が感じられないのは仕方ない。
砦から歩いて三十分ほどの村にも神殿はあるから、穢れの浄化やちょっとした祈祷なんかは、そこで受けられる。つまりその程度で足りる任務しかないと判断されて砦併設の神殿は閉めらている。
そもそも低木が中心のなだらかな丘陵地で、隣国の国境も近く、両方向から警備の目が効いている。
さらに生息するのもワーム型の魔獣が中心で、危険度も低い。その為、騎士団も魔法師団も新兵が経験値稼ぎに配置される事が多く、熟練者についてはぶっちゃけ左遷がメイン。人材の墓場的な異動先であり、つまり防衛拠点としての重要度は低いのである。
今までは。
今年ここを三十数年ぶりの旱魃が襲った。近隣に王領が控えてるこの地域は、すぐに国からの救援が入ったので、人々の暮らし的にはそれほど困窮してないのは流石である。
日照りにあてられて、地面に埋めるタイプの卵が孵らないので、魔獣の出没も少なく、砦は常にない平和な夏を迎え、明らかに油断して士気は緩んでいた。
夏が終わるとともに、雲も戻ってきて雨も十分に降った。
おかげで森の恵みは今年も変わりなく実ってるらしい。そう聞いたフェンガリも薬草採取のついでに、キノコやらベリーなんか詰めるんじゃないかと楽しみにして来たのだ。
人の手が入ってない自然の恵みは滋味が一味もふた味も上等なので是非とも採取したい。
フェンガリお手製のマジックバックは時間経過も止まるやつだから、しまっておけば調理前にとりたてのを使える優れものである。備品として支給するやつを、自分用にいじってもはや別物の次元まで改造済みなので使い勝手は抜群だ。
髪留めに結界術式しこむとか、アクセサリーや小物の細工はフェンガリが得意とするところなのであった。
とはいえこの平和な風景も、実は嵐の前の静けさなのであるが、砦を預かる大隊長どの以下魔法士団まで、まるで危機感がないのが問題だった。
麓の村の村長に古老、はては村在任の神官長からも警告がなされたというのに、言い伝えなど信じるのかと、鼻で笑って一向に備える気配がない。
言い伝えはおとぎ話でなく、先人の知恵であり警告である。訪れる事がほぼ確定の危機に備え無いのは愚か者の所業であると、平和ボケした砦の部隊に、豪を煮やした村長から神殿経由で訴えが上がってきた。状況から事態を重く見た王都上層部が、来月本格的な視察を入れる事になった。
おそらくこの、その視察が終わった後には強めの人事異動があるだろう。大きな危機に備えるには、今の砦の面子では難しい。
乾期の間、夏に孵るはずだった卵は休眠状態に入る。ワーム種は単純な命だが、だからこそ生命力も強い。今年孵らなかった卵はそのまま冬を越し、気温と湿度が最適になった時に孵化する。
一方在来の成虫も個体数の一時的な減少により、潤沢になった食糧の恩恵を受ける。そして熟された個体は種の保存の本能に則り、減少した個体を補うように通常より2~3倍の産卵をするのだ。
そしてその卵は来年の夏一斉に孵化し、森を食べ尽くした群れは食糧を求めて移動を開始する。
そうなればスタンビートの始まりであった。
砦から歩いて三十分ほどの村にも神殿はあるから、穢れの浄化やちょっとした祈祷なんかは、そこで受けられる。つまりその程度で足りる任務しかないと判断されて砦併設の神殿は閉めらている。
そもそも低木が中心のなだらかな丘陵地で、隣国の国境も近く、両方向から警備の目が効いている。
さらに生息するのもワーム型の魔獣が中心で、危険度も低い。その為、騎士団も魔法師団も新兵が経験値稼ぎに配置される事が多く、熟練者についてはぶっちゃけ左遷がメイン。人材の墓場的な異動先であり、つまり防衛拠点としての重要度は低いのである。
今までは。
今年ここを三十数年ぶりの旱魃が襲った。近隣に王領が控えてるこの地域は、すぐに国からの救援が入ったので、人々の暮らし的にはそれほど困窮してないのは流石である。
日照りにあてられて、地面に埋めるタイプの卵が孵らないので、魔獣の出没も少なく、砦は常にない平和な夏を迎え、明らかに油断して士気は緩んでいた。
夏が終わるとともに、雲も戻ってきて雨も十分に降った。
おかげで森の恵みは今年も変わりなく実ってるらしい。そう聞いたフェンガリも薬草採取のついでに、キノコやらベリーなんか詰めるんじゃないかと楽しみにして来たのだ。
人の手が入ってない自然の恵みは滋味が一味もふた味も上等なので是非とも採取したい。
フェンガリお手製のマジックバックは時間経過も止まるやつだから、しまっておけば調理前にとりたてのを使える優れものである。備品として支給するやつを、自分用にいじってもはや別物の次元まで改造済みなので使い勝手は抜群だ。
髪留めに結界術式しこむとか、アクセサリーや小物の細工はフェンガリが得意とするところなのであった。
とはいえこの平和な風景も、実は嵐の前の静けさなのであるが、砦を預かる大隊長どの以下魔法士団まで、まるで危機感がないのが問題だった。
麓の村の村長に古老、はては村在任の神官長からも警告がなされたというのに、言い伝えなど信じるのかと、鼻で笑って一向に備える気配がない。
言い伝えはおとぎ話でなく、先人の知恵であり警告である。訪れる事がほぼ確定の危機に備え無いのは愚か者の所業であると、平和ボケした砦の部隊に、豪を煮やした村長から神殿経由で訴えが上がってきた。状況から事態を重く見た王都上層部が、来月本格的な視察を入れる事になった。
おそらくこの、その視察が終わった後には強めの人事異動があるだろう。大きな危機に備えるには、今の砦の面子では難しい。
乾期の間、夏に孵るはずだった卵は休眠状態に入る。ワーム種は単純な命だが、だからこそ生命力も強い。今年孵らなかった卵はそのまま冬を越し、気温と湿度が最適になった時に孵化する。
一方在来の成虫も個体数の一時的な減少により、潤沢になった食糧の恩恵を受ける。そして熟された個体は種の保存の本能に則り、減少した個体を補うように通常より2~3倍の産卵をするのだ。
そしてその卵は来年の夏一斉に孵化し、森を食べ尽くした群れは食糧を求めて移動を開始する。
そうなればスタンビートの始まりであった。
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